Brush Up! 権利の変動篇

賃貸借の過去問アーカイブス 昭和55年・問14 民法と借地借家法


不動産の賃貸借について,次の記述のうち,誤っているものはどれか。(昭和55年・問14)

1.「借地借家法制定前に設定された建物の所有を目的とする土地の賃貸借について,期間の定めのない場合には,その建物の朽廃したときは,借地権は消滅する。」

2.「建物の賃貸借において,建物が火災で滅失した場合,その賃貸借は終了する。」

3.「建物の所有を目的とする借地権の譲渡について,常に賃貸人の承諾が必要であるとは限らない。」

4.「建物の賃借人が相続人なくして死亡した場合,賃借人と同居していた者は,どのような者であっても立ちのかなければならない。」

【正解】

×

1.「借地借家法制定前に設定された建物の所有を目的とする土地の賃貸借について,期間の定めのない場合には,その建物の朽廃したときは,借地権は消滅する。」

【正解:

◆旧・借地法での規定−朽廃により借地権は消滅

 借地借家法の施行後であっても,旧・借地法当時〔〜平成4年7月31日〕に設定された『期間の定めのない借地権』(法定更新を含む)については,借地上の建物が朽廃した場合,旧・借地法の規定が適用され,借地権は消滅します。(借地借家法・附則5条,旧・借地法2条1項,旧・借地法5条1項後段) → 出題・平成13年・問12・肢4

借地借家法・附則・第5条 (借地上の建物の朽廃に関する経過措置)

 この法律の施行前に設定された借地権について,その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては,なお従前の例による。

2.「建物の賃貸借において,建物が火災で滅失した場合,その賃貸借は終了する。」

【正解:

◆滅失による賃貸借の終了

 賃貸借の目的物〔本肢では建物〕が全部滅失したり,朽廃などで全部が使用不能となったときは,賃貸人の債務は消滅し,賃貸借は終了します。なお当事者に帰責事由がある場合は,損害賠償の問題になります。(判例)

3.「建物の所有を目的とする借地権の譲渡について,常に賃貸人の承諾が必要であるとは限らない。」

【正解:

◆借地権の譲渡・転貸には,借地権設定者の承諾またはそれに代わる裁判所の許可が必要

 確かに民法では,賃借人は賃貸人の承諾がなければ,賃借権を譲渡したり,賃借物を転貸することはできません〔承諾は賃借権の譲渡・転貸の後でもよい。〕もし賃借人がこれに反して第三者に賃借物の使用収益をさせたときは賃貸人は解除することができます。(民法612条)

 しかし,借地借家法や判例では,第三者が使用収益したことを理由にして問答無用に解除することには修正や制限をしています。したがって,<常に賃貸人の承諾が必要であるとは限らない>ということです。

借地借家法
 借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に,借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず借地権の譲渡・転貸について承諾しないときには,裁判所は借地権者の申立てにより承諾に代わる許可を与えることができます。(借地借家法19条1項)

判例・信頼関係破壊の理論
 賃借人の行為が賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合には612条の解除権は発生しない。(最高裁・昭和28.9.25)

4.「建物の賃借人が相続人なくして死亡した場合,賃借人と同居していた者は,どのような者であっても立ちのかなければならない。」

【正解:×

◆相続人がいない場合の賃借権の承継

 民法では同居人の賃借権承継については規定がありませんが,借地借家法では次のように規定されているので,必ずしも<賃借人と同居していた者は,どのような者であっても立ちのかなければならない>ということにはなりません。

 居住用建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合に,婚姻や養子縁組の届出をしていなくても,事実上の夫婦や養親子の関係にあった同居人があるときには,原則として,その同居者が賃借人の権利義務を承継します。(借地借家法36条1項本文)
 しかし,いくら思い出のある建物だとしても,内縁関係にある二人でならば家賃を払えても一人になっては払えないこともあり残された同居人が承継を望まない場合もあります。このため,相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に,承継しない意思を賃貸人に表示したときには,同居人は賃借人の権利義務を承継しないことになっています。(借地借家法36条1項但書)

この借地借家法の規定は任意規定なので特約で排除すること(「賃借人が相続人なくして死亡しても同居人は借家権を承継しない」と定めること)ができます。「→平成7年問13出題


賃貸借のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動のトップに戻る