Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
担保物権の過去問アーカイブス 平成10年・問3 債権質〔設定・対抗要件・直接取立権〕
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
建物の賃借人Aは,賃貸人Bに対して有している建物賃貸借契約上の敷金返還請求権につき,Cに対するAの金銭債務の担保として質権を設定することとし,Bの同意を得た。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。 (平成10年・問3) ←類題・平成13年問9肢2、平成14年に出題 |
【債権質】 賃借人A ―――――――――→ 賃貸人B Aは質権設定者、Cは質権者、Bは第三債務者といいます。 ▼質権設定の意味 Aの敷金返還請求権を質権の目的物にして,もしAが金銭債務を弁済できないときは,Aの敷金返還請求権をBに行使することにより直接敷金を取り立て,質権者Cは自己のAに対する債権額の範囲で,Bからの取立金を弁済に充当することが認められています。(民法367条1項、2項) Aの敷金返還請求権に質権が設定されると,差押と同様の効果をもち,以後第三債務者BはAに弁済することを禁じられたものと解されています。(通説・判例) ▼敷金返還請求権は、明渡し時に発生 賃借人 : 家屋の明渡し→賃貸人 : 敷金返還 |
●債権質の法改正 |
363条 債権にしてこれを譲渡すにはその証書を交付することを要するものを以って質権の目的と為すときは質権の設定はその証書の交付を為すに因りてその効力を生ず。
改正前は,債権に質権を設定する場合は,その債権について証書があれば,その証書を交付することが質権設定の効力発生要件でしたが,この規定が一部の債権を除いてなくなりました。債権証書といっても何が該当するものなのか不明瞭なものが多く,この規定によりトラブルになるケースが多かったためです。 ただし,債権を譲渡するときに証書の交付が必要な債権〔手形債権など〕は改正前どおりです。〔手形債権などは債権の証書の引渡しによって質権設定の効力が発生する。〕 |
1.「Aは,建物賃貸借契約が終了し,AからBに対する建物の明渡しが完了した後でなければ,敷金返還請求権について質権を設定することはできない。」 |
【正解:×】 ◆債権質の設定時期 B (賃貸人) 問題文では、建物の明渡しが完了した後でならないと質権を設定できないとしていますが、建物の明渡しの前でも敷金返還請求権に質権を設定できます。 これは、質権は、現存する債権だけでなく、将来発生する債権にも質権設定は可能とされているからです。 |
2.「Cが質権の設定を受けた場合,確定日付のある証書によるAからBへの通知又はBの承諾がないときでも,Cは,AB間の建物賃貸借契約証書及びAのBに対する敷金預託を証する書面の交付を受けている限り,その質権の設定をAの他の債権者に対抗することができる。」 |
【正解:×】 ◆指名債権質の対抗要件 B (賃貸人) 質権の設定をAの他の債権者(第三者)に対抗するためには、確定日付ある証書でAからBへの質権設定の通知、またはBの承諾がなされていることを要します。(民法364条1項、467条2項) 本設問では、前半の「確定日付のある証書によるAからBへの通知」は正しくても、 Bの承諾がないときでも、Cは、AB間の建物賃貸借契約証書及びAのBに対する敷金 となっているため、×になります。 ▼Aの他の債権者=「質権者C以外の、Aに対する債権者」として解説しました。 ▼指名債権・・・特定の者に弁済することになっている債権 ▼指名債権の質入は、債権を目的にした質権なので、債権譲渡に似た効力を持っています。そのため、債権質の対抗要件は債権譲渡と似たものになっています。 |
3.「Cが質権の設定を受けた後,質権の実行かつ敷金の返還請求ができることとなった場合,Cは,Aの承諾を得ることなく,敷金返還請求権に基づきBから直接取立てを行うことができる。」 |
【正解:○】 ◆債権の取立てによる質権の実行 B (賃貸人) 質権の設定後、敷金返還請求権の弁済期が到来していれば、CはAの承諾がなくても、(質権の目的である)敷金返還請求権に基づいて、Aに対する債権額の範囲で、Bから直接取り立てることができます。(民法367条1項、2項) |
4.「Cが,質権設定を受けた後その実行ができることとなった場合で,Bに対し質権を実行する旨の通知をしたとき,Bは,その通知受領後Aの明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については敷金から充当することができなくなる。」 |
【正解:×】 ◆敷金返還請求権は何に対して生じるか B (賃貸人) 敷金は、建物明渡し完了前に生じる損害を担保するものです。敷金の返還請求権は、建物明渡し完了前に生じた損害を、敷金から控除した残額について生じます。(最高裁・昭和48.2.2)本設問のケースでは、敷金から賃料相当損害金を差し引いた残額に対して、敷金返還請求権が生じることになります。 質権に設定された、敷金返還請求権もこれを基にしています。 したがって、明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については、Bは、敷金返還請求権が質権設定を受けた後でも、敷金から充当することができます。 |
●類題 |
1.「Aは,BからB所有の建物を賃借し,特段の定めをすることなく,敷金として50万円をBに交付した。この場合のAのBに対する敷金返還請求権に関する次の記述は,民法の規定及び判例によれば,○か×か。 敷金返還請求権は,賃貸借契約と不可分であり,Aは,Bの承諾があったとしても,これをAの債権者に対して担保提供することができない。」類題・平成13年問9肢2 |
【正解:×】 【質権の例】 B (賃貸人) 敷金返還請求権は、建物の明渡しによって発生しそれまでは金額が未確定の条件付債権ですが、質権などの担保として提供することができます。 (敷金契約と賃貸借契約は別の契約であり、敷金返還請求権は賃貸借契約とは別個の権利です。敷金契約は賃貸借契約の従たる契約ではあっても、賃貸借契約と不可分だとは言えません。) |