Brush Up! 権利の変動編

正解・解説

債権譲渡の過去問アーカイブス 昭和61年・問10


【正解】

× × ×

は,に対して有する売買代金債権を,に譲渡した。この場合,民法の規定によれば、次のそれぞれの記述は、○か、×か。(昭和61年・問10)

1.「に譲渡の通知をしても,の承諾がなければに対し債務の履行を

請求できない。」(昭和55年)

【正解:×

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | AからBへ債権譲渡の通知
 (債務者)
  BがA or Cに、承諾する。

Cが債務の履行を請求するには、

AからBに債権譲渡の通知

債務者Bが元の債権者A または 譲受人Cへ承諾

 このうちのどれかがあればよく、本肢は「譲渡の通知とBの承諾が両方とも必要」と言っているので×になります。

2.「に対して確定日付のある証書による通知をすれば,に対し

債務の履行を請求できる。」履行を請求できる。」(類 : 昭和54年)

【正解:×

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  |                     
 (債務者)  ←――――――――┘ CからBへ債権譲渡の通知

 譲受人Cの債務者Bへの対抗要件としての、債務者への通知は、元債権者である譲渡人Aがしなければいけません

 本肢での、『確定日付のある証書』はメクラマシで、譲受人Cの債務者Bへの対抗要件では『確定日付のある証書』は登場しません。

譲受人Cからイキナリ債権譲渡の通知がきても、何の事情も知らない債務者Bは警戒心を持ち信用できないため、譲渡人(元の債権者)Aからの通知にしています。債権譲渡により権利を失う譲渡人からの通知なので信用できるということです。

●補充問題
に対し,不動産売買の代金2,000万円の債務を負っていたところ,から内容証明郵便での債権を譲り受けた旨の通知がに対してあった。その後からに対して,に債権譲渡をした旨が口頭で通知された。は誰に対して,債務を弁済しなければならないか。(昭和54年)

 1.
 2.
 3.
 4.及び

【正解:

◆債務者への通知は,譲渡人〔元の債権者〕から行う

               債権譲渡 ┌―→ (譲受人?) CからAへ債権譲渡の通知
 (債権者、譲渡人)――――――――→ (譲受人)  
  | BからAへ債権譲渡の通知
 (債務者) 

 本設問はヒッカケ問題です。確定日付のある証書による通知と口頭による通知の優劣を問う問題ではありません。

 債務者への対抗要件を問う問題で,上の昭和61年の問題と同工異曲です。

 譲受人CまたはDの,債務者Aへの対抗要件としての、債務者への通知は、元債権者である譲渡人がしなければいけません

 への通知は,確定日付のある証書ではあっても,譲渡人が通知したのではないため,そもそもへの対抗要件を満たしていません。

 『へ譲渡した』というに対する通知は口頭でもよいので,への譲渡がに対する対抗要件を満たしており,に対して債務を弁済することになります。

3.「当該債務につき譲渡禁止の特約が付されているときは,当該特約の存在につき

が善意であっても,に対し債務の履行を請求できない。」

【正解:×

◆譲渡禁止特約は、善意かつ無重過失の譲受人に対抗できない

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | 債権譲渡禁止の特約
 (債務者)

 債権譲渡禁止の特約に違反して、債権者が債権を譲渡した場合は、原則としてその債権譲渡は無効になります。ただし、譲渡禁止の特約について、譲受人が善意であり、かつ、重過失でなければ、譲受人は有効に債権を取得します。(民法466条2項、最高裁・昭和48.7.19)

●関連問題
1.「債権譲渡禁止の特約は,第三者が悪意であれば,対抗することができ,債権譲渡は効力を生じない。」
【正解:

               債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人) 悪意 → 債権譲渡は効力を生じない 
  | 債権譲渡禁止の特約
 (債務者) 

 最高裁・昭和52.3.17による。

2.「との間に債権の譲渡を許さない旨の合意がある場合であっても,Cに対する譲渡を追認したときは,Cは,債権を取得することができる。」
【正解:

               債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | 債権譲渡禁止の特約
 (債務者) 
 債権譲渡を追認

 判例では、Cが悪意または重過失であっても、債務者が債権譲渡を追認(承諾)すれば、債権譲渡は遡って有効となり、譲受人は債権を有効に取得します。しかし、この場合でも、追認の前に生じた第三者の権利を害することはできません。(最高裁・平成9.6.5)

 したがって、譲受人の善意・悪意に関係なく、譲渡禁止の特約があっても、債務者が追認すれば、第三者の権利を害さない限り、譲受人は債権を取得できます。

●債権譲渡の対抗要件の整理 債務者の追認(承諾)があったとき
 債務者への対抗要件  債権譲渡のときに遡って有効になる。
 債務者以外の第三者への対抗要件  確定日付のある承諾時より、第三者に
 対する対抗力が生じる。 
3.「譲渡禁止の特約がある債権については,差押えをすることができない。」
【正解:×

  (差押債権者)
                
  (債権者)  
   | 債権譲渡禁止の特約
   (債務者)
    裁判所から差押命令が送達

 差押えを制限する規定はなく、譲渡禁止の特約がある債権でも、の債権者は、自らの債権を回収するため、差押えをすることができます。

 差押は、差押債権者が裁判所に債権執行の差押命令の申立をして、裁判所は適法かどうか審査して、差押命令をに送達します。

 差押命令が発せられると、差押の効力として、その債権の処分は禁止され、債権者Aは債務者Bからの弁済を受領する権限はなくなります。(債権の譲渡や免除もできなくなります。) もし、差し押さえられた債権に抵当権などの担保がついていれば、担保権も差し押さえられます。

 また、債務者Bも債権者への弁済を禁じられます

差押の効力は、差押命令がに送達された時に生じます。(民事執行法)

4.「当該債権につきが保証債務を負っているときは,に譲渡の承諾をすれば,

に対し保証債務を負うことになる。」cf.平成12年・設問4・関連問題

【正解:

◆保証債権は、原則として、譲受人に移転

             債権譲渡
  -―――――――(債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
 
           |
 
|保証債務    (債務者)
 (保証人)       BがA に承諾する。

 債務者BがAに 譲渡の承諾 → 債権譲渡は対抗力をもつ

 債権譲渡とは、債権の同一性を保ったまま、契約によって債権を移転することです。(民法466条1項) このため、抵当権などの担保権保証債権抗弁権利息債権などの従たる権利も原則として譲受人に移転します。

 この結果、Aの債権の保証債務を負っているDは、譲受人Cに対して、保証債務を負うことになります。(保証債務の随伴性)


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