Brush Up! 権利の変動篇

制限行為能力者の過去問アーカイブス 

意思無能力者・婚姻による成年擬制・成年被後見人・被保佐人 (平成15年・問1) 


意思無能力者又は制限行為能力者に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成15年・問1)

1.「意思能力を欠いている者が土地を売却する意思表示を行った場合,その親族が当該意思表示を取り消せば,取消しの時点から将来に向かって無効となる。」

2.「未成年者が土地を売却する意思表示を行った場合,その未成年者が婚姻をしていても,親権者が当該意思表示を取り消せば,意思表示の時点に遡って無効となる。」

3.「成年被後見人が成年後見人の事前の同意を得て土地を売却する意思表示を行った場合,成年後見人は,当該意思表示を取り消すことができる。」

4.「被保佐人が保佐人の事前の同意を得て土地を売却する意思表示を行った場合,保佐人は,当該意思表示を取り消すことができる。」

【正解】

× × ×

1.「意思能力を欠いている者が土地を売却する意思表示を行った場合,その親族が当該意思表示を取り消せば,取消しの時点から将来に向かって無効となる。」

【正解:×

◆意思無能力者の法律行為は無効

 民法の条文としては,意思無能力者についての明文の規定はありませんが,判例では,『意思を基礎に行為は成り立つのであるから,意思無能力者の行為は無効である』,としています。〔大審院・明治38.5.11〕

 本肢でのポイントは,『意思無能力者〔意思能力を欠く者〕がした法律行為は始めから無効』,ということです。

誰が意思無能力者の法律行為の無効を主張できるか

 意思無能力者のした法律行為が無効であることを誰が主張できるかという論争があります。これは試験には出ないと考えられます。

従来の説 : 誰からも主張できる。〔意思無能力者の法律行為の相手方からも主張できるとする考え方。〕

最近の多数説 : 意思無能力者の側からのみ主張できる。〔無効は意思無能力者を保護するためのものなので,保護されるべき意思無能力者の側のみが主張できる。〕

意思能力・・・自己の行為の結果を認識し判断できるだけの精神的な能力。

 意思無能力者とは, 「精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況」にあっても,後見開始の審判を受けていない者がこれにあたる。このほかには,泥酔者・幼児など。

 一般に,7歳程度の知的判断能力があれば,意思能力があるとされる。

2.「未成年者が土地を売却する意思表示を行った場合,その未成年者が婚姻をしていても,親権者が当該意思表示を取り消せば,意思表示の時点に遡って無効となる。」(平成11年・問1・肢3)

【正解:×

◆婚姻による成年擬制

 未成年者が婚姻をしたときは,成年に達したものとみなされ,単独で法律行為をすることができ,未成年を理由として取り消すことはできなくなります。

 未成年者が婚姻したときは,これによって成年に達したものとみなす。(753条)

 未成年者が婚姻したときは,民法上は成年者の扱いをします。したがって,婚姻の後は法律行為をするのに親権者や未成年後見人の同意は必要ではなくなります。婚姻をしても法定代理人の同意が必要ということになると,独立した家庭を営むことはできなくなってしまいます。

このほかには,成年擬制によって以下のものが可能になります。

 例・認知されることへの承諾(782条),養子をとること(792条),遺言の証人又は立会人になること(974条),遺言執行者になること(1009条)など。

 ただし,民法以外の法律では,原則として成年擬制の効果は及ばないので,結婚していても飲酒や喫煙は禁止されており,選挙権も与えられません。

このほかの成年擬制としては,第6条の『営業が許された未成年者』がありますが,成年者として扱われるのは許された営業に関してのみです。→未成年

    民法  民法以外
 婚姻した未成年者  成年者として扱われる  原則として 

 未成年者として扱われる

 営業の許可を得た未成年者  営業の許可以外では,
 未成年者として扱われる。

通説では,婚姻を解消(夫婦の一方の死亡,離婚)した未成年者への成年擬制の効果は消滅しないとされていますが,反対説もあります。

3.「成年被後見人が成年後見人の事前の同意を得て土地を売却する意思表示を行った場合,成年後見人は,当該意思表示を取り消すことができる。」(昭和49年)

【正解:

◆成年被後見人は,成年後見人の同意があっても,原則として取消すことができる

 成年被後見人がした意思表示は,日用品の購入等の日常生活に関する行為を除いて取り消すことができます。(9条)

 事前に成年後見人の同意を得ていたとしても,成年被後見人本人が単独で法律行為を行うのは期待できないため,取り消すことができます。このように,成年被後見人の場合は,あらかじめ成年後見人の同意があっても意味がないため,『成年後見人には同意権がない』とされています。

類題
「成年被後見人は,成年後見人の同意を得れば,その範囲内において,有効な取引をすることができる。」(昭和49年) ×

4.「被保佐人が保佐人の事前の同意を得て土地を売却する意思表示を行った場合,保佐人は,当該意思表示を取り消すことができる。」(昭和49年,昭和51年,昭和59年,昭和61年,平成6年)

【正解:×

◆保佐人の同意と被保佐人の法律行為

 被保佐人が,不動産その他重要なる財産に関する権利の得喪を目的とする行為(例えば本肢のような土地の売却契約を締結)をする場合には,保佐人の同意が必要です。(13条1項・2項)

 保佐人の同意を要する法律行為で,保佐人の同意やその同意に代わる家庭裁判所の許可を得ないで被保佐人がしたものは,取り消すことができます。(13条・4項)
しかし,保佐人の事前の同意を得ている場合は取り消すことができません


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