Brush Up! 権利の変動篇

制限行為能力者の過去問アーカイブス 制限行為能力者と追認・同意・取消 (昭和51年) 


制限行為能力者の行為に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。(昭和51年)

1.「成年被後見人が独断で締結した売買契約を,当該成年被後見人がみずから取り消すことはできない。」

2.「被保佐人は,保佐人の同意を得なくても,一時使用の目的で3ヵ月間,他人の建物を賃借することができる。」

3.「未成年者は,単に権利を得又は義務を免るべき行為をするときは親権者の同意がなくても有効になしうる。」

4.「制限行為能力者の行った取り消し得る行為は,それについて追認権者が追認をすれば,はじめから有効なものとみなされる。ただし,第三者の権利を害することはできない。」

【正解】

×

1.「成年被後見人が独断で締結した売買契約を,当該成年被後見人がみずから取り消すことはできない。」

【正解:×

◆成年被後見人自身の取消

 成年被後見人の行った行為は,日常生活に関する行為を除き,成年後見人の同意のあるなしにかかわらず成年被後見人本人及び成年後見人とも,取り消すことができます。(9条),(120条1項)

 したがって、本肢は、『当該成年被後見人がみずから取り消すことはできない』となっているので、×になります。

2.「被保佐人は,保佐人の同意を得なくても,一時使用の目的で3ヵ月間,他人の建物を賃借することができる。」

【正解:

建物の賃貸借は5年以下は、保佐人の同意は不要

 確かに,被保佐人が、602条に定めた期間を超える賃貸借をする場合には、保佐人の同意が必要です。(13条1項9号)

 しかし,『建物を3ヵ月間賃借する』のは,この同意は不要です。建物の賃貸借は5年を超えるものが、保佐人の同意が必要になります。

●同意が必要な賃貸借 (602条)

 山林10年、宅地5年、建物3年、動産6ヵ月超えるもの

3.「未成年者は,単に権利を得又は義務を免るべき行為をするときは親権者の同意がなくても有効になしうる。」

【正解:

◆単に権利を得,義務を免れる行為は許可不要

 未成年者が,贈与を受けたり,債務の免除を受けるなどの,『単に権利を得,義務を免れる行為』については,法定代理人の同意は不要です。(5条1項但書)

間違いやすい点・その1

 債務の弁済を受けることや負担付贈与を受けることは、法定代理人の同意を必要とします。

 ・債務の弁済を受ける → 弁済はそれまでの債権を消滅させるものであるため,
                 弁済を受けて必ずしも,有利とは限らない。

 ・負担付贈与 → 負担を伴うので,有利・不利の判断が難しい。

間違いやすい点・その2

 『単に権利を得,義務を免れる行為』について保護者の同意が不要,というのは未成年者だけの規定で,他の制限行為能力者の規定にはないことに注意してください。

 例えば,成年被後見人の行為で,成年被後見人が単に権利を得るものであっても,成年後見人は取り消すことができます。→ 昭和59年・問2・肢4

4.「制限行為能力者の行った取り消し得る行為は,それについて追認権者が追認をすれば,はじめから有効なものとみなされる。ただし,第三者の権利を害することはできない。」

【正解:

◆追認の効果

 未成年者・被保佐人・被補助人が保護者の同意を得ないで行った行為や成年被後見人が行った行為〔日常生活に関する行為を除く〕は,追認権者によって追認が行われることにより,以後取り消されて無効になる余地がなくなり,確定的に有効になります。(122条)

 追認されるまで,取り消しうる法律行為は一応有効でしたが,いつ取り消されるかわからない不安定なものでした。取消権を持っている者は,当該法律行為を有効のままにしておくこともできますし,また取消によって初めから無効なものにすることもできました。

 追認されることによって,この不安定な状態が解消されることになります。

問題文では、「追認をすれば,はじめから有効なものとみなされる」となっていますが,これは条文をソノママ現代語訳したもので、内容的には上記のとおりです。

 また、『ただし,第三者の権利を害することはできない。』という122条の但書は、無用な規定だとされており,この問題を収録した過去問集によっては問題文から削除しているケースもあるので,お気になさらなくても大丈夫です。

  〔追認は取消権の放棄なので第三者の権利を害することはなく,また,第三者との関係は対抗問題として処理できるから。〕

追認できるのはいつか

 追認権者  追認できる時期
 保護者  【親権者・未成年後見人・成年後見人・保佐人・
  同意権を付与された補助人】

 追認する時期には制限なし(124条3項)

 行為能力を回復した後の 

 制限行為能力者 

 行為能力を回復した後でなければ,単独で追認はできない。
 (124条1項)

 ただし,成年被後見人の場合は行為能力者となった後だけで
 なく,その法律行為が取り消しうるものであることを知った後で
 なければならない。

 被保佐人,

 被補助人

 能力を回復していない間(被保佐人,被補助人である間)

 追認するには,保佐人・補助人の同意を必要とする。

  

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