Brush Up! 権利の変動篇
制限行為能力者の過去問アーカイブス 取消と第三者の総合問題 (昭和52年)
Aは,自己所有の家屋をBに売却し,Bは,これをCに賃貸し,引渡しを完了した。その後,Aは未成年者であることを理由にAB間の売買契約を取り消した。次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和52年) |
1.「Cは,Aが未成年者であることを知らなかった場合でも,家屋の賃借権をAに対抗することはできない。」 |
2.「Bは,Aが未成年者であることを知らなかった場合でも,Cから受け取った賃料をAに返還しなければならない。」 |
3.「BC間の賃貸借契約は,Aの取り消しによって契約のときに遡って無効となる。」 |
4.「Cは,賃借権を登記している場合には,家屋の賃借権をAに対抗することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
●メッセージ |
この問題は,制限行為能力者の知識だけでは解けません。民法全体に絡んでいる問題です。したがって,このような総合問題もあると認識していただければいい問題です。
民法を一通り学習した後でご覧になれば,この問題が良問であることがお分かりいただけると思います。 |
●ベースとなる過去問 |
A所有の土地が,AからB,BからCへと売り渡され,移転登記も完了している。 Aは,Bに土地を売ったとき未成年者で,かつ,法定代理人の同意を得ていなかったので,その売買契約を取り消した場合,そのことを善意のCに対し対抗することができない。 (平成元年・問3・肢2) |
【正解:×】
◆未成年者の取消は、取消前の第三者にも対抗できる A (未成年) ― B (相手方) ― C (善意の第三者) 未成年者が法律行為を行うには、原則として法定代理人の同意が必要です。(5条1項) 未成年者が法定代理人の同意を得ないでした法律行為は、未成年者・法定代理人どちらからも取消すことができ(5条2項)、取消し前の善意の第三者にも対抗することができます。 したがって、『売買契約を取り消した場合,そのことを善意のCに対し対抗することができない』というのは×です。 |
1.「Cは,Aが未成年者であることを知らなかった場合でも,家屋の賃借権をAに対抗することはできない。」 |
【正解:○】 ◆取消の効果 A (未成年) ― B (相手方) ― C (善意の第三者) Aは未成年者であることを理由にAB間の売買契約を取り消した結果、AB間の売買契約は初めに遡って無効となっています。 Aの取消によって、Bは無権利者になっており、CがBから得た家屋の賃借権も、Cの善意・悪意を問わず、CはAに対抗できません。(Cは、Bに損害賠償を請求することができます。) |
2.「Bは,Aが未成年者であることを知らなかった場合でも,Cから受け取った賃料をAに返還しなければならない。」 |
【正解:×】 ◆善意のときの不当利得の返還 Aの取消によって、AB間の売買契約は初めに遡って無効となっているため、BがCから受け取った賃料は、法律上の原因のないBの不当利得になっています。(703条) これにより、Bは、その利益をAに返還しなければいけませんが、Aが未成年者であることをBが知らなかった場合は、『その利益の存する限度において返還する義務を負う』ことになっています。(703条) ⇒悪意(知っていた)の場合は、受けた利益に利息を附して返還し、Aに損害があれば損害賠償責任も生じます。→不当利得 『利益の存する限度』というのは、『Cから受け取った賃料』全額を必ずしも意味するものではないので、本肢は×になります。 |
3.「BC間の賃貸借契約は,Aの取り消しによって契約のときに遡って無効となる。」 |
【正解:×】 ◆BC間の賃貸借契約は当然には無効にならない AB間の売買契約は,Aの取消によって契約成立のときに遡って無効になりますが、 BC間の賃貸借契約はAの取消によって当然に無効となるのではなく、BC間の契約をAに対抗することができなくなるということに過ぎません。 したがって、本肢は×になります。 |
4.「Cは,賃借権を登記している場合には,家屋の賃借権をAに対抗することができる。」 |
【正解:×】 ◆賃借権の登記があっても、Aの取消には対抗できない 本肢は、設問1の蒸し返しです。 賃借権の登記は、その賃借の目的物の所有権などを取得した者に対して対抗力を持ちますが、この問題設定では、BC間の賃貸借契約そのものがAに対抗できないので、賃借権の登記は意味を持ちません。したがって、本肢は×になります。 |