Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
相続の過去問アーカイブス 平成11年・問3 遺産分割
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
相続に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,誤っているものはどれか。 |
1.「相続開始の時において相続人が数人あるとき,遺産としての不動産は,
相続人全員の共有に属する。」
【正解:○】 ◆共同相続
遺産分割されるまでの相続財産は、共同相続人の共有に属します。 各相続人は、個々の遺産上に共有持分権を有し、遺産分割の前でも、他の相続人の同意を得ずに、処分することができます。また、この処分は遺産分割の遡及効の影響も受けません。→平成7年肢3出題 ▼判例では、相続財産の共有は、「民法249条〜の共有」とその性質を異にするものではないとしています。(昭和30.5.31など) |
●参考問題−相続と物権変動・共同相続 |
1.「 親Xが死亡した為,AとBは,X所有の土地を法定相続分により,共同相続した。共同相続したことをAとBが登記しないでいたところ,Bは当該土地の全てについて,自己名義の単独相続の登記をしたうえでこれをCに売却し,所有権移転登記を経由した。 この場合、Aは登記なくして自己の持分の所有権をCに対抗できる。」 |
【正解:○】
物権変動の問題ですが、相続の問題に肢問として出題も可能なため、掲載しました。 B … B単独名義で登記 → Cに譲渡して登記を移転 共同相続では、相続人は自己の相続分を登記なくして第三者に対抗できます。 Bの単独相続の登記のうち、Bの持分については有効ですが、Aの持分については、無権利の登記で無効となります。 したがって、Cへの移転登記についても、Bの持分については有効ですが、Aの持分については無権利の登記で無効となります。 Cは、Bが単独相続したと信じたわけですが、登記には公信力がないため、Aの持分のにはCの権利取得は認められません。 したがって、Aは登記なくして自己の持分の所有権をCに対抗できます。 |
2.「被相続人は,遺言で,遺産の分割の方法を定めることができ,また相続開始の時
から5年を超えない期間内で遺産の分割を禁ずることもできる。」
【正解:○】 ◆遺産分割の禁止と指定
●遺言による遺産分割の方法の指定と第三者への委託 被相続人は、遺言で遺産分割の方法を定めることができ、遺産分割の方法の指定は、被相続人が第三者に委託することもできます。(908条前半) ●遺言による遺産分割の禁止 被相続人は、相続開始の時から5年を超えない期間内で遺産分割を禁止することもできます。(908条後半) |
3.「遺産の分割について共同相続人間に協議が調わないとき,各共同相続人は,
その分割を,相続開始地の地方裁判所に請求することができる。」
【正解:×】 ◆遺産分割は家庭裁判所に請求する 請求するのは地方裁判所ではなく、家庭裁判所です。肢2の解説参照。
▼家庭裁判所は、特別の事由があるときは、期間を定めて、遺産の全部または一部について、遺産分割を禁止することができます。(907条3項) ▼相続開始地という言葉には驚いたかもしれません。民法の883条に次の規定があります。(「相続開始地」という表現は、家事審判規則99条にある表現です。)
この規定は、相続をめぐる紛争について裁判所の管轄が定まることに意味があります。 |
●遺産分割の当事者 |
遺産分割の当事者は、共同相続人のほか、包括受遺者、相続分の譲受人です。遺産分割の当事者であるにもかわらず、その者を除いて行われた遺産分割は、原則として無効です。(最高裁・昭和53.12.20) → この例外については、下の補充『●認知によって相続人になった者‐遺産分割後』を参照してください。 |
4.「相続開始の時から3年以上経過した後に遺産の分割をしたときでも,その効力は,
第三者の権利を害しない範囲で,相続開始の時にさかのぼって生ずる。」
【正解:○】 ◆遺産分割の時期 共同相続人は、被相続人によって遺言で禁止されている場合(最長5年)を除いて、いつでも、その協議で、遺産分割をすることができます。(908条)また、遺産分割請求権は時効にかからないとされています。(通説) この遺産分割の効力は、相続開始のときに遡って生じますが、第三者の権利を害することはできないとされています。(909条) ただし、この第三者が保護されるには、不動産であれば登記(177条)、動産であれば引渡し(178条)が必要です。 ▼908条で言う「第三者」とは、相続開始後〜遺産分割前に生じた第三者です。例えば、個々の遺産の共有持分を譲り受けた者、担保権を取得した者、共同相続人の共有持分を差押えた債権者などを意味しています。 |
●参考問題−相続と物権変動・遺産分割 |
1.「DとEが土地を共同相続した場合で,遺産分割前にDがその土地を自己の単独所有であるとしてD単独名義で登記し,Fに譲渡して登記を移転したとき,Eは,登記なしにFに対して自己の相続分を主張できる。」(平成9年・問6・肢2) |
【正解:○】
物権変動の問題ですが、相続の問題に肢問として出題も可能なため、掲載しました。 D … D単独名義で登記 → Fに譲渡して登記を移転 共同相続人には共有持分を超えた権利はないため、共同相続人の1人が単独相続の登記をして、第三者に譲渡した場合、他の相続人は、自己の共有持分について登記なくしてその第三者に対抗できます。(民法177条;最高裁・昭和38.2.22) |
●遺産分割後の第三者−相続と物権変動・遺産分割 | |||||
遺産分割の結果、包括的な共同相続から個々の財産について権利関係の変更が生じます。例えば、A、B、Cで共同相続して遺産が土地・甲、土地・乙、土地・丙であった場合、共同相続のときには土地・甲乙丙とも3人の共有持分がありました。これを土地・甲はA、土地・乙はB、土地・丙はCというように遺産分割した場合には、その個々の財産について相続分と異なる権利が取得されたことになります。
※土地・甲でみると、遺産分割前は土地・甲についてAは共有持分の1/3のみでしたが、遺産分割によって、土地・甲をAが単独で所有することになります。
もし、Aが遺産分割によって土地・甲を単独所有した旨の登記をしておかない場合、土地・甲について、Aが遺産分割後の第三者に登記なくして対抗できるのは、遺産分割前の共有持分1/3だけになります。つまり、遺産分割により取得した残り2/3は、登記がなければ第三者に対抗できないことになるわけです。 |
●認知によって相続人になった者・その1‐遺産分割後 | |
被相続人の死後に、認知の訴えの確定によって、相続人となった者について、平成13年・肢3に出題されています。 相続開始後に認知された者であっても遺産分割の終了や特定の財産の処分が終わっていなければ遺産分割の請求をすることができますが、その認知の訴えの確定の時点で遺産分割や処分が終わっている場合には、価額のみの請求になります。
この理由は、認知された子の出現によって遺産分割をもう一度やり直しさせることになると、法律関係が不安定になってしまい、取引の安全が損なわれることを回避するためです。 |
●認知によって相続人になった者・その2‐遺産分割後 |
遺産分割後の非嫡出子の出現によって、910条の規定にもかかわらず、遺産分割が無効になったり、再分割をしなければいけない場合があります。 例えば、Aが遺言を残さないで死亡し、Aの姉B、弟Cによって遺産分割をした後で、AにはDとの間に非嫡出子Eがいることが判明し、認知の訴えも確定した場合を考えてみます。 この場合、認知の効力が子Eの出生時にまで遡り、Eははじめから相続人であったことになりますが、同時に、B,Cは相続資格がなかったのにもかかわらず遺産分割したことになるので、B,Cによる遺産分割は無効になり、Eのみが相続人になります。(被相続人に子や直系尊属がいない場合にのみ、被相続人の兄弟姉妹が相続人になれるからです。) Eは,これによりB,Cに対して、相続回復請求権を行使できます。(884条) 相続回復請求権は、相続人またはその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間、または相続開始のときから20年経過したときは時効により消滅します。 ――――――― これでわかるように、910条の規定は、遺産分割をした者たちが、非嫡出子の出現によって相続資格を失わない相続人であることを前提にしています。 |