Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
相続の過去問アーカイブス 平成7年 相続と登記2
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
※3の○は,『条文』に基づいて消去法で導いたものです。
Aが一戸建ての建物を新築して建物の表題登記をし,これをBに売却したが,その後にAが死亡し,Cが相続した。この場合の登記に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(平成7年・問16) |
※3の○は,消去法で推定したものです。
【出題者の狙い】 |
【全体の流れをつかむ】 A (売主)―――B (買主) 本問題では,売主が所有権保存登記をしないまま死亡した場合,買主Bはどうすれば,所有者として登記できるかを訊ねています。 <本問題での登記手続の流れ> (大審院・大正7.6.18による) 表示の登記 Aが建物の表題登記をした。 |
1.「Cは,申請情報と併せて相続を証する情報を提供して,建物の表題部所有者をCとする変更の登記を申請することができる。」 |
【正解:×】 ◆所有者が相続によって変わったときに、表題部所有者の変更登記をすることはできない A (売主)―――B (買主)
したがって、相続人Cは,「建物の表題部所有者を相続人Cとする変更の登記を申請すること」はできません。 ▼表示に関する登記はもともと対抗力をもつものではなく,物理的な状況を公示するためのものであり,権利に関する状況を公示するためのものではありませんでした。 ▼所有権の登記がない建物(保存登記も移転登記もされていない建物)では,表題部所有者が記載されていますが,所有権保存登記がなされると,登記記録の表題部所有者に関する登記事項を抹消する記号を記録しなければなりません(登記規則・158条) → 逆にいえば,表題部に所有者が抹消されないで記載されているということは,まだ所有権保存の登記がされていないことを意味します。 |
●表題部所有者の変更等に関する登記手続 |
(表題部所有者の変更等に関する登記手続) 第32条 表題部所有者又はその持分についての変更は,当該不動産について所有権の保存の登記をした後において,その所有権の移転の登記の手続をするのでなければ,登記することができない。 |
●表題部所有者の氏名等の抹消 |
(表題部所有者の氏名等の抹消) 第158条 登記官は、表題登記がある不動産(所有権の登記がある不動産を除く。)について所有権の登記をしたときは、表題部所有者に関する登記事項を抹消する記号を記録しなければならない。 |
●所有権保存登記 |
(所有権の保存の登記) 第74条 所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない。 一 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人 二 所有権を有することが確定判決によって確認された者 三 収用(土地収用法 (昭和26年法律第219号)その他の法律の規定による収用をいう。第118条第1項及び第3項から第5項までにおいて同じ。)によって所有権を取得した者 2 区分建物にあっては、表題部所有者から所有権を取得した者も、前項の登記を申請することができる。この場合において、当該建物が敷地権付き区分建物であるときは、当該敷地権の登記名義人の承諾を得なければならない。 |
●参考問題 |
1.「表題部に記載された建物の所有者が死亡した場合,相続人は,相続を証する書面を添付して,所有者の変更の登記を申請することができる。」(土地家屋調査士・択一・昭和52年・問3・肢4) |
【正解:×】 所有権の登記のない建物では,表題部所有者が記載されていますが,この問題のように,被相続人が表題登記をしただけで所有権の登記をしないまま死亡した場合は,相続人は,表題部所有者を相続人の名義にする変更の登記の申請はできません。 相続人は,相続人名義の所有権保存登記の申請をなすべきものとされています。(不動産登記法・74条1項1号) 相続人名義の所有権保存登記がされると,表題部所有者に関する登記事項(被相続人名義)は,職権で登記官によって抹消する記号が記録されます(登記規則・158条)。 |
2.「Bは,申請情報と併せてCの承諾を証する情報を提供して,建物の表題部所有者をBとする変更の登記を申請することができる。」 |
【正解:×】 ◆譲渡によって所有者が変わったときに、表題部所有者の変更登記はできない A (売主)―――B (買主) BがA所有の建物を譲り受けたことを公示するのは,表題部所有者の変更することによるのではなく,所有権に関する登記の手続(保存登記・移転登記)によらなければならないとされています。(不動産登記法・32条) 買主Bは,相続人の承諾書を添付しても自己の名義による建物の表題部所有者をBとする変更の登記を申請することはできません。 ▼所有権の登記がない建物の表題部所有者の氏名が変わったたときは(結婚・養子縁組など),「表題部所有者の氏名等の変更登記」,錯誤によって誤って氏名が記載された場合には,「表題部所有者の氏名等の更正の登記」を申請できますが,本肢のように,譲渡によって実体としての所有者そのものが変わってしまった場合には,表題部所有者の変更登記はできません。
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3.「Cは,申請情報と併せて相続を証する情報を提供して,C名義の所有権の保存の登記を申請することができる。」 |
【正解:○】 ◆所有権保存登記 A (売主)―――B (買主)
表題部に被相続人が所有者として記載されていれば,その相続人は,自己の名義で,所有権の保存登記を申請することができます。このときには,相続を証する情報を添付情報として提供します。(不動産登記法74条1項1号,登記令・28項)
▼所有権の保存登記とは,初めてなされる所有権の登記。 ▼所有権の保存登記は,登記義務者がいないので,登記権利者の単独申請。 ▼所有権の保存登記は,被相続人名義でも登記申請できる。
また,これに関連して以下のことが言われます。 本肢の場合のCは相続によってAの売主の地位を承継したのみであって,決して当該建物そのものを相続したわけではない。表題部所有者が被相続人Aである場合は,相続人Cは,被相続人A名義で保存登記すべきであり,(当該建物を相続したわけではない)相続人Cの名義によって保存登記するべきではない。↓下の参考問題参照 |
●参考問題 |
1.「Aはある不動産の表題登記をし,その不動産をBに売り渡したが,その登記をしないうちに死亡した。
この場合,Aの相続人CはA名義の所有権保存登記の申請をすることができる」(司法書士・昭和63年) |
【正解:○】
A (売主) ―― B (買主) 被相続人Aが生前,表題登記をしただけで,所有権の保存登記をしないまま死亡したとき, 所有権の保存登記は,被相続人Aの名義でも,また相続人Cの名義でも,どちらででも登記申請できるとされています。(昭和39.9.18民甲232号回答) しかし,本肢では,Aは生前Bに譲渡していたため,不動産の所有権はBに移転しています。Cはその不動産を相続したのではなく,単にAの地位(Bへの引渡しの債務)を承継していると考えられるため,被相続人Aの名義で所有権の保存登記をすべきとされています。(通説,昭和32.10.18民甲1953号回答) Cは,まず被相続人Aの名義で所有権の保存登記をして,その後Bへの所有権移転登記をBとともに申請することになります。 |
4.「Bは,申請情報と併せてCの承諾を証する情報を提供して,B名義の所有権の保存の登記を申請することができる。」 |
【正解:×】 ◆所有権保存登記 A (売主)―――B (買主) 買主Bは,単に相続人Cの承諾を証する情報を提供しても,自己の名義による保存登記を直接,申請することはできません。 上で見たように,ひとまずAの相続人Cによって保存登記がなされ,その後,Bへの所有権移転登記をすることになります。 ▼もし相続人Cが登記に協力してくれない場合には,Bは,建物の所有権が自己にあることを判決(給付判決だけではなく,確認判決でもよいとされる)によって証明し,当該建物の所有権保存の登記を申請することになります。
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●参考問題 |
1.「所有権の登記がされていない建物について,その所有権が自己にあることを確定判決によって証明できる者は,当該建物の所有権保存の登記をすることができる。」(平成12年・問14・肢1) |
【正解:○】(不動産登記法・74条・1項・2号) |