Brush Up! 権利の変動篇
相続の過去問アーカイブス 平成15年・問12
相続と物権変動(遺産分割・共同相続)・可分債権の弁済請求・金銭の保管
●コメント |
肢1を除いて初出題。肢2は1000本ノックでも予想される問題として扱っていました。肢2〜肢4は初出題ですが,過去問出題事例となったので各基本書にも今後は収録されていくものと思われます。各指導機関では肢3・肢4は難しいとはいえ,肢1は過去問で出題されていたことから正解を得るのは容易であったとしています。 |
Aが死亡し,それぞれ3分の1の相続分を持つAの子B,C及びD(他に相続人はいない 。 )が,全員,単純承認し,これを共同相続した。この場合に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成15年・問12) |
1.「相続財産である土地につき,遺産分割協議前に,Bが,CとDの同意なくB名義への所有権移転登記をし,これを第三者に譲渡し,所有権移転登記をしても,CとDは,自己の持分を登記なくして,その第三者に対抗できる。 」 |
2.「相続財産である土地につき,B,C及びDが持分各3分の1の共有相続登記をした後,遺産分割協議によりBが単独所有権を取得した場合,その後にCが登記上の持分3分の1を第三者に譲渡し,所有権移転登記をしても,Bは,単独所有権を登記なくして,その第三者に対抗できる。 」 |
3.「相続財産である預金返還請求権などの金銭債権は,遺産分割協議が成立するまでは,相続人3人の共有に属し,3人全員の同意がなければ,その債務者に弁済請求できない。」 |
4.「Bが相続開始時に金銭を相続財産として保管している場合,CとDは,遺産分割協議の成立前でも,自己の相続分に相当する金銭を支払うよう請求できる。 」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
1.「相続財産である土地につき,遺産分割協議前に,Bが,CとDの同意なくB名義への所有権移転登記をし,これを第三者に譲渡し,所有権移転登記をしても,CとDは,自己の持分を登記なくして,その第三者に対抗できる。 」 |
【正解:○】(出題歴・平成9年問6肢2) ◆共有相続登記前の第三者
遺産分割されるまでの相続財産は,共同相続人の共有に属します。 各相続人は,個々の遺産上に共有持分権を有し,遺産分割の前でも,他の相続人の同意を得ずに,共有持分権を処分することができます。しかし,各相続人の有する共有持分権の範囲を超えた分についての処分は無効です 。 B … B単独名義で所有権移転登記 → 第三者に譲渡して登記を移転 共同相続では,相続人は自己の相続分を登記なくして第三者に対抗できます。 Bの単独名義の所有権移転登記のうち,Bの持分については有効ですが,C・Dの持分については,無権利の登記で無効となります。 したがって,第三者への移転登記についても,Bの持分については有効ですが,C・Dの持分については無権利の登記で無効となります。 第三者は,Bが単独所有していると信じたわけですが,登記には公信力がないため,C・Dの持分については第三者の権利取得は認められません。 したがって,C・Dは登記なくして自己の持分の所有権を第三者に対抗できます。 |
2.「相続財産である土地につき,B,C及びDが持分各3分の1の共有相続登記をした後,遺産分割協議によりBが単独所有権を取得した場合,その後にCが登記上の持分3分の1を第三者に譲渡し,所有権移転登記をしても,Bは,単独所有権を登記なくして,その第三者に対抗できる。 」 |
【正解:×】初出題 ◆遺産分割後の第三者
判例では,(相続財産の個々の不動産について)遺産分割で法定相続分の共有持分を超えて取得した場合は,遺産分割時に新たな権利変動(持分の移転)があったものとみなし,第三者との間では対抗関係になるため,対抗要件としての登記が必要だとしています。(最高裁・昭和46.1.26) 本肢で見ると,遺産分割によって法定相続分1/3と異なる権利を取得した相続人Bは,その旨の登記をしておかなければ,当該不動産について法定相続分よりも多く取得した2/3の分については,第三者に対抗できません。(注意・もともと有していた持分の1/3は登記なくして対抗することができます。) つまり,本肢では,遺産分割後に登記がB・C・Dの持分各3分の1の共有相続登記のままになっていることに目をつけたCが登記上の持分3分の1を第三者に譲渡し,所有権移転登記をしてしまったのですが,Bが遺産分割によって単独所有した旨の登記をしていない以上,第三者に譲渡された持分3分の1については対抗できないことになります。 したがって,本肢は×です。 |
●遺産分割後の第三者−相続と物権変動・遺産分割 | |||||
遺産分割の結果,包括的な共同相続から個々の財産について権利関係の変更が生じます。例えば,B,C,Dで共同相続して遺産が土地・甲,土地・乙,土地・丙であった場合,共同相続のときには土地・甲乙丙の上に3人の共有持分がそれぞれ1/3ありました。これを土地・甲はB,土地・乙はC,土地・丙はDというように遺産分割した場合には,その個々の財産について相続分と異なる権利が取得されたことになります。(この例では,土地・甲,乙,丙とも同面積・同じ評価価格とします。)
※土地・甲でみると,遺産分割前は土地・甲についてBは共有持分の1/3のみでしたが,遺産分割によって,土地 ・甲をBが単独で所有することになります。
もし,Bが遺産分割によって土地・甲を単独所有した旨の登記をしておかない場合,土地・甲について,Bが遺産分割後の第三者に登記なくして対抗できるのは,遺産分割前の共有持分1/3だけになります。つまり,遺産分割により取得した残り2/3は,登記がなければ第三者に対抗できないことになるわけです。 |
3.「相続財産である預金返還請求権などの金銭債権は,遺産分割協議が成立するまでは,相続人3人の共有に属し,3人全員の同意がなければ,その債務者に弁済請求できない。」 |
【正解:×】初出題 ◆預金返還請求〔可分債権の弁済請求〕
相続財産としての債権の帰属については,共有一般の規定ではなく,民法427条以下の「多数当事者の債権関係」が適用されます。 相続財産である債権は不可分債権と可分債権に分かれ,不可分債権では,各相続人は相続人全員のために,その不可分債権全部の履行を債務者に請求することができ,弁済を受領することができます。(428条,429条)例・登記請求権など。 金銭債権〔預金債権・貸付金債権など〕は可分債権なので,判例では,相続開始と同時に,各共同相続人の相続分〔法定相続分or指定相続分〕に応じて分割された分割債権になる〔分割承継〕と解しています。(427条,最高裁・昭和29.4.8) したがって,遺産分割前でも各相続人は相続分に応じて弁済請求できると考えられます。本肢では,「3人全員の同意がなければ,その債務者に弁済請求できない」となっているので×です。 ▼本肢は金融機関にお勤めの方にはイジワル問題でした。銀行などでは,現在,遺産分割前に被相続人の預金の払戻請求があったときは,トラブル回避のため,相続人全員からの払戻請求である場合や,相続人全員の同意書がある場合でないと払戻しには応じていませんが,訴訟になると相続分に応じて分割された金額の払戻し請求は裁判所によって認められることが多いと言われています。宅建試験では,このようなイジワル問題はお家芸とも言っていいものです。 ▼可分債務である金銭債務についても,相続する場合は,判例では,法律上当然に相続分〔法定相続分or指定相続分〕に従って分割され,各共同相続人に帰属する〔分割承継〕とされています。(大審院・昭和5.12.4) 例 被相続人Aが3,000万円の借金を残して死亡した。相続分の指定がない場合,共同相続人(子)B,(子)C,(子)Dがこの債務を相続すると法定相続分に従ってそれぞれ1,000万円ずつの債務を負うことになる。 |
●関連判例 |
預金返還請求権は,判例(最高裁・昭和29.4.8)では,相続開始と同時に,各共同相続人の相続分〔法定相続分or指定相続分〕に応じて分割された分割債権になりますが,
もし,相続人の1人が自己の持分を超えて,預金を銀行から引き出すなどした場合はどうなるかについて,最近の判例では,自己の持分を超えて引き出した相続人に対して,他の相続人は,持分を超えて引き出したものについては,不当利得返還請求権を持つとしました。(最高裁・平成16.4.20) |
4.「Bが相続開始時に金銭を相続財産として保管している場合,CとDは,遺産分割協議の成立前でも,自己の相続分に相当する金銭を支払うよう請求できる。 」 |
【正解:×】初出題 ◆相続財産の金銭の保管 相続財産としての金銭は,不動産や動産とともに,遺産分割の対象となる共有の状態にあると考えられ,判例により,CとDは,遺産分割協議の成立前に,相続財産である金銭を保管しているBに対して,自己の相続分に相当する金銭を支払うよう請求することはできません。
▼法律学者の中には,肢3の判例(最高裁・昭和29.4.8)との整合性は不明としている見解もあります。〔基本法コンメンタール ・相続・第四版・p.52〕 |