Brush Up! 権利の変動篇
相続の過去問アーカイブス 平成16年・問12
明け渡し請求の可否,使用貸借の推認,胎児の相続権,遺言書の偽造〔相続欠格〕
自己所有の建物に妻Bと同居していたAが,遺言を残さないまま死亡した。Aには先妻との間に子C及びDがいる。この場合に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成16年・問12) |
1.「Aの死後,遺産分割前にBがAの遺産である建物に引き続き居住している場合,C及びDは,Bに対して建物の明渡しを請求することができる。」 |
2.「Aの死後,遺産分割前にBがAの遺産である建物に引き続き居住している場合,C及びDは,それぞれBに対して建物の賃料相当額の1/4ずつの支払いを請求することができる。」 |
3.「A死亡の時点でBがAの子Eを懐妊していた場合,Eは相続人とみなされ,法定相続分は,Bが1/2,C・D・Eは各1/6ずつとなる。」 |
4.「Cの子FがAの遺言書を偽造した場合には,CはAを相続することができない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
,
1.「Aの死後,遺産分割前にBがAの遺産である建物に引き続き居住している場合,C及びDは,Bに対して建物の明渡しを請求することができる。」 |
【正解:×】 ◆明け渡し請求の可否 先妻―A (被相続人) ― B (妻) 1/2 相続人が数人あるときは,遺産分割前の相続財産は共有に属します(民法898条)。このため,保存行為は各相続人が単独ででき,管理行為は相続分の割合に応じて多数決によって決まり,変更または処分行為には相続人全員の同意が必要になります。 本肢では,共同相続人の一人であるBが単独で占有して使用している場合のことだと思われますが,このような場合,Bは自己の持分権によって共有物を使用収益する権原に基づいて占有しているわけですから,C,Dの持分権の合計が仮に過半数であったとしても,当然にその明け渡しを請求することはできません。(最高裁・昭和41.5.19) したがって,本肢は誤りです。 ▼問題文中には,Bが単独で占有して使用している旨の記述はありませんが,そのように解釈しないと問題が解けません。Bに対して明け渡し請求するということは,CもDもBと同居していないことを暗示していると考えられます。 ▼肢2の<使用貸借の推認>からも,上記と同じ結論が導けます。つまり,<使用貸借の推認>から肢1・肢2を解くことができます。 |
2.「Aの死後,遺産分割前にBがAの遺産である建物に引き続き居住している場合,C及びDは,それぞれBに対して建物の賃料相当額の1/4ずつの支払いを請求することができる。」 |
【正解:×】 ◆使用貸借の推認 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人と同居していて,被相続人の死後,単独で占有して使用している場合,特別な事情がない限りは,被相続人とその相続人の間に,遺産分割が確定するまでは,引き続き無償で使用させる旨〔使用貸借〕の合意があったと推認されます。〔この場合は,被相続人を相続したほかの相続人が使用貸主,占有使用している相続人が使用借主となる。〕このような場合,Bの占有使用がC,Dに対して不当利得となることはなく,C,DはBに対して明け渡し請求も不当利得返還請求もできません(最高裁・平成8.12.17)。 したがって,Bは,他の共同相続人に対して,賃料を支払う必要はないので,本肢は誤りです。 |
3.「A死亡の時点でBがAの子Eを懐妊していた場合,Eは相続人とみなされ,法定相続分は,Bが1/2,C・D・Eは各1/6ずつとなる。」 |
【正解:○】胎児の相続権・昭和50年,胎児が受遺者・昭和54年, ◆胎児の相続権〔相続に関する胎児の権利能力〕−出生擬制−, 先妻―A (被相続人) ― B (妻) 1/2 本肢での相続人となるべき者は,妻,子〔C,D,胎児E〕であり,その相続分率は妻1/2,子〔C,D,胎児E〕のそれぞれが1/6となります。 ●胎児の相続権 原則として胎児には権利能力はありません(民法3条1項)が,相続(民法866条)・遺贈(民法965条)については既に生まれたものとみなします。 相続開始時に胎児であった者は,既に生まれたものとみなして相続については相続権があり,子としての遺留分を持ちます。遺贈については受遺者とみなされます。 もっとも胎児が死んで生まれてきたときには相続や遺贈のこの規定は適用されません(民法866条2項,965条)。しかし,生まれてすぐに死んだとしても,いったん生まれてきた以上は相続や遺贈は生じることになります。 ▼本肢では胎児が嫡出子の場合ですが,その胎児が非嫡出子であっても,胎内にある子として被相続人が認知(民法783条1項)していれば,嫡出子と同じように相続権があります。 |
●胎児に相続権が認められないとしたら・・・ |
X (被相続人の父)―Y (被相続人の母) | A ―――― B (妻) (死亡) | E (胎児) |
もし,胎児に相続権が認められないとするとどうなるかを上の図で見てみましょう。
(i) 胎児Eに相続権が認められないとすると,相続人は,妻B,被相続人の父X,被相続人の母Y になり,法定相続分はBが2/3,X,Yとも1/6になります。 (ii) 胎児Eに相続権が認められれば,相続人は,妻B,胎児Eの2人で,X,Yは相続人にはなりません。法定相続分はBが1/2,Eは1/2になります。 これだけの違いがあるわけですから,胎児に相続権を認める意味がわかりますね。 |
●『不法行為による損害賠償請求権』は胎児にも認められる |
胎児の父親が殺害されたり,交通事故などで死亡したときに,胎児が被った財産的・精神的損害に対して,胎児であることを理由に,損害賠償請求が認められないのは不利益であるため,胎児に対しても損害賠償請求権が認められています。(民法721条) |
4.「Cの子FがAの遺言書を偽造した場合には,CはAを相続することができない。」 |
【正解:×】 ◆遺言書の偽造は相続欠格, A (被相続人) 相続に関する遺言書を偽造,変造,破棄,隠匿した者は相続欠格事由となり,相続人となることはできません。(民法・891条5号) Aの相続人となるべき者が遺言書を偽造すれば,相続欠格事由になりますが,相続人となるべき者の子供が遺言書を偽造しても,相続欠格事由にはなりません。 したがって,Cの子FがAの遺言書を偽造した場合でも,CはAを相続することができます。 |