Brush Up! 権利の変動篇
不法行為の過去問アーカイブス 平成17年・問11
Aは、所有する家屋を囲う塀の設置工事を業者Bに請け負わせたが、Bの工事によりこの塀は瑕疵がある状態となった。Aがその後この塀を含む家屋全部をCに賃貸し、Cが占有使用しているときに、この瑕疵により塀が崩れ、脇に駐車中のD所有の車を毀損させた。A、B及びCは、この瑕疵があることを過失なく知らない。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。(平成17年・問11) |
1.「Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。」 |
2.「Bは、瑕疵を作り出したことに故意又は過失がなければ、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。」 |
3.「Cは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。」 |
4.「Dが、車の破損による損害賠償責任請求権を、損害及び加害者を知ったときから3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
正答率 | 43.3% |
●整理●工作物の設置・保存の瑕疵による占有者・所有者の責任,不法行為による損害賠償 |
瑕疵により塀が崩れ、脇に駐車中のD所有の車を毀損させた。
A (注文者,賃貸人)――――C (賃借人) 717条1項 占有者がまず損害賠償の責任を負うが,占有者が損害の発生防止に必要な注意をしていたときは,所有者が損害賠償をしなければならない。 717条3項 損害の原因について,他に責任を負う者があるときは,占有者または所有者は,その者に求償権を行使することができる。 709条 故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 |
1.「Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。」 |
【正解:×】 土地の工作物等の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じ,工作物の占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときは,工作物の所有者Aは,損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたかどうかに関係なく,損害賠償をしなければならない (民法717条1項但書) ので,誤りである。〔所有者の責任は免責事由のない無過失責任であることに注意。〕 ▼損害の原因について他に責任を負う者がいるときは,工作物の所有者はその者に求償することができるが (民法717条3項) ,本肢とはまた別の次元のことであり,工作物の所有者Aは,Dからの損害賠償請求を免れることはできない。 (1000本ノックの該当箇所) http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/fuhou-ans3.html |
2.「Bは、瑕疵を作り出したことに故意又は過失がなければ、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。」 |
【正解:○】 請負人は瑕疵を作り出したことに故意や過失がなければ,Bの工事により塀に瑕疵がある状態となったとしても,不法行為による損害賠償責任は負わない (民法709条) 。 ▼請負人の注文者への担保責任は無過失責任であるが (民法634条) ,これと不法行為の成立要件〔不法行為責任を問うには,行為者の故意または過失が必要〕を混同してはいけない。 |
3.「Cは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。」 |
【正解:○】 占有者であるCは,損害の発生を防止するのに必要な注意をしていなかったときは被害者に対して損害賠償する責任を負うが,損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときは,所有者が損害賠償することになる (民法717条1項但書) ので,正しい。 |
4.「Dが、車の破損による損害賠償責任請求権を、損害及び加害者を知ったときから3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。」 |
【正解:○】 不法行為による損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する (民法724条) ので正しい。 (不法行為の時から20年を経過したときも,不法行為による損害賠償請求権は消滅する。) ▼不法行為の消滅時効については,平成12年・問8・肢3に出題歴がある。 (1000本ノックの該当箇所) http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/fuhou-ans5.html |
●講評 |
請負のからむ不法行為の問題は平成8年・問6,設置保存に係る瑕疵についての不法行為の問題は平成13年・問10に出題歴がある。 正答率43.3%は,関連出題歴があり,かつ,条文そのままの出題であったわりには,少し低い。 正解肢・肢1は平成8年・問6の正解肢・肢3と同一であり,不法行為を学習したことがあれば誰でも知っている基本事項である。不法行為の単独出題は平成13年以来であることから,不法行為を余り学習していなかった受験者が多かったものと推測される。 |