Brush Up! 権利の変動篇
代理の過去問アーカイブス 平成18年・問2 表見代理・無権代理人の相手方の保護
AはBの代理人として、B所有の甲土地をCに売り渡す売買契約をCと締結した。しかし、Aは甲土地を売り渡す代理権は有していなかった。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。 (平成18年・問2) |
1.「BがCに対し、Aは甲土地の売却に関する代理人であると表示していた場合、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権はないことをCが過失により知らなかったときは、BC間の本件売買契約は有効となる。」 |
2.「BがAに対し、甲土地に抵当権を設定する代理権を与えているが、Aの売買契約締結行為は権限外の行為となる場合、甲土地を売り渡す具体的な代理権がAにあるとCが信ずべき正当な理由があるときは、BC間の本件売買契約は有効となる。」 |
3.「Bが本件売買契約を追認しない間は、Cはこの契約を取り消すことができる。ただし、Cが契約の時において、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権がないことを知っていた場合は取り消せない。」 |
4.「Bが本件売買契約を追認しない場合、Aは、Cの選択に従い、Cに対して契約履行又は損害賠償の責任を負う。ただし、Cが契約の時において、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権はないことを知っていた場合は責任を負わない。」 |
<コメント> |
本問題は条文そのままの知識で対処できる基本的な出題であったにもかかわらず,正答率の低い問題でした。基礎をしっかり固める必要性を感じます。 肢1〜肢2が表見代理が成立するかどうか判定する問題,肢3〜肢4が無権代理人の相手方の保護に関する問題でした。 難問でないにもかかわらず,なぜ正答率が低かったのか? −これは,正答できなかった受験者の学習方法に何らかの構造的な問題があったのではないかと推測されます。条文そのままの問題ができないということは,条文そのままのレベルの理解すらされていないということを意味するからです。 つまり,この問題の正答率の低さの原因は,出題者側にではなく,受験者側にあったということです。 |
●出題論点● 〜表見代理〜 |
(代理権授与の表示による表見代理) 第109条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 (権限外の行為の表見代理) (代理権消滅後の表見代理) |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
正答率 | 39.5% |
1.「BがCに対し、Aは甲土地の売却に関する代理人であると表示していた場合、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権はないことをCが過失により知らなかったときは、BC間の本件売買契約は有効となる。」 |
【正解:×】 B --------------┐ (Aには,甲土地を売り渡す具体的な代理権はない)
本人Bが,相手方Cに,Aが土地の売却に関して代理権を有すると表示していた場合は,本来は,原則として,その責任を負わなければなりません。Cはその表示を信用して取引したのですから,本人Bが表示を信用したCに責任を負うのは当然です。 しかし,相手方が,本当はAに売却に関して代理権がないことを知っていたり,過失によって知らなかったときは,Aの行為は本人に帰属せず,本人は責任を負わなくてもよいとされています(109条)。⇒ ⇒ 相手方が無権代理について,善意かつ無過失であれば,表見代理が成立するが,相手方が悪意or 有過失で知らないときは表見代理は成立しない。 したがって,本肢の場合,Cは代理権はないことを過失により知らなかったのですから,BC間の売買契約は有効とはなりません。 本肢が誤りであることがわからなかった方は,おそらく,<過失により知らなかったとき>という文言を見落としていたと思われます。 問題文のディテールにも注意する必要があります。 |
2.「BがAに対し、甲土地に抵当権を設定する代理権を与えているが、Aの売買契約締結行為は権限外の行為となる場合、甲土地を売り渡す具体的な代理権がAにあるとCが信ずべき正当な理由があるときは、BC間の本件売買契約は有効となる。」 |
【正解:○】 B --------------┐ (Aには土地を売り渡す具体的な代理権はないにもかかわらず,
代理人が権限外の行為をした場合,相手方が代理人の権限があると信ずる正当な理由があるときは,代理人の行為は本人に帰属し,本人がその責任を負います(110条)。⇒ その行為について代理権限があると信じる正当な理由があれば,表見代理が成立する。 本肢では,Aは抵当権を設定する代理権しかないのに,土地を売却し,権限外の行為をしています。 しかし,相手方のCにAが土地を売却することについての代理権があると信じる正当な理由があれば,表見代理が成立し,BC間の売買契約は有効となります。 |
●表見代理 | |||||
本人から代理権限を与えられていない者が無権代理行為をしても,追認の催告を受けるだけで,本人が責任を問われることはありませんが,無権代理行為に本人が何らかの形で関与していると考えられる場合(無権代理人の相手方が善意無過失のときに限る)は本人にも責任を取ってもらおうというのが<表見代理>です。
わかりやすくいえば,無権代理人の相手方が善意無過失のときに,相手方が代理行為でなされた契約を有効なものにしたいときには,大別すると 1) 本人に追認を催告する方法 (催告は,無権代理について悪意でもできることに注意) の二つがあるということです。 表見代理には,次の三つの類型があります。
□代理権授与の表示による表見代理 (109条) 実際は代理権を与えていないのに,代理権を与えているかのように本人が相手方に表示したために,無権代理行為がなされた場合 □代理権消滅後の表見代理 (112条) 本人が代理権を与えていたが,その代理権がすでに消滅していたにもかかわらず,無権代理行為がなされた場合 ⇒ 平成17年・問3・イ出題, □権限外の行為の表見代理 (110条) 本人が一定範囲の代理権 (基本代理権) を与えていたが,その代理権の範囲外のものについて,無権代理行為がされた場合 ⇒ 平成11年・問7・肢3,平成14年・問2・肢2,平成16年・問2・肢1出題(類推適用), |
3.「Bが本件売買契約を追認しない間は、Cはこの契約を取り消すことができる。ただし、Cが契約の時において、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権がないことを知っていた場合は取り消せない。」 |
【正解:○】 無権代理人がした契約は,本人が追認しない間は,相手方は取り消すことができます(115条)。 しかし,契約時に無権代理人に代理権がないことを知っていた場合は,相手方は取り消すことができません(115条但書)。
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4.「Bが本件売買契約を追認しない場合、Aは、Cの選択に従い、Cに対して契約履行又は損害賠償の責任を負う。ただし、Cが契約の時において、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権はないことを知っていた場合は責任を負わない。」 |
【正解:○】 代理人として契約をした者は,自己の代理権を証明できず,かつ,本人の追認を得ることができない場合は,相手方の選択によって,履行または損害賠償の責任を負います(117条1項)。 しかし,代理権を有しないことを相手方が知っていたり(悪意),過失によって知らなかったときは,相手方は,無権代理人の責任を追及することはできません(117条2項)。
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