Brush Up! 権利の変動篇

請負の過去問アーカイブス 平成18年・問6 請負と瑕疵担保責任


に対して建物の建築工事を代金3,000万円で注文し、がこれを完成させた。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。  (平成18年・問6)

1.「請負契約の目的物たる建物に瑕疵がある場合、瑕疵の修補が可能であれば、に対して損害賠償請求を行う前に、瑕疵の修補を請求しなければならない。」

2.「請負契約の目的物たる建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には、は当該建物の建替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することができる。」

3.「請負契約の目的物たる建物に瑕疵があり、瑕疵の修補に要する費用が契約代金を超える場合には、は原則として請負契約を解除することができる。」

4.「請負契約の目的物たる建物の瑕疵について、が瑕疵担保責任を負わない旨の特約をした場合には、は当該建物の瑕疵についての責任を一切追及することができなくなる。」

<コメント>  
 近年,請負については不法行為とのからみで出題されることが多かったのですが,本問題は平成7年以来の請負の単独問題です。

 正解の肢2以外の肢は過去問でも出題された基本的なものであったことから,消去法でも正解に達することは可能でした。

 しかし,正解の肢2は初出題の判例であったことから,正答率は70%にとどまっています。
●出題論点●
  <法律関係図>

 A
 (注文者)
 |
 B (請負人) 

 請負の目的物である建物瑕疵がある。

 この場合,はどのような請求をすることができるか?

【正解】

× × ×

 正答率  70.4%

1.「請負契約の目的物たる建物に瑕疵がある場合、瑕疵の修補が可能であれば、に対して損害賠償請求を行う前に、瑕疵の修補を請求しなければならない。」

【正解:×
◆瑕疵の修補請求

  請負契約の目的物たる建物に瑕疵がある場合、注文者は、損害賠償請求・瑕疵の修補請求のどちらもすることができます(民法634条1項,2項)。

  損害賠償請求・瑕疵の修補請求は一方のみ,または同時に請求することができるので,<損害賠償請求を行う前に、瑕疵の修補を請求しなければならない>とする本肢は誤りです。

●請負での瑕疵
  請負での瑕疵は無過失責任です。

  注文者が瑕疵を知らないことに過失があっても,請負人は担保責任を負います。

   請負での瑕疵 (隠れた瑕疵に限らない) は,
    1 材料に瑕疵がある場合
    2 請負人の仕事が不完全なものである場合

   のどちらか,または2つが原因で生じます。

  ◆対比◆売主の瑕疵担保責任では,

 1 買主が,瑕疵があることに善意無過失でなければ担保責任を追及できないこと。
 2 隠れた瑕疵であること。
 3 特定物の売買では,買主は瑕疵修補請求はできないこと。

   この三つが請負の担保責任と違います。  

 

●関連過去問
 建設業者は,宅地建物取引業者との間に締結した請負契約に基づき木造の建物を建築したが,工事完成後,その建物に瑕疵が発見された。この場合,は,その瑕疵の修補に代えて,又は,修補とともに,に損害賠償を請求することができる。(昭和60年・問10・肢3)

【正解】○

 解説はこちら。⇒ http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/ukeoi-ans4.html

2.「請負契約の目的物たる建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には、は当該建物の建替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することができる。」

【正解:
◆建替え費用相当額の損害賠償請求

   請負契約の目的物たる建物に重大な瑕疵があり,建替えざるを得ない
  場合は,建替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することができます。
  (判例,最高裁・平成14.9.24)

  <的中!> この判例については,当サイトのメルマガの判例研究で掲載しました。

●出題論点●
判例研究●請負の建物に重大な瑕疵があるときは,注文者は建替えに要する
       費用相当額の損害賠償を請求できる(平成14.9.24)

<十影響のスーパー宅建WEBマガジン No.182 平成18年4月4日(火)発行>

 [学習カテゴリー : 請負の担保責任]

 請負の目的物である建物に瑕疵がある場合については,従来は,以下の民法634条1項但書,同2項,635条但書によって判断されてきました。

<まとめ>

 634条 1項但書 
    瑕疵が重要でない場合に,その修補に過分の費用を要するときは
    注文者は 瑕疵修補を請求することはできない。

 634条2項
    注文者は,瑕疵の修補に代えて,又はその修補とともに,損害賠償の請求
    をすることができる。

 635条 但書 
    建物その他の土地の工作物に瑕疵があった場合は,契約をした目的を達す
    ることができないときでも,注文者は,契約の解除をすることができない。

 今回の判例は,重大な瑕疵があるため,台風や地震などで倒壊する危険がある場合に,注文者は,建替えの費用相当額を損害賠償として請求できるかということが争点になっていたのですが,最高裁は,これを認めました。

    注文者 ――→ 請負人

 この裁判で,請負人は,<建替え費用を損害賠償できるとすると契約解除以上の負担を請負人に強いることになり,瑕疵があるために客観的価値が減少したことによる損害を基準として損害賠償を算定するべきである。>と主張していましたが,最高裁は,次のように判示しました。

<要約>

 請負人が建築した建物に重大な瑕疵があり建替えるしかない場合に,当該建物を収去することは社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく,建替えさせてこれに要する費用を請負人に負担させることは,契約の履行責任を負担させるものであり,請負人にとって過酷であるとは言えない。

 したがって,建替えに要する費用相当額を損害賠償請求できるとしても,民法635条但書の趣旨に反するものとは言えない。 

 マンションやホテルの耐震偽造問題を考える上でも参考になる判例と言えると思われます。
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 ちなみに,宅建試験での請負の単独問題は以下のように出題がありました。

 平成元年問8,平成6年問8, 平成7年問10

【参考】 請負と不法行為 平成8年問6

●民法の条文確認
(請負人の担保責任)
第634条
 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。
 ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。

2  注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第533条の規定を準用する。

第635条  仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。
 ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。

(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
第636条
 前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。
 ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。

(請負人の担保責任の存続期間)
第637条
 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。

2  仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。

第638条  建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後5年間その担保の責任を負う。
 ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、10年とする。

2  工作物が前項の瑕疵によって滅失し、又は損傷したときは、注文者は、その滅失又は損傷の時から一年以内に、第634条の規定による権利を行使しなければならない。

(担保責任の存続期間の伸長)
第639条
 第637条及び前条第一項の期間は、第167条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる。

(担保責任を負わない旨の特約)
第640条
 請負人は、第634条又は第635条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。

3.「請負契約の目的物たる建物に瑕疵があり、瑕疵の修補に要する費用が契約代金を超える場合には、は原則として請負契約を解除することができる。」

【正解:×
◆建物その他の土地の工作物の特則−契約の解除はできない

  請負の仕事の目的物に瑕疵があり,契約した目的を達成できないときは,注文者は,原則として,契約を解除することができます。

  しかし,請負の目的物が建物その他の土地の工作物については,注文者は,瑕疵による契約解除をすることはできません(民法635条)

※もし,解除ができるとすると,当事者には原状回復義務があるので,請負人はそれまでに建築した工作物を撤去しなければなりませんが,それでは余りに請負人には過酷だからです。

●関連過去問
 完成した目的物に契約をした目的を達することができない重大な瑕疵があるときは,注文者は,瑕疵の修補又は損害賠償の請求をすることはできないが,契約を解除することができる(平成元年・問8・肢2)

【正解】×

 解説はこちら。⇒ http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/ukeoi-ans5.html

4.「請負契約の目的物たる建物の瑕疵について、が瑕疵担保責任を負わない旨の特約をした場合には、は当該建物の瑕疵についての責任を一切追及することができなくなる。」

【正解:×
◆請負人が瑕疵担保責任を負わない旨の特約をしたとき

   請負契約の目的物たる建物の瑕疵について,請負人が瑕疵担保責任を負わない旨の特約をした場合,その特約は有効です。

   しかし,請負人が知りながら告げなかった事実については,その責任を免れることはできません(民法640条)

●関連過去問
 が建設業者に請け負わせて木造住宅を建築する場合,は,瑕疵担保責任を負わないとする特約をと結ぶこともできるが,その場合でも,が瑕疵の存在を知っていて,に告げなかったときは,免責されない。 (平成6年・問8・肢4)

【正解】○

 解説はこちら。⇒ http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/ukeoi-ans1.html

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