宅建過去問 権利の変動篇
不法行為の過去問アーカイブス 平成19年・問5
不法行為による損害賠償に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。 (平成19年・問5) |
1 不法行為による損害賠償の支払債務は、催告を待たず、損害発生と同時に遅滞に陥るので、その時以降完済に至るまでの遅延損害金を支払わなければならない。 |
2 不法行為によって名誉を毀損された者の慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなかった場合でも、相続の対象となる。 |
3 加害者数人が、共同不法行為として民法第719条により各自連帯して損害賠償の責任を負う場合、その1人に対する履行の請求は、他の加害者に対してはその効力を有しない。 |
4 不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。 |
<コメント> |
●出題論点● |
(肢1) 不法行為では損害発生時点から履行遅滞となる
(肢2) 不法行為による慰謝料請求権は被害者が生前請求意志を表明しなくても相続対象となる (肢3) 不真正連帯債務では,債権を満足させる事由(弁済,代物弁済,供託,相殺)は1人につき生じたものであっても,他の債務者に影響を及ぼす。しかし,債権を満足させる事由以外のもの(履行の請求,更改,債務免除等)は,他の債務者に影響を及ぼさない(相対的効力を有するにとどまる)。 (肢4) 不法行為による損害賠償の請求権は,被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅し,また,不法行為の時から20年を経過したときも消滅する。 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
正答率 | 21.8% |
1 不法行為による損害賠償の支払債務は、催告を待たず、損害発生と同時に遅滞に陥るので、その時以降完済に至るまでの遅延損害金を支払わなければならない。 |
【正解:○】 履行遅滞となる時期について,判例では,「不法行為に基づく損害賠償債務は,なんらの催告を要することなく,損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解すべきである。」としています(最高裁・昭和37.9.4)。 このため,不法行為者は,損害の発生時から完済時点までの遅延損害金を支払わなければなりません。 ▼不法行為による損害賠償請求権の期間の制限の起算点については民法724条に規定されています。⇒肢4参照 |
2 不法行為によって名誉を毀損された者の慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなかった場合でも、相続の対象となる。 |
【正解:○】 不法行為による慰藉料請求権は損害の発生と同時に取得され,被害者が生前にその請求の意思を表明しなくても,被害者が死亡したときは,その相続人は当然に慰藉料請求権を相続します(最高裁・昭和42.11.1)。 生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は,被害者の取得する慰藉料請求権とは別に,固有の慰藉料請求権(民法711条⇒平成13年・問10・肢2出題)を取得しますが,判例では,どちらの慰謝料請求権も併存しうるとされているためです。 |
3 加害者数人が、共同不法行為として民法第719条により各自連帯して損害賠償の責任を負う場合、その1人に対する履行の請求は、他の加害者に対してはその効力を有しない。 |
【正解:○】 共同不法行為者は,各自が連帯してその損害賠償責任を負います。判例によれば,債務者間に主観的共同関係がないことや被害者救済の見地から,この債務は不真正連帯債務とされており,債務者の一人に生じた事由〔履行の請求(時効の中断),免除,時効の完成など〕が他の債務者には影響しないとされています(最高裁・昭和57.3.4など)。※ したがって,「1人に対する履行の請求は,他の加害者に対してはその効力を有しない。」とする本肢は正しい記述です。 ▼不真正連帯債務では,債権を満足させる事由(弁済,代物弁済,供託,相殺)は1人につき生じたものであっても,他の債務者に影響を及ぼす。しかし,債権を満足させる事由以外のもの(履行の請求,更改,債務免除等)は,他の債務者に影響を及ぼさない(相対的効力を有するにとどまる)。 ※ただし,免除については,近年,債権者に特別の意思がある場合は,他の債務者にも効力が及ぶとした以下の判例があります(最高裁・平成10.9.10)。 共同不法行為者の一人と被害者との間で成立した訴訟上の和解における債務の免除の効力が他の共同不法行為者に対しても及ぶ場合がある。 AとBが共同の不法行為によりCに損害を加えたが,AとCとの間で成立した訴訟上の和解により,AがCの請求額の一部につき和解金を支払うとともに,CがAに対し残債務を免除した場合において,Cがこの訴訟上の和解に際しBの残債務をも免除する意思を有していると認められるときは,Bに対しても残債務の免除の効力が及ぶ。 |
4 不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。 |
【正解:×】 不法行為による損害賠償の請求権は,被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅します。また,不法行為の時から20年を経過したとき※も,消滅します(民法724条)。 本肢は,「権利を行使することができることとなった時から10年である。」としているので誤りです。 ※判例・通説では「不法行為から20年を経過したとき消滅する」を除斥期間としていますが,近年,除斥期間の進行の停止を認めた判例や除斥期間の効果を認めなかった判例があり,20年を経過していても損害賠償請求が認められた事例があります(最高裁・平成10.6.12,平成20.1.31)。 |