宅建過去問 権利の変動篇 

担保物権の過去問アーカイブス 平成19年・問7 


担保物権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。  (平成19年・問7)

1 建物の建築工事の費用について、当該工事の施工を行った者が先取特権を行使するためには、あらかじめ、債務者である建築主との間で、先取特権の行使について合意しておく必要がある。

2 建物の賃借人が賃貸人に対して造作買取代金債権を有している場合には、造作買取代金債権は建物に関して生じた債権であるので、賃借人はその債権の弁済を受けるまで、建物を留置することができる。

3 質権は、占有の継続が第三者に対する対抗要件と定められているため、動産を目的として質権を設定することはできるが、登記を対抗要件とする不動産を目的として質権を設定することはできない。

4 借地人が所有するガソリンスタンド用店舗建物に抵当権を設定した場合、当該建物の従物である地下のタンクや洗車機が抵当権設定当時に存在していれば、抵当権の効力はこれらの従物に及ぶ。

<コメント>  
 
●出題論点●
 (肢1)  先取特権を行使する場合に,債務者の合意は必要ではない

 (肢2) 造作買取請求権に基づいて建物を留置することはできない

 (肢3) 動産・不動産のどちらに対しても,質権を設定できる

 (肢4) 抵当権設定当時の従物にも,抵当権の効力が及ぶ

【正解】

× × ×

 正答率  59.3%

1 建物の建築工事の費用について、当該工事の施工を行った者が先取特権を行使するためには、あらかじめ、債務者である建築主との間で、先取特権の行使について合意しておく必要がある。

【正解:×
◆先取特権を行使する場合に,債務者の合意は必要ではない

 先取特権は,留置権と同じで,一定の債権について法律上当然に発生するもの〔法定担保物権〕であり,この点で,当事者間の契約により成立する抵当権や質権〔約定担保物権〕とは異なります。

 また,先取特権の行使は当事者の合意によって行う必要はありません(民法303条)。担保物権は,債務者の債務不履行があれば,いつでも行使できるのですから,本肢は誤りです。 

先取特権は,優先弁済権の目的物によって,以下の三つに大別されます。

 ○ 一般先取特権 (総財産に認められるが,共益費用・雇用関係・葬式費用・
            日用品供給の債権に限られる。306条〜310条)
 ○ 動産先取特権 (法律に定める一定の債権〔民法では8種類〕に認められる。311条)
 ○ 不動産先取特権 (債権としては,不動産工事代金,保存費,売買代金・利息の
                3種類。325条) 

2 建物の賃借人が賃貸人に対して造作買取代金債権を有している場合には、造作買取代金債権は建物に関して生じた債権であるので、賃借人はその債権の弁済を受けるまで、建物を留置することができる。

【正解:×平成5年・問12・肢4,
◆造作買取請求権に基づいて建物を留置することはできない

 他人の物を占有している者は,その物に関して生じた債権を有し,その債権が弁済期にあるときは,その債権の弁済を受けるまで,その物を留置することができます(民法295条1項)

 造作買取請求権に基づいて賃貸借契約の目的物である建物を留置することはできません。造作買取代金債権は,造作に関して生じた債権であって,建物に関して生じた債権ではないからです(最高裁・昭和29.1.14)

不動産の賃貸借と留置権

 不動産の賃貸借に絡んで,留置権の可否を問う問題が宅建試験ではよく出題されています。本肢のほかには,以下について出題歴があります。

留置することはできないとされている事例

・建物の賃貸借終了時に,敷金返還請求権に基づいて,建物を留置することはできないとされています(最高裁・昭和49.9.2)。返還される敷金の額は,建物の明渡し時に決まるので,建物の明渡しと敷金の返還については同時履行の抗弁権も認められていません。⇒平成13年・問9・肢3,

留置することが認められている事例

・建物の賃貸借終了時の費用償還請求権(民法608条,必要費・有益費)に基づいて建物を留置できる。この場合,居住を継続することは建物の保存に必要な使用として認められるが,賃料相当額を不当利得として家主に返還しなければならない。⇒ 平成9年・問3

・土地の賃貸借の建物買取請求権に基づいて建物を留置できる。この場合,建物の敷地の使用は建物の留置の反射的効果として認められるが,地代相当額を不当利得として地主に返還しなければならない(大審院・昭和18.2.18)⇒平成6年・問11・肢4,

3 質権は、占有の継続が第三者に対する対抗要件と定められているため、動産を目的として質権を設定することはできるが、登記を対抗要件とする不動産を目的として質権を設定することはできない。

【正解:×
◆動産・不動産のどちらに対しても,質権を設定できる

 質権の設定は,債権者にその目的物を引き渡すことによって,その効力を生じます(民法344条)。動産,不動産のどちらも,質権の目的物になるので,本肢は誤りです。

動産質 動産質権者は,継続して質物を占有しなければ,その質権をもって第三者に
対抗することができない(民法352条)
不動産質  不動産質権の対抗要件は質権の登記(民法177条)なので,目的物の占有
は第三者に対する対抗要件とはならない。占有を失っても,質権に基づく
返還請求をすることができる(判例)

動産・不動産のほか,財産権〔債権,株式,用益物権,知的財産権(無体財産権)など〕も質権の目的物になります(民法362条1項)

4 借地人が所有するガソリンスタンド用店舗建物に抵当権を設定した場合、当該建物の従物である地下のタンクや洗車機が抵当権設定当時に存在していれば、抵当権の効力はこれらの従物に及ぶ。

【正解:平成元年・問7・肢3,
◆抵当権設定当時の従物にも,抵当権の効力が及ぶ

 抵当権は,設定行為に別段の定めがある場合等を除いて,抵当地の上に存する建物を除き,抵当不動産に付加して一体となっている物〔抵当地の上に存する建物を除く。〕に及びます(民法370条)

 判例では,抵当権設定当時の従物(民法87条1項)は,抵当権の効力から除外する等,特段の事情のないかぎり,この付加一体物に含まれるとしています(最高裁・昭和44.3.28)

 本肢は,「借地上のガソリンスタンドの店舗に設定された抵当権は,従物である地下のタンク,洗車機,経済的に一体をなして営業に使用されている設備にも抵当権の効力が及ぶ」とした判例(最高裁・平成2.4.19)に基づいて出題されたものです。


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