宅建過去問 権利の変動篇
債権譲渡の過去問アーカイブス 平成19年・問9
債権の譲渡に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。 (平成19年・問9) |
1 指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各債権譲渡通知が同時に債務者に到達したときは、各債権譲受人は、債務者に対し、債権金額基準で按分した金額の弁済請求しかできない。 |
2 指名債権の性質を持つ預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡については、ゴルフ場経営会社が定める規定に従い会員名義書換えの手続を完了していれば、確定日付のある債権譲渡通知又は確定日付のある承諾のいずれもない場合でも、ゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗できる。 |
3 契約時点ではまだ発生していない将来債権でも、発生原因や金額などで目的債権を具体的に特定することができれば、譲渡することができ、譲渡時点でその債権発生の可能性が低かったことは譲渡の効力を直ちに否定するものではない。 |
4 指名債権譲渡の予約契約を締結し、この予約契約締結の事実を確定日付のある証書により債務者に通知していれば、予約の完結によりなされる債権譲渡の効力を債務者以外の第三者に対抗することができる。 |
<コメント> |
●出題論点● |
(肢1) 指名債権が二重に譲渡され,確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達したときは,各譲受人は,債務者に対しそれぞれの譲受債権全額の弁済を請求することができる。
(肢2) 預託金制ゴルフクラブの会員権の譲渡では,指名債権の譲渡に準じて,ゴルフ場経営会社への会員権譲渡の通知やゴルフ場経営会社の承諾が第三者への対抗要件となる。 (肢3) 契約時点ではまだ発生していない将来債権でも,発生原因や金額などで目的債権を具体的に特定することができれば,譲渡すること〔債権譲渡の予約〕ができる。 (肢4) 債権譲渡の予約について,確定日付のある債務者に対する通知や債務者の承諾があっても,予約完結による債権譲渡の効力を第三者には対抗できない |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
正答率 | 36.3% |
1 指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各債権譲渡通知が同時に債務者に到達したときは、各債権譲受人は、債務者に対し、債権金額基準で按分した金額の弁済請求しかできない。 |
【正解:×】
債権譲受人A 債権が二重譲渡され,確定日付のある債権譲渡通知が同時に債務者に到達したときは,各譲受人は,債務者に対しそれぞれの譲受債権全額の弁済を請求することができます(民法467条,最高裁・昭和55.1.11)。譲渡通知が同時に到達したときの優劣はありません。 しかし,第三債務者YはAB双方に二重弁済をする必要はありません。例えば,YがAに弁済すれば,YはBに弁済することを免れます。 したがって,ABのうちいずれか一方が弁済を受けると,他方はYから弁済を受けることはできなくなります。 譲り受けた債権の弁済を受けられなかった債権譲受人は,もとの債権者のXに対して損害賠償を請求できます。 |
2 指名債権の性質を持つ預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡については、ゴルフ場経営会社が定める規定に従い会員名義書換えの手続を完了していれば、確定日付のある債権譲渡通知又は確定日付のある承諾のいずれもない場合でも、ゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗できる。 |
【正解:×】 会員権の譲受人A 判例では,預託金制ゴルフクラブの会員権の譲渡について,指名債権の譲渡に準じて,ゴルフ場経営会社への会員権譲渡の通知やゴルフ場経営会社の承諾を対抗要件としています(民法467条,最高裁・平成8.7.12)。 したがって,会員名義書換えの手続を完了していても,確定日付のある会員権の譲渡通知または確定日付のある承諾のいずれもない場合には,ゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗することはできないので,本肢は誤りです。
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3 契約時点ではまだ発生していない将来債権でも、発生原因や金額などで目的債権を具体的に特定することができれば、譲渡することができ、譲渡時点でその債権発生の可能性が低かったことは譲渡の効力を直ちに否定するものではない。 |
【正解:○】 契約時点ではまだ発生していない将来債権でも,発生原因や金額などで目的債権を具体的に特定することができれば,譲渡すること〔債権譲渡の予約〕ができます(民法466条1項,最高裁・平成12.4.21)。 また,将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時において目的債権の発生の可能性が低かったことは債権譲渡契約の効力を当然には左右しないとされています(最高裁・平成11.2.29)。 |
4 指名債権譲渡の予約契約を締結し、この予約契約締結の事実を確定日付のある証書により債務者に通知していれば、予約の完結によりなされる債権譲渡の効力を債務者以外の第三者に対抗することができる。 |
【正解:×】 判例では,指名債権譲渡の予約について確定日付のある証書により債務者に対する通知またはその承諾がされても,債務者は,予約完結権の行使により当該債権の帰属が将来変更される可能性があることを了知するに止まり,当該債権の帰属に変更が生じた事実を認識するものではないので,当該予約の完結による債権譲渡の効力は,当該予約についてされた通知または承諾をもって,第三者に対抗することはできないとしています(民法467条2項,556条1項,最高裁・平成13.11.27)。 |
●動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律 |
指名債権の譲渡では,「法務局で備える債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは,確定日付のある証書による通知があったものとみなす」という制度があります。
しかし,この制度は,法人が 債権(金銭の支払を目的とする指名債権)を譲渡したときに限って適用されることや必ずしも法人の債権譲渡のすべてで行われているのではないことから,民法の債権譲渡の規定はまだまだ生きています。 ●動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(平成10年6月12日法律第104号) 法人が債権(金銭の支払を目的とする指名債権に限る。)を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、民法第467条 の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなす。この場合においては、当該登記の日付をもって確定日付とする。 |