宅建過去問 権利の変動篇
債権の保全の過去問アーカイブス 平成20年・問5 詐害行為取消権
Aは、Bに対する債権者であるが、Bが債務超過の状態にあるにもかかわらずB所有の甲土地をCに売却し所有権移転登記を経たので、民法第424条に基づく詐害行為取消権 (以下この問において「取消権」という。) の行使を考えている。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。 (平成20年・問5) |
1 対象となる詐害行為が行われた時点において、AのBに対する債権が、発生済みでかつ履行期が到来している場合でなければ、Aは取消権を行使できない。 |
2 Cが甲土地の購入時においてこの購入がBの債権者を害すべきことを知らなかったとしても、Bが売却時においてこの売却がBの債権者を害することを意図していた場合は、Aは取消権を行使できる。 |
3 Bが甲土地の売却においてCから相当の対価を取得しているときは、Aは取消権を行使できない。 |
4 Aが取消権を行使できる場合でも、AはCに、直接自分に対して甲土地の所有権移転登記をするよう求めることはできない。 |
●詐害行為取消権 | |
詐害行為とは,債務者の行為によって責任財産が減少して無資力になり,債権者に対して弁済不能になることをいいます。 債権者取消権(詐害行為取消権)は,強制執行の前段階として位置づけられ,債務者が財産を減少させる行為(詐害行為)をして無資力になった場合に,債権者にその詐害行為を取消しできる権利を認めることにより,債務者の責任財産を保全するためのものです〔債務者が無資力から回復していたときは詐害行為取消権を行使する必要はない〕。 詐害行為取消権は常に裁判上で行使しなければならず(民法424条1項,最高裁・昭和39.6.12),訴える相手は受益者または転得者です(判例)。 取消権の行使
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<コメント> |
詐害行為取消権はほぼ初出題であるのに,それに加えてほとんど判例からの出題というのは納得できないかもしれません。しかし,条文がわずかに3条しかないため,判例を出さないと問題にならないので,やむを得ないと思います。 |
●出題論点● |
(肢1) 〔判例〕 債権者の有する債権〔被保全債権〕が詐害行為より前に発生していれば,債務者が詐害行為をした時点で,債権者の有する債権の履行期が到来していなくても,詐害行為取消権を行使できる。
(肢2) 受益者がその行為によって債権者を害することになることを知らなかった(善意)場合には,債権者は,受益者に対して詐害行為取消権を行使することはできない。 (肢3) 〔判例〕 相当価格による売却であっても,原則として詐害行為になる。 (肢4) 〔判例〕 債権者は,直接自己に対して所有権移転登記を求めることはできない。 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | ○ |
正答率 | 35.3% |
1 対象となる詐害行為が行われた時点において、AのBに対する債権が、発生済みでかつ履行期が到来している場合でなければ、Aは取消権を行使できない。 |
【正解:×】 債権者の有する 債務者の 債権者の有する債権〔被保全債権〕が詐害行為より前に発生していれば,債務者が詐害行為をした時点で,債権者の有する債権の履行期が到来していなくても,詐害行為取消権を行使できます(大審院・大正9.12.27)。 履行期が到来している債権者でなければ詐害行為取消権を行使できないとすると,債権者が正当な弁済を受けること〔本来の趣旨〕が実現できなくなるからです。 本肢は,「債権者の債権が,発生済みでかつ履行期が到来している場合でなければ,債権者は取消権を行使できない。 」としているので,誤りです。 ▼詐害行為として債権者取消権の対象となるのは,詐害行為が債権者の有する債権の発生時期よりも後でなければならず,債権者の有する債権が詐害行為後に発生した場合は,債権者は詐害行為取消権を行使することはできません(詐害行為取消権の対象とはならない)(最高裁・昭和55.1.24)。詐害行為後に発生した債権については,詐害行為によって債権者が害されたとはいえないためです。 |
2 Cが甲土地の購入時においてこの購入がBの債権者を害すべきことを知らなかったとしても、Bが売却時においてこの売却がBの債権者を害することを意図していた場合は、Aは取消権を行使できる。 |
【正解:×】 詐害行為取消権は,1)債務者自身が債権者を害することを知っていたこと〔その行為によって総債権者に弁済するのに資力が不足することになることを知っていた〕,かつ,2)受益者または転得者がその行為または転得が債権者を害すべきことを知っていたこと,この二つの要件がともにそろっている場合に限り,行使することができます。受益者が善意の場合には,受益者に対して詐害行為取消権を行使することはできません(民法424条1項)。 本肢は,「C(受益者)が・・・B(債務者)の債権者を害すべきことを知らなかったとしても、・・・A(債権者)は取消権を行使できる。 」としているので,誤りです。 |
3 Bが甲土地の売却においてCから相当の対価を取得しているときは、Aは取消権を行使できない。 |
【正解:×】 不当に安価な価格での売却が詐害行為になるのは当然ですが,判例では,相当価格による売却であっても,債務者の資産が消費されやすい金銭に変わるので原則として詐害行為になるとしています(大審院・明治39.2.5)。 したがって,「相当の対価を取得しているときは,詐害行為取消権を行使することはできない。 」としている本肢は誤りです。 ●注意●詐害行為にならない場合 1)離婚に伴う財産分与は不相当に過大であるなどの特段の事情がない限り,詐害行為にはならない。⇔贈与は,詐害行為取消権の対象となりますが,離婚に伴う財産分与は例外です。 2)債務者が相続を放棄することは,身分行為について他人が強制することはできないから,詐害行為にはならない。 3)生活費などの有用の資を弁ずる目的で不動産を売却した場合は,詐害行為にはならない。 |
4 Aが取消権を行使できる場合でも、AはCに、直接自分に対して甲土地の所有権移転登記をするよう求めることはできない。 |
【正解:○】 詐害行為取消権の目的物が動産の場合は,債権者は直接自己に引渡しするように求めることができます(最高裁・昭和39.1.23)。⇒債務者が受領を拒否すると責任財産の保全ができなくなるから。 しかし,目的物が不動産の場合には,登記を債務者の名義にするように求めることはできますが,債権者が直接自己に対して所有権移転登記をするように求めることはできません(最高裁・昭和53.10.5)。詐害行為取消権は,債権者全体の債権を担保する債務者の責任財産を保全するためのものだからです。 |
●条文確認 |
(詐害行為取消権) 第424条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。 2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。 |
(詐害行為の取消しの効果) 第425条 前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。 |
(詐害行為取消権の期間の制限) 第426条 第424条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。 |