宅建過去問  権利の変動篇

弁済の過去問アーカイブス 平成20年・問8 第三者の弁済


弁済に関する次の1から4までの記述のうち、判決文及び民法の規定によれば、誤っているものはどれか。  (平成20年・問8)

(判決文)

 借地上の建物の賃借人はその敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有すると解するのが相当である。思うに、建物賃借人と土地賃貸人との間には直接の契約関係はないが、土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明け渡すべき義務を負う法律関係にあり、建物賃借人は、敷地の地代を弁済し、敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有するものと解されるからである。

1 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人は、借地人の意思に反しても、地代を弁済することができる。

2 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を支払おうとしても、土地賃貸人がこれを受け取らないときは、当該賃借人は地代を供託することができる。

3 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人は、土地賃貸人の意思に反しても、地代について金銭以外のもので代物弁済することができる。

4 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を弁済すれば、土地賃貸人は借地人の地代の不払を理由として借地契約を解除することはできない。

<この問題を解くための前提>
1) 第三者の弁済を許さない旨の特約はない

 第三者の弁済は,債権者と債務者の間で,第三者の弁済を許さないとする特約があるときには,することができません(民法474条1項但書)

 しかし,本問題の場合,このような特約はないものとして作問されたと考えられます。なぜならば,この前提に立たないと,肢1の「借地人の意思に反しても」などの表現が意味をなさなくなってしまうからです。

2) 第三者の弁済

 法律上の利害関係がある第三者は,債務者の意思に反してでも,第三者の弁済をすることができます(民法474条2項の反対解釈)。 [ただし,債務の性質が許さない場合を除く]

 判例で,法律上の利害関係がある第三者として認められているのは,

 物上保証人,担保不動産を取得した第三者(第三取得者),後順位の抵当権者
(最高裁・昭和39.4.21など)

 借地上の建物の賃借人(最高裁・昭和63.7.1)

 です。本問題の判決文は,この昭和63年の判例に基づいています。

(3)第三者の弁済の注意点

 第三者の弁済は,通常の弁済だけでなく,代物弁済(債権者の承諾があるときに限る),供託(債権者が弁済の受領を拒むとき,債権者が弁済を受領できないとき,弁済者が過失なく債権者を確知できないとき)をすることもできます。

 ただし,その第三者が債権者に対して有する債権を自働債権として相殺をすることはできません(大審院・昭和8.12.5)

<コメント>  
  (平成17年・問7・肢1に,借地上の建物の賃借人による第三者の弁済を素材にした問題が出題されています。)

 本問題は,判決文から,<借地上の建物の賃借人が法律上の利害関係がある第三者>であることを知った上で,第三者の弁済に関する幾つかの論点を問うたものですが,司法試験,司法書士などで出題されている学説・判例問題にも類似した構成になっています。 

※学説・判例問題=一つの学説や判例に合致するもの(合致しないもの),または正しいもの(誤っているもの)を選べという問題形式。
 
 判例そのものはすでに宅建試験でも出題されているものであり,正解肢は昭和55年・問12・肢4でも出題されていたものでした。判決文を掲載したのは何か意味があるのか(落とし穴はあるのか)と疑心暗鬼になった受験者の方が多かったようですが,"素直に解いたほうが勝ち"という問題でした。

 第三者の弁済 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/bensai-ans0.html
●出題論点●
 (肢1) 法律上の利害関係がある第三者は,債務者の意思に反してでも,
     第三者の弁済をすることができる

 (肢2) 債権者が弁済の受領を拒むときは,法律上の利害関係がある第三者も,
     債権者のために弁済の目的物を供託することで債務を免れることが
     できる
(民法494条)。 

 (肢3) 法律上の利害関係がある第三者も,代物弁済をすることができるが,
     代物弁済をするには,債権者の承諾が必要である(民法482条)

 (肢4) 法律上の利害関係がある第三者が弁済すれば,債権者に対する債務者の
     債務は消滅する
(債務者は債務不履行ではなくなる)ので,債権者は,
     契約を解除することはできない。

【正解】3

×

 正答率  68.5%

1 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人は、借地人の意思に反しても、地代を弁済することができる。

【正解:昭和55年・問12・肢1,昭和62年・問11・肢1,平成5年・問6・肢1・肢2,
       平成11年・問5・肢1,平成16年・問4・肢1,平成17年・問7・肢1,
◆法律上の利害関係がある第三者の弁済

 法律上の利害関係がある第三者は,<債権者と債務者の間で,第三者の弁済を許さないとする特約がない場合には>債務者の意思に反してでも,第三者の弁済をすることができます(民法474条2項)

 判例により,借地上の建物の賃借人は法律上の利害関係がある第三者として認められているので,借地上の建物の賃借人は,借地人の意思に反しても,地代を弁済することができます。 

●関連過去問
は、土地所有者から土地を賃借し、その土地上に建物を所有してに賃貸している。

 は、借賃の支払債務に関して法律上の利害関係を有しないので、の意志に反して、債務を弁済することはできない。(平成17年・問7・肢1)
 B (土地の所有者)
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 A (土地の賃借人,建物の賃貸人) ― C  (借地上の建物の賃借人)

 【正解】×

2 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を支払おうとしても、土地賃貸人がこれを受け取らないときは、当該賃借人は地代を供託することができる。

【正解:平成17年・問7・肢4,第三者の弁済での供託は初出題
◆第三者の弁済供託

 法律上の利害関係がある第三者も,

 1) 債権者が弁済の受領を拒むとき〔受領を拒絶〕,
 2) 債権者が(何らかの理由により)弁済を受領できないとき〔受領不能〕,
 3) 過失なく債権者を確知できないとき〔債権者不確知〕,

 は,供託により債務を免れることができます(民法494条)
 ⇒ 第三者の弁済を債権者が受領しなければ,債権者の受領遅滞となる
     (民法413条)

 したがって,借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を支払おうとした場合に(弁済の提供をした場合に),土地賃貸人が受け取ろうとしないときは,地代を供託することができます。

※供託については,以下を参照してください。
 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/bensai-ne2.html

3 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人は、土地賃貸人の意思に反しても、地代について金銭以外のもので代物弁済することができる。

【正解:×昭和55年・問12・肢4,第三者の弁済としての代物弁済は初出題
◆代物弁済は,債権者の承諾がなければ,することはできない

 債務者だけでなく,法律上の利害関係がある第三者も,代物弁済をすることができますが,代物弁済をするには債権者の承諾が必要です(民法482条)。→ 昭和55年・問12出題

 したがって,借地上の建物の賃借人は、土地賃貸人の意思に反して,地代について金銭以外のもので代物弁済することはできません。

※代物弁済については,以下をご覧ください。
 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/bensai-ne.html
 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/bensai-ans2.html

●関連過去問
 債権者の同意を得たときは,負担した給付に代えて他の給付をしても,弁済した
 ことになる。(昭和55年・問12・肢4)
【正解:○】

〔類題〕債務者以外の第三者は,たとえ弁済につき利害関係を有するときでも
    代物弁済をすることができない。(司法書士・昭和58年)
【正解 : ×】債権者の承諾を得れば,債務者だけでなく,第三者も代物弁済をすことができる。

4 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を弁済すれば、土地賃貸人は借地人の地代の不払を理由として借地契約を解除することはできない。

【正解:
◆第三者の弁済により,債権者に対しては,債務者の債務は消滅する

 法律上の利害関係がある第三者が弁済したときは,債権者に対する債務者の債務は消滅する(債務不履行ではなくなる)ので,債権者は,契約を解除することはできません。

 このため,借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を弁済すれば,土地賃貸人は借地人の地代の不払を理由として借地契約を解除することはできないことになります。


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