宅建過去問 権利の変動篇
担保責任の過去問アーカイブス 平成20年・問9 瑕疵担保責任,
抵当権等がある場合における売主の担保責任,裁判外の請求,
瑕疵担保責任の損害賠償請求の消滅時効
宅地建物取引業者であるAが、自らが所有している甲土地を宅地建物取引業者でないBに売却した場合のAの責任に関する次の記述のうち、民法及び宅地建物取引業法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。 (平成20年・問9) |
1 売買契約で、Aが一切の瑕疵担保責任を負わない旨を合意したとしても、Aは甲土地の引渡しの日から2年間は、瑕疵担保責任を負わなければならない。 |
2 甲土地に設定されている抵当権が実行されてBが所有権を失った場合、Bが甲土地に抵当権が設定されていることを知っていたとしても、BはAB間の売買契約を解除することができる。 |
3 Bが瑕疵担保責任を追及する場合には、瑕疵の存在を知った時から1年以内にAの瑕疵担保責任を追及する意思を裁判外で明確に告げていればよく、 1年以内に訴訟を提起して瑕疵担保責任を追及するまでの必要はない。 |
4 売買契約で、Aは甲土地の引渡しの日から2年間だけ瑕疵担保責任を負う旨を合意したとしても、Aが知っていたのにBに告げなかった瑕疵については、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権が時効で消滅するまで、Bは当該損害賠償を請求できる。 |
<この問題を解くための前提> |
1) 民法での瑕疵担保責任の位置づけ
民法では,特定物の売買契約の当事者が瑕疵担保責任の定めをしない場合は, 2) 売主が宅建業者であるときの特則 民法では瑕疵担保責任は任意規定のため原則として当事者間の定めによりますが,宅建業法では,消費者保護のため,宅建業者が自ら売主の場合に民法より厳しい規制をしています。 宅建業者は,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結する際に,宅地建物の引渡しの日から2年間だけ瑕疵担保責任を負う旨の特約を定めることができます(宅建業法40条)が, これ以外の民法の瑕疵担保の規定に反する特約〔善意無過失の買主が担保責任を追及できること,売主は無過失でも瑕疵担保責任を負う,瑕疵により目的を達成できないとき買主は契約を解除できる〕をしたときはその特約は無効になります。 |
<コメント> |
初出題もありますが(裁判外の請求,瑕疵担保責任の損害賠償請求の消滅時効),1000本ノックの本編や宅建過去問でも扱っていたものです。 正答率が低いのは,肢1に戸惑った方,肢3の判例や肢4の条文知識を知らなかった方がいたためと思われます。 なお,宅建業法を絡めての出題は模擬試験や予想問題などでも予想されていたものでした。宅建業法に関連するのは,肢1,肢4だけですが,民法の問題で宅建業法に関連した出題は初めてです(宅建業法で,宅建業法及び民法によればという出題は過去にありました)。都市計画法の出題数の減少とともにこれも新試験を予想させる出題でした。 |
●出題論点● |
(肢1) 宅建業者が瑕疵担保責任を負わないとする特約を締結することは,宅建 業法では無効であり,瑕疵担保責任は民法の原則に立ち返り,善意無過 失の買主は,その事実を知った時から1年以内ならば,損害賠償請求ま たは契約の解除をすることができる(民法570条,566条3項)。 (肢2) 抵当権の行使により,買主が取引物件の所有権を失ったときは,買主は, (肢3) 瑕疵担保責任による損害賠償請求は裁判上の権利行使をする必要はなく, (肢4) 売主が知っていて告げなかった事実については,特約で免責や担保責任 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
正答率 | 57.5% |
1 売買契約で、Aが一切の瑕疵担保責任を負わない旨を合意したとしても、Aは甲土地の引渡しの日から2年間は、瑕疵担保責任を負わなければならない。 |
【正解:×】宅建業法では頻出 宅建業法では,宅建業者が自ら売主で,買主が宅建業者でない場合は,瑕疵担保責任は任意規定ではなく,強行規定です。『自ら売主の宅建業者が宅建業者ではない買主に対して瑕疵担保責任を負わない』のは宅建業法違反であり,この特約は無効です。 瑕疵担保責任を負う期間を引渡しから2年とすることはできますが(引渡しから2年より長い期間を定めた場合は有効),これを除いて,民法に定める瑕疵担保責任の規定より買主に不利な特約をした場合※は無効になるからです(宅建業法40条1項,2項)。 ※民法に定める瑕疵担保責任の規定より買主に不利な特約〔瑕疵担保責任を負う期間〕 ・瑕疵担保責任を負わない, ・瑕疵担保責任を負う期間を引渡しから2年未満にする〔例 契約締結から2年,引渡しから1年など〕 |
2 甲土地に設定されている抵当権が実行されてBが所有権を失った場合、Bが甲土地に抵当権が設定されていることを知っていたとしても、BはAB間の売買契約を解除することができる。 |
【正解:○】平成8年・問8・肢3,平成17年・問9・肢4, 買主が,先取特権や抵当権が行使されたことにより所有権を失ったときは契約を解除することができます(民法567条1項)。また,契約解除とともに損害賠償を請求することができます(民法567条3項)。 |
□抵当権が設定されている場合の民法のそのほかの規定 |
(抵当権等がある場合における売主の担保責任) 民法567条 売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。 2 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。 ⇒ 重要 3 前二項の場合において、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。 2 前項の規定は、買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。 |
3 Bが瑕疵担保責任を追及する場合には、瑕疵の存在を知った時から1年以内にAの瑕疵担保責任を追及する意思を裁判外で明確に告げていればよく、 1年以内に訴訟を提起して瑕疵担保責任を追及するまでの必要はない。 |
【正解:○】初出題 判例により,瑕疵担保責任による損害賠償請求は裁判上の権利行使をする必要はなく,裁判外の請求でもよいとされています(最高裁,平成4.10.20)。 |
4 売買契約で、Aは甲土地の引渡しの日から2年間だけ瑕疵担保責任を負う旨を合意したとしても、Aが知っていたのにBに告げなかった瑕疵については、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権が時効で消滅するまで、Bは当該損害賠償を請求できる。 |
【正解:○】関連・昭和60年・問5・肢4,平成4年・問5, 売主が知っていて告げなかった事実(瑕疵)については,特約で売主の免責を定めていた場合や担保責任を負う期間を特約で定めてその期間が過ぎている場合であっても,その責任を免れることはできません(572条,判例)。 |
■隠れ論点■ 瑕疵担保による損害賠償請求権の消滅時効 |
瑕疵担保による損害賠償請求権にも消滅時効が適用される。 買主が売買の目的物の引渡しを受けたときから進行し, 10年の消滅時効にかかる(民法167条1項)。 (最高裁・平成13.11.27) ⇒ 買主が永久に瑕疵担保責任を追及できるとすると,売主には負担が重すぎ るためである。 |
〔判例要旨〕 平成13.11.27 (引渡しから10年経過後に瑕疵を知ったとして,損害賠償請求をしたが, その請求が認められなかった事例) 買主の売主に対する『瑕疵担保による損害賠償請求権』は,売買契約に基づいて法律上生ずる金銭支払請求権であるから,消滅時効の規定の適用(167条1項)があり,この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する。 したがって,買主が引渡しより10年以上経過してから瑕疵に気がついても,損害賠償請求をすることはできない。 〔ただし,住宅品確法〔住宅の品質確保の促進等に関する法律〕などで当事者間に10年を超える担保責任の定めがある場合を除く。〕 |
●宅建業者の責任に関する民法の今後の出題予想 |
大別すれば,1)媒介の場合の責任 (参照・平成15年・問10・肢4の解説),2)自ら売主の8種制限 (瑕疵担保責任,解約手付,損害賠償額の予定,他人物売買の禁止,) の二つの出題が予想されます。 |