宅建過去問  権利の変動篇

意思表示の過去問アーカイブス 錯誤 (平成21年・問1)


 民法第95条本文は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」 と定めている。これに関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。(平成21年・問1)

1 意思表示をなすに当たり、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

2 表意者自身において、その意思表示に瑕疵(かし)を認めず、民法第95条に基づく意思表示の無効を主張する意思がない場合は、第三者がその意思表示の無効を主張することはできない。

3 意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容とし、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合は、法律行為の要素となる。

4 意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容としたが、その旨を相手方に黙示的に表示したにとどまる場合は、法律行為の要素とならない。

<コメント>  
  錯誤は,近年では,平成13年,17年に出題されており,受験者にもポピュラーなものになっています。正解肢の肢4は実質的には初出題ですが,13年,17年に関連出題があるため,過去問学習できちんと整理しておけば対処できたはずです。
●出題論点●
 (肢1) 〔条文ソノママ〕 表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自ら
                    その無効を主張することができない。

 (肢2) 〔判例〕 表意者に無効を主張する意思がない場合,第三者は,原則として,
                無効を主張することはできない(最高裁・昭和40.9.10)

 (肢3,肢4)〔判例〕 動機が,明示または黙示に表示されれば,法律行為の内容
                     となり,それが要素の錯誤に該当すれば,その意思表示は無効と
                     なる(大審院・大正3.12.15)

【正解】

×

●条文確認
(錯誤) 
第95条  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張する
ことができない。

法律行為の要素」・・・「法律行為の中で重要な部分」と解する学説もある。

1 意思表示をなすに当たり、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

【正解:13-2-4,17-2-3, (参考)重大な過失がないとき2-4-3,6-2-2,
◆重過失が表意者にあるときは無効の主張はできない

 表意者が錯誤による無効を主張するには,意思表示をするにあたって,表意者自身に重大な過失がないことが条件です。

 表意者に重大な過失があれば,表意者自身にその責任があります。取引の安全を図り,相手方や第三者を保護するため,重大な過失があった表意者は,錯誤による無効を主張することができません(民法95条但書)

 本肢は,民法95条但書ソノママの知識で正誤が判定できます。

表意者に重過失があったことの立証責任は,相手方にあるとされています(大審院・大正7.12.3)。立証責任は,証明によって利益を受ける者が負うからです。

ただし,表意者に重過失があることを相手方が知っていた場合(悪意の場合)は,そのような相手方を保護する必要はないとされ,民法95条但書は適用されません(判例・通説)。

2 表意者自身において、その意思表示に瑕疵(かし)を認めず、民法第95条に基づく意思表示の無効を主張する意思がない場合は、第三者がその意思表示の無効を主張することはできない。

【正解:61-4-3,13-2-2,17-2-4,
◆表意者に無効を主張する意思がないときは,第三者は,原則として,無効を主張することはできない

 錯誤による無効は,表意者を保護するための制度なので,錯誤による無効は表意者のみがすることができるとされています(取消的無効)。

 そのため,表意者に無効を主張する意思がない場合,第三者は,原則として,無効を主張することはできません(最高裁・昭和40.9.10)

第三者が錯誤による無効を主張できる場合

 表意者が意思表示に瑕疵があったと認めていても,錯誤による無効を主張していない場合,第三者は,債権者代位権の行使として,表意者に対する債権を保全するために,錯誤による無効を主張できるとした判例があります(最高裁,昭和45.3.26)

3 意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容とし、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合は、法律行為の要素となる。

【正解:17-2-2,
◆動機が明示されれば,法律行為の要素となる

 動機による錯誤は原則として95条の錯誤には該当しない(つまり無効を主張することはできない)と解されています。しかし,意思表示をするにあたっての動機が,明示または黙示に表示されれば,法律行為の内容となるので,それが要素の錯誤に該当すれば,その意思表示は無効であるとされています(大審院・大正3.12.15)

4 意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容としたが、その旨を相手方に黙示的に表示したにとどまる場合は、法律行為の要素とならない。

【正解:×13-2-3,
◆動機が黙示であっても表示されれば,法律行為の要素となる

 判例で,意思表示をするに当たっての動機が黙示であっても表示されていれば錯誤による無効を主張できるとされているので,本肢は誤りです。

基本書によっては,「動機を黙示的に表示した場合でも表意者は無効を主張できる」との記述がないものがあります。出題者は,そのへんを狙って出題したものと考えられます。


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