宅建過去問  権利の変動篇

時効の過去問アーカイブス  消滅時効 平成21年・問3


 Aは、Bに対し建物を賃貸し、月額10万円の賃料債権を有している。この賃料債権の消滅時効に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。(平成21年・問3)

1 が、に対する賃料債権につき支払督促の申立てをし、さらに期間内に適法に仮執行の宣言の申立てをしたときは、消滅時効は中断する。

2 が、との建物賃貸借契約締結時に、賃料債権につき消滅時効の利益はあらかじめ放棄する旨約定したとしても、その約定に法的効力は認められない。

3 が、に対する賃料債権につき内容証明郵便により支払を請求したときは、その請求により消滅時効は中断する。

4 が、賃料債権の消滅時効が完成した後にその賃料債権を承認したときは、消滅時効の完成を知らなかったときでも、その完成した消滅時効の援用をすることは許されない。

<コメント>  
 肢2,肢4は出題歴があるので,肢1と肢3のどちらかが誤りだということはすぐわかります。肢1の支払督促の申立ては初出題なので,迷った受験者の方が多かったと思います。

 「内容証明郵便による支払請求」が催告であることがわかったかどうかが分かれ目でした。

●出題論点●
 (肢1) 支払督促の手続きによって消滅時効を中断させるには,仮執行宣言の申立てをしなければならない。

 (肢2) 時効の利益は,あらかじめ放棄することができない。

 (肢3) 内容証明郵便による支払請求は民法153条の『催告』に該当する。催告は,6ヶ月以内に裁判上の請求等をしなければ,時効中断の効力を生じないので,内容証明郵便により支払を請求しただけでは,消滅時効は中断しない。

 (肢4) 時効援用権の喪失−消滅時効完成後に債務の承認をした者は,それ以後消滅時効の完成を援用することはできない。

【正解】

×

 正答率  44.1%

●条文確認
(時効の中断事由)
第147条  時効は、次に掲げる事由によって中断する。

一  請求(149条〜153条)

二  差押え、仮差押え又は仮処分 (154条〜155条)

三  承認  (156条)

 請求

 民法147条1号の「請求」には,裁判上の請求(149条)のほかに,裁判外のものとしては、支払督促(150条)、和解及び調停の申立て(151条)、破産手続参加(152条)、催告(153条)などがあります。ただし,その効力や時効中断時点については各条で定められています。

1 が、に対する賃料債権につき支払督促の申立てをし、さらに期間内に適法に仮執行の宣言の申立てをしたときは、消滅時効は中断する。

【正解:初出題
◆支払督促ー請求

●条文確認
(支払督促)
第150条  支払督促は、債権者が民事訴訟法第392条 に規定する期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。

 支払督促とは,債権者からの申立てにより金銭等の給付を目的とする請求について,裁判所書記官が債務者に対して発するものです(民事訴訟法382条,388条)

 支払督促は,債権者が仮執行宣言の申立てができるときから30日以内に仮執行宣言の申立てをしなければ,その効力が失われます〔期間の徒過による支払督促の失効〕(民事訴訟法392条)

 つまり, 支払督促の申立てをしただけでは消滅時効は中断せず,支払督促の手続きによって消滅時効を中断させるには,仮執行宣言の申立てをしなければなりません(民法150条)

支払督促の送達後に,『債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てをしないときに,裁判所書記官が,債権者の申立てにより,支払督促に手続の費用額を付記して仮執行の宣言をしなければならない』ことになっています。(民事訴訟法391条1項)

支払督促の申立ては,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してすることになっています(民事訴訟法383条1項)

2 が、との建物賃貸借契約締結時に、賃料債権につき消滅時効の利益はあらかじめ放棄する旨約定したとしても、その約定に法的効力は認められない。

【正解:昭和58年・問11・肢3
◆時効の利益はあらかじめ放棄することができない

 時効の利益は,時効完成前にあらかじめ放棄することができません(民法146条)

 したがって,契約締結時に、消滅時効の利益をあらかじめ放棄する旨約定したとしても,その約定に法的効力は認められず,無効です。

あらかじめ時効の利益の放棄を認めると,債権者が債務者に放棄を強いるなど濫用される恐れがあるからです。

3 が、に対する賃料債権につき内容証明郵便により支払を請求したときは、その請求により消滅時効は中断する。

【正解:×関連・平成元年・問2・肢2
◆内容証明郵便による支払請求−裁判外の催告

●条文確認
(催告)
第153条  催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事審判法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。

ここでいう催告には,「裁判外の催告」と「裁判上の催告」(特殊なケースなので覚える必要はありません)と二つある。

 <裁判外で,権利者が時効の利益を受ける者に対して履行を請求する意思を通知する催告>では,特に形式・方法等は定められていませんが,証拠を保全する目的で内容証明郵便がよく使われています。

 つまり, 内容証明郵便による支払請求は民法153条の『催告』に該当します。

 催告は,6ヶ月以内に裁判上の請求等をしなければ,時効中断の効力を生じないので,内容証明郵便により支払を請求しただけでは,消滅時効は中断しません。

4 が、賃料債権の消滅時効が完成した後にその賃料債権を承認したときは、消滅時効の完成を知らなかったときでも、その完成した消滅時効の援用をすることは許されない。

【正解:平成17年・問4・肢4
◆〔判例〕時効援用権の喪失−消滅時効完成後に債務の承認をした者は,それ以後消滅時効の完成を援用することはできない

  債務者が債権者に対して債務の承認をした以上は,時効完成の事実を知らなかったときでも,その後完成した消滅時効の援用※1をすることは信義則上※2許されません(最高裁・昭和41.4.20)

※1 時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができません(民法145条)

※2 相手方は,時効の完成後に債務者が債務の承認をしているならば,債務者はもはや時効の援用はしないだろうと考えるからです。


民法分野の過去問アーカイブスのトップに戻る

宅建1000本ノック・権利の変動篇・時効に戻る

宅建1000本ノック・権利の変動篇に戻る