宅建過去問 権利の変動篇
遺言の過去問アーカイブス 平成22年・問10
遺言に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。(平成22年・問10) |
1 自筆証書遺言は、その内容をワープロ等で印字していても、日付と氏名を自書し、押印すれば、有効な遺言となる。 |
2 疾病によって死亡の危急に迫った者が遺言をする場合には、代理人が2名以上の証人と一緒に公証人役場に行けば、公正証書遺言を有効に作成することができる。 |
3 未成年であっても、15歳に達した者は、有効に遺言をすることができる。 |
4 夫婦又は血縁関係がある者は、同一の証書で有効に遺言をすることができる。 |
<コメント> |
遺言の単独出題は,平成12年以来です。正解肢は過去問に出題歴があるので,他の肢が初出題でも正解肢を選ぶことは可能です。その意味では難易度は高いものではありません。 しかし,肢1,2,4〔22年刊行の大半の基本書で未掲載〕は,今後も出題が予想されるので,注意する必要があります。従来,遺言は,その効力や遺留分との関係で出題されてきました。その意味で22年の問題は新傾向といっていいと思います。 なお,遺言の成立要件は,これまでに,遺言能力(頻出),遺言の証人(平成6年・問13・肢4),被保佐人の遺言(昭和54年),自筆証書遺言(平成17年・問12・肢1)が出題されています。 |
●出題論点● |
(肢1) 自筆証書による遺言
(肢2) 死亡の危急に迫った者の遺言 (肢3) 遺言能力 (肢4) 共同遺言の禁止 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
正答率 | 77.9% |
1 自筆証書遺言は、その内容をワープロ等で印字していても、日付と氏名を自書し、押印すれば、有効な遺言となる。 |
【正解:×】自筆証書による遺言(立会人は必要とされていない) 17-12-1 自筆証書による遺言と認められるには,遺言者本人が,その全文,日付及び氏名を自書して(筆跡鑑定で本人が作成したと判定できる)※,押印したものであることが必要です(自筆証書遺言の成立,民法968条1項)。 「他人に口述筆記させたもの」や「ワープロ等で印字したもの」は,日付・氏名を自書しても,本文が自筆ではないので,自筆証書による遺言とは言えず,有効な遺言とはなりません。 ※筆跡鑑定で本人作成が証明できればいいので,カーボン紙によって複写されたものも自筆証書による遺言として有効です(最高裁・平成5.10.9)。 |
2 疾病によって死亡の危急に迫った者が遺言をする場合には、代理人が2名以上の証人と一緒に公証人役場に行けば、公正証書遺言を有効に作成することができる。 |
【正解:×】初出題 遺言は,民法で定められている方式に従わなければ,することができないとされています(民法960条)。遺言は,原則として,普通方式〔自筆証書,公正証書又は秘密証書〕によってしなければなりませんが,普通方式によることが著しく困難でやむを得ない場合には,特別の方式によることができます(民法967条)。普通方式は本人の最終意思であることを確認するために,厳格な手続を必要としていますが,緊急時には無理なので,特別方式によって緩和しています。 その特別方式の一つとして,本肢の死亡危急者の遺言があります。 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは,証人三人以上の立会いをもって,その一人に遺言の趣旨を口授して,遺言をすることができます(976条1項)。 ⇒ 各証人がその筆記の正確なことを承認した後,これに署名し,押印。 本肢は常識でも正誤は判断できます。瀕死の病人が,公証人役場にいけるでしょうか。 ▼死亡危急者の遺言は,遺言の日から20日以内に,証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ,その効力を生じない(976条4項)。 |
3 未成年であっても、15歳に達した者は、有効に遺言をすることができる。 |
【正解:○】4-13-1,11-1-4, 遺言者は,遺言をするときに遺言能力を有しなければなりません(民法963条)。 1) 満15才に達した者は遺言をすることができます(民法961条)。 2) 遺言には、制限行為能力者制度の適用がありません(民法962条)。 |
●成年被後見人の遺言 |
成年被後見人は,成年後見人の同意がなくても,単独で遺言をすることができますが,それには以下の要件を満たしていなければなりません(民法961条)。
1) 事理を弁識する能力を一時回復した状態であること 2) 2人以上の医師が立会うこと※。 ※意思能力のない者の遺言は無効なので,「事理を弁識する能力を一時回復した」〔本心に服した〕ことを証明するためです。 |
4 夫婦又は血縁関係がある者は、同一の証書で有効に遺言をすることができる。 |
【正解:×】初出題 遺言は,夫婦や血縁関係がある者であっても,二人以上の者が同一の証書ですることはできません(民法975条)。この規定に違反した遺言は,無効です。 ▼遺言は作成後に遺言した本人の意思が変わることがあり,遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法1022条)。二人以上の者による共同遺言ができるとすれば,撤回による変更の自由を制約することになります。このため,共同遺言は禁止されています。 |