Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 平成6年・問5
抵当権設定者の使用収益権・抵当権実行の通知義務の廃止・
弁済による代位〔法定代位〕・連帯保証人による弁済・第三取得者による弁済
AのBに対する債務について,CがAの連帯保証人となるとともに,Aの所有地にBの抵当権を設定し,その登記をしたが,その後Aは,その土地をDに譲渡し,登記も移転した。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(平成6年・問5) |
1.「Aは,その土地をDに譲渡する際,B及びCに通知する必要はない。」 |
2.「Bは,抵当権を実行する際,あらかじめDに通知しなくてもよい。」改 |
3.「CがDの取得前にBに弁済した場合,Cは,Aに対してBに代位することができるが,Dに対しては,代位の付記登記をしておかなければ,Bに代位することができない。」 |
4.「DがBに弁済した場合,Dは,A及びCに対してBに代位することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
1.「Aは,その土地をDに譲渡する際,B及びCに通知する必要はない。」 |
【正解:○】 ◆抵当権設定者の使用収益権 A(債務者,抵当権設定者) ―― D(第三取得者) 抵当権は,設定者が使用収益する権利を奪うものではなく,設定者は,土地の所有権を譲渡することができます。 設定者は,土地の所有権を譲渡することについて,抵当権者や連帯保証人に通知したり同意を得る必要はありません。 抵当権が設定されている不動産を設定者が第三者に売却しても,抵当権は抵当不動産の上に依然として存続します。 |
2.「Bは,抵当権を実行する際,あらかじめDに通知しなくてもよい。」改 |
【正解:○】 ◆抵当権実行の通知義務の廃止 A(債務者,抵当権設定者) ―― D(第三取得者) 法改正前は,抵当権者は,抵当権を実行しようとするときは,第三取得者にその旨を通知する義務がありました。(旧・381条) 法改正によりこの規定は削除されたので,抵当権者は第三取得者に通知する義務はありません。 |
▼混同注意・改正点・抵当権消滅請求を拒絶するときの競売申立通知義務 第三取得者Dが抵当権消滅請求をした場合に,抵当権者Bが競売の申立てをするときは,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から2ヵ月以内に,債務者及び抵当不動産の譲渡人に通知しなければいけません。(385条) |
3.「CがDの取得前にBに弁済した場合,Cは,Aに対してBに代位することができるが,Dに対しては,代位の付記登記をしておかなければ,Bに代位することができない。」 |
【正解:○】やや難 ◆連帯保証人の法定代位 A(債務者,抵当権設定者) ―― D(第三取得者) 連帯保証人Cは,Aの債務を弁済したので,BがAに対して持っていた抵当権を代わりに取得することができます。(弁済による代位,この場合は,500条の法定代位「弁済をなすにつき正当の利益を有する者」)⇒Aが求償に応じないときには,求償権の範囲でBの有していた抵当権を実行できます。 しかし,この代位は登記しておかないと弁済後に現れた第三取得者には対抗できないため,Aの抵当権の登記に付記登記をしておくことになっています。(民法501条1号) (連帯)保証人が弁済 第三取得者の出現 ――――――●――――――――――――●―――――― ⇒付記登記が必要 ⇒ 判例では,CがDの取得後にBに弁済した場合には付記登記をしておかなくても代位行使できるとされています。(最高裁・昭和41.11.8) 第三取得者の出現 (連帯)保証人が弁済 ――――――●――――――――――――●―――――― ⇒付記登記は不要 |
●法定代位 |
500条 弁済をするについて正当の利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。 註 『正当の利益のある者』・・・(連帯)保証人・物上保証人・連帯債務者・第三取得者 501条本文 (債権者に代位することの意味) 債権者に代位した者は,求償権の範囲内において,債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。 ⇒ 上の肢3では,代位債権者Cは,求償権の範囲内で,債権者Bが有していた原債権・抵当権を行使できる。〔代位により取得した抵当権を実行するときの被担保債権は原債権です。〕 |
●連帯保証人が法定代位するとき | ●弁済による代位とは何か? |
連帯保証人が被担保債権を弁済 ↓ 弁済によって原債権とともに担保権が 弁済者に移転する。〔法定代位〕 (大審院・昭和9.10.16,500条) |
債務者以外が被担保債権を弁済 ↓ 弁済者は求償権を取得 ↓ その求償権の範囲内でその債権及び それについての担保権その他の権利 が債権者から弁済者に移転する。 |
●弁済による代位とは何か? |
弁済による代位者は,求償権と原債権の2つを持っていますが,この2つは主従関係にあります。 代位というのは,あくまでも求償権の回収が目的であり,弁済による代位者は,求償権の回収のための手段として,原債権とその担保権を行使できるのに過ぎません。 → 平野裕之 『民法2・債権法』 p.152 (2002,新世社) |
4.「DがBに弁済した場合,Dは,A及びCに対してBに代位することができる。」 |
【正解:×】やや難 ◆第三取得者の法定代位 重要 債務者に対しては債権者に代位できるが,保証人に対しては代位できない。 A(債務者,抵当権設定者) ―― D(第三取得者) 正当の利益を有する者が債務を第三者弁済した場合は,その求償権をもち,債権者の有した権利を代位して行使することができます。(民法500条、474条第三者弁済「利害の関係を有する者の弁済」) 第三取得者Dは,債権者Bへの弁済により,債務者Aに対して債権者Bに代位できますが,Aの連帯保証人Cに対して債権者Bに代位することはできません。(民法501条2号) |
●第三取得者が法定代位するとき | ●弁済による代位とは何か? |
第三取得者が被担保債権を弁済 または抵当権が実行され 所有権を失う ↓ 弁済によって原債権や担保権が 第三取得者に移転する。〔法定代位〕 (大審院・明治40.5.16,500条) |
債務者以外が被担保債権を弁済 ↓ 弁済者は求償権を取得 ↓ その求償権の範囲内でその債権及び それについての担保権その他の権利 が債権者から弁済者に移転する。 |
⇒ 参考・共同抵当での第三取得者の法定代位 |
共同抵当の目的物の1つ(不動産・甲)を第三債務者が取得したときについて見てみましょう。(Aのほかに抵当権者や一般債権者はいないものとします。) 【例】 A(Bに貸金債権1,000万円。共同抵当権者) |
この事例では,代位は次の場合に生じます。
1) CがBの債務を第三者弁済したとき,Cは,求償権の範囲内において,債権者Aに代位する。この場合,Cは,債権者Aが不動産・乙に有していた抵当権についても代位する。 2) Aが不動産・甲について抵当権を実行して債権全額の弁済を受けた場合(共同抵当での異時配当),Cは,求償権の範囲内において,債権者Aに代位する。この場合,Cは,債権者Aが不動産・乙に有していた抵当権についても代位する。 |
●肢3&肢4のまとめ |
保証人・連帯保証人は,あらかじめ抵当権の登記に代位した付記登記をすれば,抵当不動産の第三取得者に対して債権者に代位できますが(民法501条1号),抵当不動産の第三取得者は,保証人・連帯保証人に対して債権者に代位することはできません。(民法501条2号) |
【Question】物上保証人と第三取得者について
物上保証人は,抵当不動産の第三取得者に対して債権者に代位できますか? また,抵当不動産の第三取得者は,物上保証人に対して債権者に代位できますか? |
【Answer】モニターの方よりご質問があったので掲載します。
民法では明文化されていませんが,民法501条1号・2号の趣旨から考えて物上保証人は抵当不動産の第三取得者に対して債権者に代位できますが,抵当不動産の第三取得者は,物上保証人に対して債権者に代位できないと考えられています。 AのBに対する債務を担保するため,AがBのために不動産・甲に抵当権を設定し,またCがBのために不動産・乙に抵当権を設定した共同抵当で見ていきましょう。(Bのほかに抵当権者や一般債権者はいないものとします。) 【例】 A(債務者,抵当権設定者) ―― D(第三取得者) 1) C(物上保証人)がAの債務を弁済したとき,または,Bが不動産・乙についてのみ抵当権を実行して債権全額の弁済を受けた場合,C(物上保証人)は,求償権の範囲内において,A(債務者) 及びD(第三取得者)に対して債権者Bに代位する。この場合,Cは,債権者Bが不動産・甲に有していた抵当権についても代位する。〔D(第三取得者)がC(物上保証人)の弁済後に現れた場合には付記登記が必要であることに注意。〕 2) D(第三取得者)がAの債務を弁済したとき,または,Bが不動産・甲についてのみ抵当権を実行して債権全額の弁済を受けた場合,D(第三取得者)は,求償権の範囲内において,A(債務者) に対して債権者Bに代位するが,C(物上保証人)に対しては代位することはできない。 |
●参考問題 |
「担保物権は,被担保債権の全額の弁済があれば,だれが弁済した場合であっても,常に消滅する。」(司法試験択一・昭和43年) |
【正解:×】
債務者が弁済すれば債権者の債権は消滅しますが,債務者以外の者が弁済した場合は,債権者と債務者との間の債権関係は消滅しても,弁済した者のためには債権はなお存続し,もとの債権者から弁済者に債権や担保が移転すると考えられています。〔弁済による代位〕 本肢は,『誰が弁済しても債権は常に消滅する』としており,弁済による代位によって債権が存続されることを無視しているので×になります。 |