Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 平成10年・問5
法定地上権・抵当権設定後の賃貸借・転抵当・第三取得者
Aは,Bから借金をし,Bの債権を担保するためにA所有の土地及びその上の建物に抵当権を設定した。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(平成10年・問5) |
1.「Bの抵当権の実行により,Cが建物,Dが土地を競落した場合,Dは,Cに対して土地の明渡しを請求することはできない。」 |
2.「Aは,抵当権設定の登記をした後も建物をEに賃貸することができるが,期間3年以内の賃貸借の登記があっても,その賃貸借についてのBの同意の登記がなければ,Eは,建物の競落人に対して賃借権を対抗することができない。」改 |
3.「Bは,第三者Fから借金をした場合,Aに対する抵当権をもって,さらにFの債権のための担保とすることができる。」 |
4.「Aから抵当権付きの土地及び建物を買い取ったGは,Bの抵当権の実行に対しては,自ら競落する以外にそれらの所有権を保持する方法はない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
1.「Bの抵当権の実行により,Cが建物,Dが土地を競落した場合,Dは,Cに対して土地の明渡しを請求することはできない。」 |
【正解:○】 ◆法定地上権 Bの抵当権の実行→ 建物…C 条文規定では,土地と建物が同一の所有者に属する場合,土地又は建物のみに抵当権を設定したものは,競売のとき,地上権を設定したものとみなされます(388条)。 しかし,土地とその上の建物の双方に抵当権を設定した場合であっても,抵当権が実行されて,土地と建物が別々の者に競落されたときであっても,地上権を設定されたものとみなされます(判例:最判昭37.9.4)。 したがって,この場合の土地を競落したDは,建物の競落者Cに対して,土地の明渡しを請求できません。 |
●法定地上権 |
・法定地上権も借地借家法の適用を受けるため、存続期間は当事者の合意がなければ30年になります。(借地借家法3条) ・地代は、当事者の協議で定まらないときは裁判所が決定します。(388条但書) |
●法定地上権のKEY |
土地の上に建物がある ―――●―――――――――――――――●―――――→ 法定地上権の成立は,抵当権設定者と抵当権者との特約によっても排除することはできない。〔大審院・明治41.5.11〕 抵当権の実行による競売だけでなく,債務者の有する土地建物に対して債務名義に基づいて強制執行が行われた結果,土地・建物の所有者が別々になった場合にも法定地上権が成立する。(民事執行法81条) |
2.「Aは,抵当権設定の登記をした後も建物をEに賃貸することができるが,期間3年以内の賃貸借の登記があっても,その賃貸借についてのBの同意の登記がなければ,Eは,建物の競落人に対して賃借権を対抗することができない。」改 |
【正解:○】 ◆抵当権者の同意による対抗力の付与 A(抵当権設定者)・・・・B(抵当権者) 平成15年の民法改正により短期賃貸借は悪用されることが多いため廃止され,それに代わるものとして「抵当権者の同意の登記による,賃借人への対抗力の付与」,「競売後の明渡し猶予」が創設されました。 抵当権設定後の賃貸借では,期間を問わず,その賃借権の登記があり,かつ,その賃貸借についての抵当権者の同意の登記があるならば,建物の競落人に対して賃借権を対抗できます。 しかし,本肢では,賃貸借の登記があるのみで,抵当権者Bの同意〔同意の登記も〕がないため,Eは,建物の競落人に対して賃借権を対抗できません。 ●「抵当権者の同意による,抵当権設定後の賃借人への対抗力の付与」 〔賃借権の登記+抵当権者の同意の登記〕 (土地・建物の両方) 抵当権者の同意により賃借権が存続する制度。 抵当権設定後の賃貸借契約でも,その賃借権の登記がされていて,(その賃借権の登記がされる前に抵当権が登記されている) 抵当権者全員がその賃借権の存続を承諾してその同意を登記したときは,賃借人は,同意した抵当権者に対して賃借権を対抗できる。(387条1項) 賃借権の登記 ――●――――――――――――●――――→ 抵当権者が同意をする際に,その抵当権を目的とする権利を有する者〔転抵当権者等〕その他の「抵当権者の同意によって不利益を受ける者」がいるときは,抵当権者は,それらの者の承諾がなければ,その同意をすることができません。(387条2項) |
3.「Bは,第三者Fから借金をした場合,Aに対する抵当権をもって,さらにFの債権のための担保とすることができる。」 |
【正解:○】 ◆転抵当 ┌F(転抵当権者) 抵当権者は,その抵当権をもって他の債権の担保(「転抵当」という)とすることができます(第376条1項前段)。平たくいえば,例えば,抵当権者は,自分の抵当権を他人から金を借りるための担保とすることができる,ということです。 ●参考・「抵当権付で債権譲渡」との区別 抵当権の被担保債権を譲渡すれば担保物権の随伴性から抵当権もそれに伴って移転しますが,転抵当とは,抵当権が被担保債権と切り離して処分されることを意味します。 転抵当権では,「原抵当権の被担保債権の債務不履行」+「転抵当権の被担保債権の債務不履行」により,転抵当権が実行されます。
●参考・転抵当の対抗要件(未出題) ⇒ 初学の場合は飛ばしてください。 抵当権者が転抵当を行うときは,債務者への対抗要件として,このことを,債務者に“通知”を行うか,債務者の“承諾”を得るかのいずれかを行う必要があります。(377条) ⇒転抵当は債務者に影響を及ぼします。また転抵当に付されたことを知らずに原抵当権の被担保債権を債務者〔保証人・物上保証人・承継人〕が弁済すると原抵当権が消滅し,転抵当権も消滅します。 また,原抵当権が数人のために転抵当に付されたときの第三者〔他の転抵当権者〕に対する対抗要件(177条)としては,登記が必要です(附記登記)。 |
●類題 |
1.「抵当権者は,その抵当権自体を自分の債務の担保とすることはできない。」(行政書士・平成2年) |
【正解:×】 |
●抵当権の処分 |
抵当権を,被担保債権と切り離して処分することを『抵当権の処分』(375条1項)といい,転抵当のほかには,『抵当権の譲渡・放棄』(未出題),『抵当権の順位の譲渡・放棄』(平成18年・問5・肢1)があります。⇒『抵当権の順位の譲渡・放棄』と似た『抵当権の順位の変更』(374条)は平成13年に出題。(『抵当権の順位の変更』は被担保債権と抵当権がセットで移動する点で375条の『抵当権の処分』と異なるので注意。) → 通常,『抵当権の処分』は,『転抵当』,『抵当権の譲渡・放棄』,『抵当権の順位の譲渡・放棄』,『抵当権の順位の変更』を総称するものとして広義の意味で用いられています。 |
4.「Aから抵当権付きの土地及び建物を買い取ったGは,Bの抵当権の実行に対しては,自ら競落する以外にそれらの所有権を保持する方法はない。」 |
【正解:×】 ◆第三取得者が抵当権を消滅させる方法 A(抵当権設定者)・・・・B(抵当権者) 抵当不動産の第三取得者は,自ら競落人となることができる(第390条)ばかりでなく,以下の方法をとることもできます。 ・債務者の代わりに被担保債権の全額を「第三者弁済」する(第474条)、 <抵当権の消滅事由> [1]被担保債権の全額弁済 |