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担保物権の過去問アーカイブス 平成12年・問5 先取特権 動産に対する先取特権


 が,に賃貸している建物の賃料債権の先取特権に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,誤っているものはどれか。(平成12年・問3)

1 は,賃貸した建物内にある所有の家具類だけでなく,が自己使用のため建物内に持ち込んだ所有の時計や宝石類に対しても,先取特権を有する。

2 が,建物をCに転貸したときには,は,Cが建物内に所有する動産に対しても,先取特権を有する。

3 がその建物内の所有の動産をに売却したときは,は,その代金債権に対して,払渡し前に差押をしないで,先取特権を行使することができる。

4 から敷金を預かっている場合には,は,賃料債権の額から敷金を差し引いた残額の部分についてのみ先取特権を有する。

【正解】

×

 動産の先取特権
 その動産について密接な関係を有し,特権を認めるべき必要があると法律で規定されている債権について与えられる先取特権。不動産賃貸の先取特権もその一つです。

が,に賃貸している建物の賃料債権の先取特権に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,誤っているものはどれか。(平成12年・問3)

1 は,賃貸した建物内にある所有の家具類だけでなく,が自己使用のため建物内に持ち込んだ所有の時計や宝石類に対しても,先取特権を有する。

【正解:

◆建物の常用に供する家具類だけでなく,賃借人の自己使用のために持ち込んだものにも及ぶ

 不動産賃貸の先取特権は,建物の賃貸借の場合,賃借人がその建物に備え付けた動産の上に存在します。(313条2項)

 先取特権の効力は,賃借人が当該不動産に持ち込んだ動産全てに及ぶので,賃貸人は,賃貸借関係から生じた賃料債権その他の債権を担保するために,時計・宝石・貴金属・証券類などにも先取特権を有します。(313条1項、大審院・大正3.7.4)

●土地の賃貸借での先取特権

<土地の賃貸借での民法上の先取特権>・・・動産

 土地の賃貸借での先取特権は,賃借地上に備え付けた動産または借地上の建物に備え付けた動産,借地利用のために使っている借地外の建物に備えつけた動産,借地外においてあるが借地利用に供した動産などに及びます。(313条1項)

<借地借家法12条の先取特権>・・・借地上の建物(≠動産)

 民法313条の土地の賃貸借での先取特権の目的物が動産に限られるのに対して,借地借家法12条の先取特権の目的物は借地上の建物そのものです。

 先取特権者は,『借地権が地上権の場合土地所有者〔地上権設定者〕』および『借地権が賃借権の場合賃貸人』〔要するに地主〕です。

 この先取特権は地上権または土地の賃借権の登記をすることによってその効力を保存し(12条2項),先取特権者は弁済期の到来した最後の2年分の地代等について先取特権を有します。(12条1項)

●参考問題

1.「の所有地を賃借して居住用の家屋を所有している場合,は,弁済期の到来した地代等の最後の1年分についてのみ,の家屋の上に先取特権を有する。」(平成3年・問12・肢4)

【正解 : ××最後の1年分 →  最後の2年分

2 が,建物をCに転貸したときには,は,Cが建物内に所有する動産に対しても,先取特権を有する。

【正解:

◆転借人の動産

 転貸借した場合,賃貸人の先取特権の効力は転借人が持ち込んだものにも及びます

先取特権の効力は,賃借権の譲渡があったときは譲受人の動産転貸があったときは転借人の動産にも及びます。(民法314条前段)

先取特権の効力は動産だけではなく賃借権の譲渡人や転貸人の受けとるべき賃料にも及びます。(民法314条後段)

●類題

1.「賃貸借の目的物になっている不動産が転貸された場合には,賃貸人の有する不動産賃貸の先取特権は,転借人の動産にも及ぶ。」(昭和46年)

【正解 : 】平成12年の肢2の問題はこの昭和46年の問題のリメーク版。

3 がその建物内の所有の動産をに売却したときは,は,その代金債権に対して,払渡し前に差押をしないで,先取特権を行使することができる。

【正解:×

◆物上代位性

 「動産の先取特権は,債務者がその動産を第三取得者に引き渡した後はその動産に対して行使できない」(333条)とされています。(つまりその動産を転売されたら,その動産そのものに対して先取特権は行使できない。)

 しかし,民法には物上代位の規定があり,先取特権の効力は,その対象となる動産が売却されても,その代金債権に及びます。(担保物権の物上代位性→留置権にはありません)

 ただし,先取特権を行使する(その代金債権に物上代位する)には,先取特権者自らがその金銭の払い渡し前に差押えなければいけません(民法304条、大審院・大正12.4.7)

304条(物上代位性)

 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。

2  債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

 目的物が滅失すると先取特権も消滅しますが,それでは先取特権者の保護に欠けるため,民法では,目的物の売却・賃貸・滅失・毀損により債務者に生ずる請求権〔代金・保険金・損害賠償金等〕の上にも先取特権の効力を及ぼすことにしました。

4 から敷金を預かっている場合には,は,賃料債権の額から敷金を差し引いた残額の部分についてのみ先取特権を有する。

【正解:

◆敷金がある場合の不動産賃貸の先取特権

 賃貸人が敷金を受領している場合は,賃貸人はその敷金をもって弁済を受けられなかった部分の債権(賃料債権の額から敷金を差し引いた残額の部分)についてのみ,先取特権を有します。(民法316条)

●過去問
 登記がないと第三者に対抗できない権利をあげた。次のうち,誤りはどれか。(昭和54年)

1.不動産賃貸の先取特権

2.不動産売買の先取特権

3.不動産の買戻し権

4.不動産質権

【正解:

 不動産賃貸の先取特権は、賃貸借関係より生じた賃借人の債務について、賃貸人の動産の上に存在し、賃借権の譲受人・転借人の動産にも及びます。(民法312条、313条)

 → 転借人の動産にも先取特権が及ぶのは平成12年問3に出題。

 しかし、動産に関する権利の公示方法として登記は認められていません。つまり不動産賃貸の先取特権は登記できません。

同一の動産について複数の動産先取特権が競合するときの第一順位は「不動産賃貸の先取特権」、「旅店宿泊」及び「旅客又は荷物の運輸」の先取特権とされています。(330条1項)

 登記がないと第三者に対抗できない権利-原則として登記の先後による-

不動産売買の先取特権 (民法325条)

不動産の買戻し権 (民法581条)

不動産質権 (民法361条、177条)※現在ではほとんど利用されていない。

 登記の先後によらない不動産に関する担保物権

不動産の保存・不動産工事の先取特権 (339条)

 保存行為完了後(337条)、工事前(338条)に登記すれば、先に抵当権や不動産質権が登記されていても優先される。(339条、361条)

 登記がなくても第三者に対抗できる不動産に関する担保物権

留置権 (295条)

一般の先取特権 (336条)

 一般の先取特権は、債務者のすべての財産に及ぶ。(306条)
 しかし、まず不動産以外の財産から弁済を受けなければならない。
 不動産から弁済を受ける場合でも特別担保の対象になっていないものから弁済を受けなければならない。(335条)

  一般の先取特権は、登記がなくても登記のない一般債権者には対抗できるが、登記のある第三者には先取特権を対抗できない。〔不動産を取得した第三者にも登記がないと先取特権を対抗できないことに注意。〕(336条)

  一般の先取特権も登記をしていれば、登記をした第三者に対抗できるが登記の先後で決する。(336条)

  一般の先取特権のうち共益費用の先取特権(307条1項)その利益を受けた総債権者に優先する。(329条2項但書)

 

※先取特権とは,当事者が担保設定契約を締結しなくても特定の債権について当然に法定の担保物権として認められ,債務者の財産から優先弁済を受けられる権利です。担保物権の附従性・随伴性・不可分性・物上代位性の全てを備えています。

先取特権は,大別して3つあり,被担保債権,目的物を押さえておく必要があります。

一般の先取特権
(債務者のすべての財産にかかる)
共益費用・雇人給料・葬式費用・日用品供給
特別の先取特権 動産の先取特権 不動産賃貸の先取特権
動産売買の先取特権
動産保存の先取特権など8種類
不動産の先取特権 不動産の保存の先取特権
不動産工事の先取特権
不動産売買の先取特権

区分所有法7条の先取特権の効力と順位は,一般の先取特権のうちの「共益費用の先取特権」(307条)と同じとみなされています。(区分所有法7条2項)

区分所有法7条の先取特権の目的物は,区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む)及び建物に備え付けた動産です。

●民法改正 先取特権(306条,308条)
●先取特権の平成16年改正

 306条・308条の改正により,一般の先取特権によって担保される労働債権の種類や範囲が商法旧・295条1項に合わせる形で拡大されました。

306条 左に掲げたる原因より生じたる債権を有する者は債務者の総財産の上に
     先取特権を有す

     2号 雇用関係 〔改正前は 雇人の給料〕

308条 雇用関係の先取特権は,給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基き生じたる債権につき存在す。

〔改正前は 雇人が受けるべき最後の6个月間の給料

参考 商法・旧・295条1項 会社と使用人との間の雇用関係に基き生じたる債権を有する者は会社の総財産の上に先取特権を有す。

 ⇒ これにより給料の期間制限がなくなり,また給料以外の労働債権にも先取特権によって広範囲に担保できるようになりました。また使用人としたのは「商法旧・295条1項での使用人」には請負・委任等の契約により労務を提供する者も含まれるとされていたのでそれに合わせる趣旨だとされています。


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