Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 平成15年・問6
根抵当権と普通抵当権の違い
普通抵当権と元本確定前の根抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成15年・問6) |
1.「普通抵当権でも,根抵当権でも,設定契約を締結するためには,被担保債権を特定することが必要である。」 |
2.「普通抵当権でも,根抵当権でも,現在は発生しておらず,将来発生する可能性がある債権を被担保債権とすることができる。」 |
3.「普通抵当権でも,根抵当権でも,被担保債権を譲り受けた者は,担保となっている普通抵当権又は根抵当権を被担保債権とともに取得する。」 |
4.「普通抵当権でも,根抵当権でも,遅延損害金については,最後の2年分を超えない利息の範囲内で担保される。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
註 過去問でも関連問題・類似問題が出題されていたにもかかわらず,正答率が異常に
低かった問題です。(10%台) ポイントは肢2にあったのですが,抵当権の根底事項で
あるにもかかわらず,正答率が低かったことは,試験対策上の問題点の一つを浮き彫り
にしていると考えられます。
●根抵当権の抵当権との違い |
1 根抵当権では,一定の範囲に属し継続して発生する『不特定な被担保債権』
→ 普通の抵当権は,原則として一回限りの取引から生ずる被担保債権に限られる。 |
2 根抵当権は極度額に達するまで約定により発生した全ての債権を担保するため,特定の被担保債権が弁済によりゼロになって消滅しても根抵当権は消滅せず元本は確定しない。
→ 普通の抵当権は,被担保債権が消滅すると抵当権も消滅する。 |
3 根抵当権は極度額まで担保しているため,その限度内であれば,元本・利息・損害金の全部を担保する。(398条の3)
→ 普通の抵当権は,利息・損害金などは最後の2年分に限られる。(375条) |
4 根抵当権消滅請求は,元本確定後に現に存する債務の額が極度額を超えるときに,「他人のためにその根抵当権を設定した者(物上保証人)」,「抵当不動産について所有権,地上権,永小作権または第三者に対抗できる賃借権を取得した第三者」がすることができる。(398条の22)
→ 普通の抵当権の消滅請求は,「所有権を取得した第三者」のみがすることができる。(378条) |
1.「普通抵当権でも,根抵当権でも,設定契約を締結するためには,被担保債権を特定することが必要である。」(平成8年問7肢1,昭和56年問5肢1等で既出) |
【正解:×】 ◆普通抵当権との違い−一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保する 普通抵当権の設定契約では,被担保債権を特定することが必要です。 それに対して,根抵当権は,一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するものであり(398条の2第1項),根抵当権設定契約を締結するときに,元本確定時点での被担保債権を特定することは予測困難です。したがって,根抵当権設定契約で被担保債権を特定することは必要ではありません。 |
2.「普通抵当権でも,根抵当権でも,現在は発生しておらず,将来発生する可能性がある債権を被担保債権とすることができる。」(平成3年・問7肢2で既出) |
【正解:○】 ◆現在発生していない債権を被担保債権にする 普通抵当権では,現在は発生していなくても,期限付債権や条件付債権などで将来発生する可能性があるものについて被担保債権とすることができます。(附従性の緩和,判例)(大審院・昭和7.6.1) 根抵当権では,将来発生する『一定範囲での不特定債権』を被担保債権とすることが予定されています。 (398条の2第1項) したがって,『普通抵当権,根抵当権の双方とも,現在は発生しておらず,将来発生する可能性がある債権を被担保債権とすることができます。』 |
●参考問題 |
1.「消費貸借は,要物契約であるので,金銭の引渡しをしない間は債権が成立していないから,抵当権を設定しても無効である」(司法試験択一・昭和38-21) |
【正解:×】普通抵当権でも「将来発生する特定の債権のための抵当権は有効である」とされています。(大審院・昭和7.6.1)本肢では将来の消費貸借契約での債権が被担保債権になります。 |
3.「普通抵当権でも,根抵当権でも,被担保債権を譲り受けた者は,担保となっている普通抵当権又は根抵当権を被担保債権とともに取得する。」(平成12年問5肢4で既出) |
【正解:×】 ◆普通抵当権との違い−元本確定前は随伴性がない 普通抵当権では,被担保債権に随伴する性質があり,被担保債権を譲り受けた者は,それを担保する普通抵当権も取得します。〔随伴性〕 それに対して,根抵当権では,元本確定前は被担保債権に随伴しないため,元本確定前に根抵当権者から個々の被担保債権を譲り受けたとしても,それを担保する根抵当権を取得したことにはなりません。(398条の7第1項) したがって,本肢は×になります。 |
4.「普通抵当権でも,根抵当権でも,遅延損害金については,最後の2年分を超えない利息の範囲内で担保される。」(平成8年問7肢3,平成12年問5肢3で既出) |
【正解:×】 ◆普通抵当権との違い−利息・遅延損害金は最後の2年分に限られない 普通抵当権では,原則として,後順位抵当権者等の保護のために,利息・遅延損害金等は最後の2年分についてのみ担保されます。(375条) それに対して,根抵当権では,元本〔確定したもの〕のほか利息・遅延損害金等を合計して,極度額の範囲内であれば最後の2年分に限らず全て担保されることになっています。つまり極度額の範囲内に収まるのならば2年分以上の利息・遅延損害金等についても優先弁済を受けられますが,極度額の範囲内に収まらないと2年分を優先弁済されない場合もあり得ます。 したがって,本肢は×になります。 |
●抵当権の被担保債権の範囲 |
(抵当権の被担保債権の範囲) 第375条 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。 2 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。 |