Brush Up! 権利の変動篇
担保物権の過去問アーカイブス 昭和54年
仮登記担保法 所有権移転の効力発生時,法定借地権
Aは,Bに2,000万円を貸し,担保の目的でB所有の3,000万円相当の土地について売買予約契約を結び,所有権移転請求権保全の仮登記をしていた。次の記述のうち誤りはどれか。(昭和54年) |
1.「Aが売買予約完結権を行使すれば,当該土地の所有権は直ちにAに移転する。」 |
2.「Aは,当該土地の所有権を得るにあたって,土地の価格と債権額の差額を清算金としてBに支払わなければならない。」 |
3.「Aの清算金の支払とBの所有権移転登記及び引渡しの債務の履行は,同時履行の関係に立つ。」 |
4.「所有権移転請求権保全の仮登記がされたときに,当該土地の上にB所有の建物があった場合,Aの予約簡潔権が行使され,Aに土地の所有権が移転すれば,Bはその建物の所有を目的とした土地の法定借地権を得ることができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
仮登記担保法(公布・昭和53年6月20日法律第78号,施行・昭和54年4月1日)は
民法の特別法です。出題歴・昭和54年,昭和63年。
→仮登記担保の詳細については以下をご覧ください。
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2786/10kai.html
仮登記担保とは,債権者が有する金銭債務(被担保債権)を担保する目的で,設定者(債務者または第三者)が有する不動産の所有権を債権者に移転するための代物弁済の予約・停止条件付代物弁済契約・売買予約などを締結し,仮登記〔所有権移転請求権保全の仮登記〕を利用して設定する担保契約です。〔不動産の場合は仮登記ですが,動産の場合は仮登録で設定します。〕
具体的には,被担保債権に債務不履行があれば,清算金などの通知をしてから2ヵ月が経過することによって,所有権移転の効力が発生して代物弁済が行われ〔または売買予約が完成して〕,目的不動産の所有権が債権者に移転します。これにより仮登記担保権も消滅します。〔清算期間が経過した時の目的不動産等の価額がその時の被担保債権等の額に満たないときは,被担保債権は,反対の特約がない限り,その価額の限度において消滅し,残りは担保のない一般債権となる。(9条)〕 ●仮登記担保権の実行−予約完結権の行使− 予約完結の意思表示 清算金などの通知 所有権移転の効力発生 ―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 清算期間(2ヵ月)
●競売からの優先弁済 |
1.「Aが売買予約完結権を行使すれば,当該土地の所有権は直ちにAに移転する。」 |
【正解:×】 ◆所有権移転の効力発生時点 評価額・債権額・ ―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 清算期間(2ヵ月) 本肢での『売買予約完結権を行使』という表現は,各肢との関連から<予約完結の意思表示>と考えられます。 所有権の移転の効力は,Aが売買予約を完結する意思を表示したときに生じるのではなく,予約完結の意思表示をした後に担保不動産の評価額・債権額・清算金の見積額〔清算金がないと認めるときはその旨〕を債務者に通知して2ヵ月が経過した時点です。 通知から2ヵ月が経過した時点で所有権移転の効力が生じ,担保不動産の所有権はAに移転し,Aの債権は消滅します。 Aの所有権取得にあたって,Aには清算金の支払い義務が生じます。(→肢2)またBは仮登記を本登記にして目的物をAに引き渡さなければいけません。Aの清算金支払いとBの本登記・引渡しは同時履行の関係にあります。→肢3 ▼債務者は,清算金の支払を受けるまでは,債務を弁済することによって目的物を受け戻すことができ〔受戻し。但し清算期間の経過から5年が経過したときや第三者が所有権を取得したときは受戻しはできない。〕,債務者以外の第三者〔後順位の抵当権者など〕も代位弁済することができます。また後順位者は清算金を差押えて物上代位することができます。このため,清算金の見積額などの通知を債務者にした旨を第三者に通知しなければなりません。(5条1項) |
2.「Aは,当該土地の所有権を得るにあたって,土地の価格と債権額の差額を清算金としてBに支払わなければならない。」 |
【正解:○】 ◆清算金支払いの意味 仮登記担保権者は,目的物の所有権の取得にあたって,清算期間が経過した時の目的物等の価額がその時の債権等の額を超えるときは,当事者の公平を図るために,その超える額に相当する金銭(清算金)を支払わなければいけません。(3条) 本問題の設定では,被担保債権が2,000万円,土地の評価額が3,000万円になっていますから,債務者からすると債務を弁済しなかったときには2,000万円の債務のために3,000万円の土地を手放すことになるので,その差額が清算金という形で債務者に返還されるようになっています。この規定がないと債権者は差額の1,000万円をとってしまうという暴利行為を法律が認知してしまうことになるからです。 |
3.「Aの清算金の支払とBの所有権移転登記及び引渡しの債務の履行は,同時履行の関係に立つ。」 |
【正解:○】 ◆清算金支払いと所有権移転の本登記・土地の引渡しは同時履行 所有権移転の効力が生じた場合,債権者Aの清算金支払いと債務者Bの所有権移転登記及び土地の引渡しは同時履行の関係に立ちます。(3条2項) |
4.「所有権移転請求権保全の仮登記がされたときに,当該土地の上にB所有の建物があった場合,Aの予約簡潔権が行使され,Aに土地の所有権が移転すれば,Bはその建物の所有を目的とした土地の法定借地権を得ることができる。」 |
【正解:○】 ◆法定借地権 土地とその上の建物が同一の所有者に帰属する場合に,その土地について仮登記担保が設定されたときは,その仮登記に基づいて本登記がされたときに,その建物を所有することを目的として土地の賃貸借がされたとみなします。(10条) もし,仮登記担保権が実行されると,土地は仮登記担保権者のもの,建物は仮登記担保設定者のものと別々の所有者に帰属することになるので,土地に借地権が設定されるとみなさないと建物の所有者は建物を収去しないといけなくなるからです。この事情は抵当権での法定地上権と同じです。
ただし,建物に仮登記担保権を設定した場合には法定借地権は成立しません。抵当権での法定地上権は土地建物のどちらに抵当権が設定されていても成立しましたが,仮登記担保権での法定借地権は違うということです。
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第10条(法定借地権) 土地及びその上にある建物が同一の所有者に属する場合において,その土地につき担保仮登記がされたときは,その仮登記に基づく本登記がされる場合につき,その建物の所有を目的として土地の賃貸借がされたものとみなす。この場合において,その存続期間及び借賃は,当事者の請求により,裁判所が定める。 |