Brush Up! 権利の変動篇

担保物権の過去問アーカイブス 昭和63年・問11 

仮登記担保法 所有権移転の効力発生時点


は,に2,000万円を貸し付け,その担保のため,所有の2,500万円の土地に売買予約による所有権移転登記請求権保全の仮登記をしたが,返済期日になってもが返済しないので,売買予約を完結する意思を表示した。この場合,仮登記担保契約に関する法律の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(昭和63年・問11)

1.「所有権の移転は,が売買予約を完結する意思を表示したときに,その効力を生じる。」

2.「所有権の移転の効力が生じると,は,が清算金を支払わなくても,移転の登記及び土地の引渡しをしなければならない。」

3.「所有権の移転は,の清算金の見積額の通知がに到達した日から2月を経過しなければ,その効力を生じない。」

4.「所有権の移転は,に清算金の見積額を通知したときに,その効力を生じる。」

【正解】

× × ×

仮登記担保法は民法の特別法です。出題歴・昭和54年,昭和63年。

→仮登記担保の詳細については以下をご覧ください。 
 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2786/10kai.html

 仮登記担保とは,債権者が有する金銭債務(被担保債権)を担保する目的で,設定者(債務者または第三者)が有する不動産の所有権を債権者に移転するための代物弁済の予約・停止条件付代物弁済契約・売買予約などを締結し,仮登記〔所有権移転請求権保全の仮登記〕を利用して設定する担保契約です。〔不動産の場合は仮登記ですが,動産の場合は仮登録で設定します。〕

 具体的には,被担保債権に債務不履行があれば,清算金などの通知をしてから2ヵ月が経過することによって,所有権移転の効力が発生して代物弁済が行われ〔または売買予約が完成して〕,目的不動産の所有権が債権者に移転します。これにより仮登記担保権も消滅します。〔清算期間が経過した時の目的不動産等の価額がその時の被担保債権等の額に満たないときは,被担保債権は,反対の特約がない限り,その価額の限度において消滅し,残りは担保のない一般債権となる。(9条)〕

 仮登記担保権の実行−予約完結権の行使−
 予約完結の意思表示または停止条件が成就した後に清算金の見積額などを通知して2ヵ月が経過すると,所有権移転の効力が発生し,債権者は目的不動産の所有権を取得します。このときには,担保不動産の評価額から債券額を差し引いた残額〔清算金〕を債務者に支払うことになっています。

 予約完結の意思表示   清算金などの通知 所有権移転の効力発生

 ――――――――――――――――――――――――→

                      清算期間(2ヵ月)

 予約完結の意思表示を行う or 停止条件が成就する
                ↓
           清算金などの通知
                ↓清算期間の2ヵ月経過
           所有権移転の効力発生

              ・担保不動産の所有権は移転し,被担保債権は消滅。
              ・債権者は清算金の支払い義務
              ・債務者は所有権移転の本登記に協力,引渡しの義務

 競売からの優先弁済
 清算金の支払い前(清算金がないときには清算期間を経過する前)に,抵当不動産について競売手続〔不動産担保権の実行・強制競売〕が開始されると仮登記担保権の実行はできなくなります。(15条1項)しかし,仮登記担保法では,競売での優先弁済の順位に関しては担保仮登記に係る権利は抵当権とみなすという規定〔13条1項〕があるため,ほかの債権者が競売を申し立てても,抵当権並に順位に応じた優先弁済を受けることができます。

1.「所有権の移転は,が売買予約を完結する意思を表示したときに,その効力を生じる。」(類・昭和54年)

【正解:×

◆所有権移転の効力発生時点

                   評価額・債権額・
  売買予約完結の       清算金見積額
  意思表示           などの通知    所有権移転の効力発生

 ――――――――――――――――――――――――→

                      清算期間(2ヵ月)

 所有権の移転の効力は,が売買予約を完結する意思を表示したときに生じるのではなく,予約完結の意思表示をした後に担保不動産の評価額・債権額・清算金の見積額〔清算金がないと認めるときはその旨〕を債務者に通知して2ヵ月が経過した時点です。→肢4

 通知から2ヵ月が経過した時点で所有権移転の効力が生じ,担保不動産の所有権はに移転し,の債権は消滅します。→肢3

 の所有権取得にあたって,には清算金の支払い義務が生じます。または仮登記を本登記にして目的物をに引き渡さなければいけません。の清算金支払いとの本登記・引渡しは同時履行の関係にあります。→肢2

債務者は,清算金の支払を受けるまでは,債務を弁済することによって目的物を受け戻すことができ〔受戻し。但し清算期間の経過から5年が経過したときや第三者が所有権を取得したときは受戻しはできない。〕,債務者以外の第三者〔後順位の抵当権者など〕も代位弁済することができます。また後順位者は清算金を差押えて物上代位することができます。このため,清算金の見積額などの通知を債務者にした旨を第三者に通知しなければなりません。(5条1項)

2.「所有権の移転の効力が生じると,は,が清算金を支払わなくても,移転の登記及び土地の引渡しをしなければならない。」(類・昭和54年)

【正解:×

◆清算金支払いと所有権移転の本登記・土地の引渡しは同時履行

 所有権移転の効力が生じた場合,債権者の清算金支払いと債務者の所有権移転登記及び土地の引渡しは同時履行の関係に立ちます。(3条2項)

3.「所有権の移転は,の清算金の見積額の通知がに到達した日から2月を経過しなければ,その効力を生じない。」

【正解:

◆所有権移転の効力発生時点

 本肢のとおり。

4.「所有権の移転は,に清算金の見積額を通知したときに,その効力を生じる。」

【正解:×

◆所有権移転の効力発生時点

 所有権の移転の効力は,に清算金の見積額を通知したときにに生じるのではなく,予約完結の意思表示をした後に清算金の見積額を債務者に通知して2ヵ月が経過した時点で生じます。(2条1項)


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