Brush Up! 権利の変動篇

抵当権の過去問アーカイブス 昭和59年・問7

登記されていない抵当権の効力・抵当権の順位変更・賃料への物上代位・
附加一体物への抵当権の
効力


抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか。
(昭和59年・問7)

1.「抵当権者が目的物の代金から優先弁済を受ける権利を第三者に対抗するには,抵当権が登記されていることが必要であるが,登記されない抵当権も当事者間では効力を有する。」

2.「同一不動産につき数個の抵当権が設定されている場合,これらの抵当権の順位を変更するには,各抵当権者の合意及び抵当権設定者の承諾が必要である。」

3.「抵当権は,目的不動産の賃貸により債務者が受けるベき賃料に対しても行うことができるが,そのためには,その払い渡し前に差し押さえることが必要である。」

4.「建物に抵当権を設定した場合,抵当権の効力は,畳・建具等,当該建物に附加してこれらと一体になった物にも及ぶ。」

【正解】

×

1.「抵当権者が目的物の代金から優先弁済を受ける権利を第三者に対抗するには,抵当権が登記されていることが必要であるが,登記されない抵当権も当事者間では効力を有する。」

【正解:

◆登記は対抗要件であり、当事者間では登記していなくても抵当権の効力はある。

 物権である抵当権の設定,移転は当事者の意思表示だけでその効力を生じます(民法176条)

 抵当権の登記を必要とするのは,抵当権者が優先弁済権を第三者に対抗するためです。(民法177条)

  したがって,登記がなくても,当事者間では抵当権は有効に成立(最高裁・昭和25.10.24)抵当権の実行も可能 (大審院・大正12.7.23)とされています。

対抗要件としての登記がないと当事者間では効力をもっていても,他の債権者に対して優先弁済権を主張できません。また,不動産担保権の実行の申立てをすることはできますが,一定の文書を必要としているため(確定判決や公正証書等が必要。),登記のない抵当権の実行は事実上困難です。(民事執行法) 

 担保不動産競売の実行においては,未登記の抵当権には優先弁済権はないため,一般債権者として配当を受けることになります。〔一般債権者がほかにいる場合は債権額に応じた平等配分になります。〕

対抗要件としての登記がないと,抵当不動産が第三者に譲渡されたときにも,困ったことがおきます。抵当権に基づいて追及することができません。〔登記してあれば,たとえ抵当不動産が第三者に譲渡されても,被担保債権が不履行になったときに抵当権を実行することができますが,無登記の抵当権では,抵当不動産が第三者に譲渡されると,抵当権の実行ができません。〕

2.「同一不動産につき数個の抵当権が設定されている場合,これらの抵当権の順位を変更するには,各抵当権者の合意及び抵当権設定者の承諾が必要である。」

【正解:×

◆抵当権の順位の変更=各抵当権者の合意及び利害関係人の承諾

 抵当権の順位の変更には,各抵当権者の合意利害関係人(転抵当権者,被担保債権の差押え権者など)の承諾が必要です。(374条1項)

 しかし,抵当権設定者は利害関係人ではないため,抵当権の順位変更についての抵当権設定者の承諾は不要です。

順位変更の効力(H13-7-4)
 順位変更登記をもって効力が生じます。(374条2項)

→ 出題歴 平成13年・昭和59年・(不動産登記法)平成3年問15平成10年問14

3.「抵当権は,目的不動産の賃貸により債務者が受けるベき賃料に対しても行うことがで゙きるが,そのためには,その払い渡し前に差し押さえることが必要である。」

【正解:

◆物上代位権を行使するには払い渡しの前に差押えをしなければならない

 抵当権者が物上代位権を行使するには,『その払渡し又は引渡しの前に差押えをすることが必要』です。

物上代位

 抵当権では,同一性が認められる限り,抵当権の目的物が売却・滅失・毀損・賃貸によって抵当不動産の所有者が受けるべき,『目的物に代わるもの』に対しても,その効力が及びます。これを物上代位といいます。(372条による304条の準用)

 目的物に代わるものとしては,火災保険金請求権不法行為に基づく損害賠償請求権土地収用の補償金替地賃料〔転貸賃料は判例で否定されている。(最高裁・平成12.4.14)〕・売買代金 などがあります。 

 ただし,抵当権者は,その払渡し又は引渡しの前に差押えをすることが必要です。(372条による304条の準用) 

●盲点

 物上代位権の行使も抵当権の優先弁済の一つなので,賃料への物上代位には被担保債権が債務不履行 (履行遅滞など) になっていることが必要です。

▼抵当権の物上代位の出題例

 売却代金(昭和41,昭和48,平成2-6-3),損害賠償金(平成7-6-3),火災保険金債権(昭和41年,昭和55-7-4,平成17-5-3),賃貸借の賃料(昭和59-7-3,平成11-4-1,平成15-5,平成17-5-2)

●転貸賃料債権に対して物上代位はできない

・抵当権者は,抵当不動産の賃借人を所有者〔賃貸人〕と実質的に同視できる場合を除いて,賃借人の転貸賃料債権について物上代位権を行使することはできない。〔賃借人は転貸賃料を被担保債権の弁済に供せられるべき立場にはない。〕(最高裁・平成12.4.14)

 抵当権者
   |
 抵当権設定者〔抵当不動産の賃貸人〕
   |
 抵当不動産の賃借人〔転貸人〕
   |転貸賃料債権
 転借人

4.「建物に抵当権を設定した場合,抵当権の効力は,畳・建具等,当該建物に附加してこれらと一体になった物にも及ぶ。」

【正解:】旧・建設省建設経済局不動産課が統括していた時代の出題。

◆附加一体物

 畳・建具等〔ふすま・障子なども含む〕は,建物の従物〔独立の動産〕です。

 抵当権設定当時に存在していた従物』には,当事者の合意で特定の附加一体物に抵当権の効力が及ばないとする別段の定めがなければ,抵当権の効力が及びます。(判例)〔建物の附合物では,抵当権設定の前後を問わず,別段の定めがなければ,抵当権の効力が及びます。〕

 しかし,抵当権設定後の従物に抵当権が及ぶかどうかについては,判例と学説で争いがあるとされており,学説では,抵当権設定後も,別段の定めがなければ,抵当権設定後の従物にも抵当権が及ぶとしています。

判例は「抵当権設定後の従物には抵当権が及ばない」とはっきり言っているわけではないという見解を持っている法律学者もいます。〔内田貴『民法3』p.391〕

●類題

「抵当権の効力は,抵当権設定行為に別段の定めがあるとき等を除き,不動産に附合した物だけでなく,抵当権設定当時の抵当不動産の従物にも及ぶ。」(平成元年・問7)

【正解 : 】不動産適正取引推進機構が試験事務を受託している現行での出題。

 1) 抵当不動産に附合したものは不動産の構成部分となって独立性を失っているので,附合の時期に関係なく,附加一体物に含まれます。(242条)

 建物の附合物の例 建物での雨戸・入り口の扉 (外界と建物の内部を遮断するため,建物の一部と考えられている) etc

 2) 従物〔独立の動産〕は主物の価値を高めるという一体的な関係にあり、抵当権設定当時の抵当不動産の従物も抵当権の効力が及ぶ付加一体物とされています。(最高裁・昭和44.3.28など)

 付加一体物になる抵当権設定当時の従物の例 土地での石灯籠・取外しのできる庭石etc

●附加一体物になるもの
 附合物  附合した時期が抵当権設定の前後を問わず
 特約で別段の定めがなければ,抵当権の効力が及ぶ。
 抵当権設定後の従物  抵当権設定当時に存在していれば,
 (特約で別段の定めがなければ)抵当権の効力が及ぶ。(判例)

 【参考】 抵当権設定の前後を問わず
 特約で別段の定めがなければ,抵当権の効力が及ぶ。(通説)


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