Brush Up! 権利の変動篇

不動産登記法の過去問アーカイブス 登記申請 平成5年・問15 改正対応


不動産登記に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(平成5年・問15)

1.「登記は,当事者の申請又は官公署の嘱託がある場合でなければ,することができない。」

2.「氏名の変更による登記名義人の氏名等の変更の登記の申請は,登記名義人が単独ですることができる。」

3.「申請情報と併せて仮登記義務者の承諾を証する情報を提供してする所有権移転請求権の仮登記の申請は,仮登記権利者及び仮登記義務者が共同してすることを要する。」

4.「登記権利者は,その者の所有権を確認する確定判決に基づき,売買による所有権移転の登記の申請を単独ですることができる。」

【正解】

× × ×

1.「登記は,当事者の申請又は官公署の嘱託がある場合でなければ,することができない。」

【正解:×

◆当事者の申請・嘱託のほかに職権による登記がある

 登記は,法律に別段の定めがある場合のほか,原則として,当事者の申請または官庁もしくは公署の嘱託によって行うことになっています(不動産登記法・16条1項)

 この別段の定めというのが登記官の職権による登記です。(表示に関する登記など(28条)。)

したがって,本肢はこの「職権による登記」がカウントされていないので×になります。

●関連問題

1.「登記は,すべて当事者の申請又は官庁・公署の嘱託による手続きによらなければすることはできない。」(昭和59年・問15)

【正解:×登記官の職権による登記が抜けているので×。

2.「氏名の変更による登記名義人の氏名等の変更の登記の申請は,登記名義人が単独ですることができる。」

【正解:

◆登記名義人の氏名等の変更の登記または更正の登記

 登記名義人とは,登記記録の権利部に(所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・採石権の九つのうちの)権利者として記録されている者利に関する登記簿上の名義人のことです(不動産登記法・2条11号,3条)

 登記名義人の氏名・住所(法人)名称に変更や更正するべきものがあるときは,他の人にその了解を得る必要はないので,登記名義人が単独で申請できます(不動産登記法64条,大正2.10.29民975号回答)

 登記名義人の氏名・名称・住所の変更(更正)登記は附記登記によって記録します(不動産登記規則3条1号)⇒ 主登記によって記録すると,変更の登記までに,別の権利者が登記した場合に,権利の順位に変動を生じてしまうからです。

変更の例

 結婚・離婚・養子縁組・離縁による改姓,裁判・帰化による改名,住所の変更,住居表示の実施,町名地番変更etc,
 商号変更,組織変更,主たる事務所の移転etc

■記載例

   【甲   区】  (所有権に関する事項)
【順位番号】 【登記の目的】 【受付年月日・受付番号】 【原因】 【権利者その他の事項】
所有権保存  ・・  余白  所有者 毛利元就

付記1号

所有権移転  ・・ 年月日
売買
 所有者 
 東京都港区赤坂・・
 ----------------
 豊臣秀吉・・
2番登記名義
人表示変更
 ・・ 年月日
住所移転
 住所 
 東京都文京区本郷・・

*下線のあるものは抹消事項であることを示す。

3.「申請情報と併せて仮登記義務者の承諾を証する情報を提供してする所有権移転請求権の仮登記の申請は,仮登記権利者及び仮登記義務者が共同してすることを要する。」

【正解:×

◆仮登記で単独申請できる場合

 「仮登記義務者の承諾を証する情報」を提供する場合は,仮登記権利者は単独で申請できるので,本肢は×です。

  ―*――*――*――*――*―

 仮登記も共同申請するのが原則ですが,仮登記権利者が単独でできる場合があります。

 仮登記権利者(仮登記によって「得」する人)が単独で仮登記をすることができるのは,申請情報と併せて,添付情報として,

1) 仮登記の登記義務者(仮登記によって「損」する人)の承諾を証する情報を提供したとき(このほかに,登記原因証明情報が必要)

2) 裁判所の仮登記を命ずる処分の決定書正本を提供したとき(決定書の正本が登記原因証明情報になる。登記令・7条1項5号ロ)

 この2つの場合です(不動産登記法・107条1項)

単独申請することができる場合

 ・仮登記義務者の承諾を証する情報を提供して仮登記権利者が仮登記申請するとき

 ・仮登記を命じる処分の決定書正本を提供して仮登記権利者が仮登記申請するとき

 1号仮登記   物権変動(所有権の移転等)は生じているが,
 本登記に必要な添付情報など
 手続上の要件が揃わなかったとき
 2号仮登記   物権変動(所有権の移転等)はまだ生じていないが,
 所有権移転請求権や停止条件付請求権などは発生している
 のでこの請求権を保全するとき

4.「登記権利者は,その者の所有権を確認する確定判決に基づき,売買による所有権移転の登記の申請を単独ですることができる。」

【正解:×

◆判決による登記 : 「登記すべきことを命じる確定判決」

 “判決による登記”は登記権利者が単独で申請することができます(登記法・63条1項)。裁判によって負かした相手と一緒に共同申請するのは気分的にもイヤなものでしょう。

 しかし ,この確定判決は,「登記すべきことを命じた給付判決(明治33.9.24民刑1390号回答),または,裁判上の和解調書・調停調書などの,「登記すべきことを命じた給付判決に代わるもの」でなければいけないとされています。(明治33.1.17民刑1390号回答昭和29.1.6民甲2560号回答)

 本肢では,「その者の所有権を確認する確定判決」となっているので×です。これは「確認判決」といわれるものであって「登記すべきことを命じた給付判決」ではないからです。

<もう少し詳しく>
給付判決…例)甲から乙への登記の移転を命じる判決
確認判決…例)Aに所有権があると確認する判決
        →所有権“保存”の登記には有効である 

登記簿に表題部しかないときであれば,確認判決か,形成判決(=新たな法律効果を生じさせる判決…例えば、離婚訴訟とか)をもらって『所有権保存登記の手続』を踏んでもよい。

確認●所有権保存の登記
 所有権が自己にあることを確定判決によって確認された者は,所有権保存の登記を単独で申請することができる。

 ここでいう確定判決とは,所有権を認めているものならば,給付判決・確認判決・形成判決のどれでもよいとされており(大審院・大正15.6.23),判決の主文だけではなく判決理由で所有権を認めているものでもよく,裁判上の和解調書・調停調書などの,「所有権を認めているものでもよいとされています。


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