Brush Up! 権利の変動篇

不動産登記法の過去問アーカイブス 仮登記 昭和51年 改正対応


不動産の仮登記に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和51年)

1.「仮登記の本登記は,常に仮登記名義人の単独申請によりなされる。」

2.「仮登記には,本登記と同様の対抗力がある。」

3.「仮登記は,所有権の移転についてのみすることができる。」

4.「仮登記の本登記は,仮登記の次に設けられていた余白になされる。」

【正解】

× × ×

【関連条文】
 不動産登記法・105条〜110条,登記令・8条1項8号,別表68項〜70項,
 登記規則・178条〜180条,準則・116条(仮登記の抹消),

1.「仮登記の本登記は,常に仮登記名義人の単独申請によりなされる。」

【正解:×

◆仮登記に基づく本登記

 仮登記のなされた権利について,本登記のできる要件が整ったときには,仮登記に基づく本登記をすることによって,対抗力を得ることができます。

 仮登記を本登記にする場合は,原則として,仮登記義務者と仮登記権利者との共同申請になります。

●仮登記に基づく本登記の申請での注意事項

 ○所有権に関する仮登記に基づく本登記のとき(不動産登記法109条1項)

 本登記にすることについて利害関係者がいる場合はその者の承諾を証明する情報または(その者に対抗することが出来る裁判があったことを証する情報のどちらかを提供する必要があります。

 ○所有権以外の仮登記に基づく本登記

 上の所有権に関する仮登記に基づく本登記とは異なり,仮登記に遅れる登記は後順位のものになるに過ぎないので,その者の承諾書等は不要です。

2.「仮登記には,本登記と同様の対抗力がある。」

【正解:×

◆仮登記には対抗力はない−順位保全の効力

 仮登記には,それ自体には対抗力はありません。仮登記が本登記に改められたときに,仮登記の順位で対抗力を取得します。(不動産登記法106条)

・所有権移転の仮登記

 所有権移転の仮登記がなされた後でも,仮登記には本登記のような対抗力はないため,第三者への所有権移転登記はできますが,仮登記に基づく本登記がなされると,その仮登記に遅れて移転登記をした者(利害関係人)の登記は原則として抹消されます。

3.「仮登記は,所有権の移転についてのみすることができる。」

【正解:×

◆仮登記できるもの

 仮登記とは,実体法上または手続法上の要件が具備していない場合に,将来の本登記の順位保全のためにあらかじめしておく登記です。

 仮登記できるのは,所有権や所有権の移転だけのことではなく,所有権以外の権利や権利の移転以外のものでもできます。

不動産登記法3条では,権利に関する登記事項として以下のものを規定しています。

・所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・採石権

・不動産に関する権利の保存等(保存,設定,保存,移転,変更,処分の制限,消滅)

 このうち,仮登記できないとされているものもありますが,「所有権の移転」のみ仮登記できるというわけではありません。

●仮登記は二つある

●二つある仮登記

1号仮登記・・本登記をするのに必要な実体法上の物件変動は生じているが,本登記をするのに必要な手続上の要件が備わっていない場合(申請に必要な情報を提供できない場合)に行う登記。(不動産登記法105条1号,登記規則178条)

 ・登記済証の紛失や,登記識別情報を提供できない場合。

 ・第三者の許可・同意を要する場合で許可・同意があるにもかかわらず許可証等が提出できない(農地法上の許可がない場合は2号仮登記なので注意してください。)

2号仮登記・・物件変動は生じていないが,将来において物件変動を生じさせる請求権が発生しており(売買の予約や停止条件付売買など),その権利を保全する必要がある場合に行う登記。(不動産登記法105条2号)

 農地法上の許可がない場合の農地の売買(仮登記による)については,こちらを参照。

●仮登記申請で提供を要しないもの

 先例(通達等)により,仮登記の申請には次の情報は添付を要しないとされています。

・登記識別情報(登記済証)(不動産登記法107条2項)

・登記原因についての第三者の許可・同意・承諾を証する情報→昭和39.3.3民事甲291号民事局長通達

・住所を証する書面→昭和39.7.27民事甲143号民事局長通達

 このため上の1号仮登記ができるわけです。

4.「仮登記の本登記は,仮登記の次に設けられていた余白になされる。」

【正解:

◆仮登記の次の余白 (仮登記後の本登記用)

 仮登記は,権利部の相当区(所有権の仮登記ならば甲区,その他の権利の仮登記ならば乙区)にすることになっています。仮登記をしたときは,その次に余白が設けられます。その余白には,当該仮登記に基づく本登記に改められるときに,その本登記がなされます(不動産登記規則179条1項)

登記官は,仮登記に基づいて本登記をするときは,当該仮登記の順位番号と同一の順位番号を用いてしなければなりません(不動産登記規則179条2項)

◆登記こぼれ話−登録免許税と仮登記
 仮登記は,『登記識別情報登記原因についての第三者の許可等を証する情報がそろわなくてやむを得ず仮登記』というケースだけではありません。

 仮登記がローコストで済むということから(仮登記の登録免許税は、本登記の登録免許税より超がつくほど安い)

 一時的に順位保全を行うだけの目的であれば,仮登記ですませてしまうこともあり,街の金融業者などがよくこの手法を使います。(成り行きを見て後で本登記する。)

 このように『本登記できるのに,わざと仮登記に留めておく場合』もアタマの片隅に入れておく必要があります。

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