Brush Up! 権利の変動篇
不動産登記法の過去問アーカイブス 登記された権利の順位 昭和58年・問16
改正対応
同一の不動産についてされた登記に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。(昭和58年・問16) |
1.「仮登記がされた所有権移転請求権と登記がされた抵当権の順位は,それらの登記の順位番号による。」 |
2.「登記がされた数個の抵当権の順位は,それらの登記の順位番号による。」 |
3.「所有権移転請求権保全のための仮登記をした場合,本登記の順位は,仮登記の順位による。」 |
4.「登記がされた抵当権の変更の付記登記の順位は,その抵当権の設定の登記の順位による。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
1.「仮登記がされた所有権移転請求権と登記がされた抵当権の順位は,それらの登記の順位番号による。」 |
【正解:×】 ◆甲区と乙区に記載されたものの順位は『受付番号』による 所有権移転請求権の仮登記は甲区に記載され,抵当権設定は乙区に記載されます。 権利部の同一区になされた登記は順位番号によりますが,相当区が異なる場合は,その登記の優劣は順位番号ではなく受付番号で決まることになっていましたね(登記規則2条1項)。 ▼一応これだけの知識で問題は解けるのですが,『何かおかしいぞ』と思う人はいるはずです。本肢では,二つほど疑問点があります。〔宅建試験ではアッサリ書いてあっても奥深いものが出題されることがあり本肢もその一つです。〕
実は,この二つの疑問点を氷解させるものが『仮登記担保』と言われているものです。 仮登記担保法(昭和53年制定)では,一定の仮登記に優先弁済を受ける担保物権としての効力を認めています。〔仮登記担保といい,実質的には『仮登記には対抗力がないこと』の例外規定です。〕 大雑把に言えば,(一般債権者等の申立てにより)その仮登記担保の対象の不動産等の競売手続が開始されると,仮登記担保権者は仮登記に基づく本登記の申請ができず, ・仮登記したときに抵当権を設定したものとみなし,順位に応じて優先弁済が受けられる。(仮登記担保法13条1項) という規定があります。(このほかには仮登記担保権の実行でも順位が問題になります。)
本肢では,仮登記担保として,甲区に記載される『所有権移転請求権の仮登記』(2号仮登記)を用いた例で,乙区の抵当権との順位の決定方法を扱った問題でした。 ▼仮登記担保契約とは,「金銭債権を担保するためにその不履行があるときは,債権者は,債務者または第三者の所有権その他の権利の移転等をすることができる」とする代物弁済の予約や停止条件つき代物弁済契約などをいいます。 (具体的には,競売手続によらずに私的実行ができる担保物権と考えていい。) 宅建試験でも,仮登記担保契約は,民法で過去に出題歴があります(昭和54年、昭和63年)が,最近では出題されていません。今日では,法整備により,敢えて仮登記担保にするメリットはないため,多くは使われていないとされています。(「内田貴・民法3」p.495) |
▼この記載例では,受付番号から,順位は, 豊臣秀吉 > 徳川家康になります。
【権利部 (甲区)】 (所有権に関する事項) | ||||
【順位番号】 | 【登記の目的】 | 【受付年月日・受付番号】 | 【原因】 | 【権利者その他の事項】 |
1 | 所有権保存 | 平成15年3月20日
第4234号 |
余白 | 所有者 毛利元就 |
2 | 所有権移転 請求権仮登記 |
平成15年7月7日 第5739号 |
年月日 代物弁済 予約 |
権利者 徳川家康 |
余白 | 余白 | 余白 | 余白 |
【権利部 (乙区)】 (所有権以外の権利に関する事項) | ||||
【順位番号】 | 【登記の目的】 | 【受付年月日・受付番号】 | 【原因】 | 【権利者その他の事項】 |
1 | 抵当権設定 | 平成15年7月7日 第5701号 |
・・ | 抵当権者 豊臣秀吉 |
●仮登記の順位保全(仮登記に基づく本登記) | ||||||
仮登記には将来本登記がされたときの順位保全の効力があります。仮登記のままでは原則として対抗力はありませんが,仮登記に基づいて本登記がなされると,その本登記の順位は,仮登記の時点で保全していた順位になります。
|
2.「登記がされた数個の抵当権の順位は,それらの登記の順位番号による。」 |
【正解:○】 ◆同一区に記載されたものの順位は『順位番号』による 登記した権利の順位は,登記記録中,同一区になされた登記の場合は順位番号により,甲区と乙区になされた登記の間ではその受付番号により決まりました(登記規則2条1項)。 抵当権は乙区のみに記載されるので,乙区の中での順位番号によって,順位が決まります。 |
▼この記載例では,1番抵当権が豊臣秀吉,2番抵当権が伊達正宗になっています。
【権利部 (乙区)】 (所有権以外の権利に関する事項) | ||||
【順位番号】 | 【登記の目的】 | 【受付年月日・受付番号】 | 【原因】 | 【権利者その他の事項】 |
1 | 抵当権設定 | ・・ | ・・ | 抵当権者 豊臣秀吉 債権額 5,000万円 |
2 | 抵当権設定 | ・・ | ・・ | 抵当権者 伊達正宗 債権額 4,000万円 |
3.「所有権移転請求権保全のための仮登記をした場合,本登記の順位は,仮登記の順位による。」 |
【正解:○】 ◆仮登記に基づく本登記の順位 仮登記には,原則として,登記本来の効力である対抗力はありませんが,仮登記に基づく本登記のために順位を保全する効力があります(登記法・106条)。 仮登記に基づく本登記がなされると,「仮登記後になされて,仮登記に基づく本登記と抵触する登記」は抹消されたり(所有権),後順位(抵当権など)になります。 |
▼この記載例では,徳川家康が「仮登記に基づく本登記」をしたことによって,「仮登記後に
所有権移転登記した豊臣秀吉の登記」が抹消されています。
【権利部 (甲区)】 (所有権に関する事項) | ||||
【順位番号】 | 【登記の目的】 | 【受付年月日・受付番号】 | 【原因】 | 【権利者その他の事項】 |
1 | 所有権保存 | ・・ | 余白 | 所有者 織田信長 |
2 | 所有権移転 請求権仮登記 |
・・ | 年月日 売買予約 |
権利者 徳川家康 |
所有権移転 | ・・ | 年月日 売買 |
所有者 徳川家康 | |
3 - |
所有権移転 ---------- |
・・ | 年月日 売買 ---- |
所有者 豊臣秀吉 --------------- |
*下線のあるものは抹消事項であることを示す。
4.「登記がされた抵当権の変更の付記登記の順位は,その抵当権の設定の登記の順位による。」 |
【正解:○】 ◆付記登記の順位 抵当権設定登記をした後で,その登記事項に変更があって,その変更した事項を付記登記したものが複数あるときには,これらの付記登記の順位は主登記(抵当権の設定登記)の順位によります。(不動産登記法・4条2項) ▼本問題は不動産登記法・4条2項の本文「付記登記の順位は主登記の順位による」をソノママ用いたもので,一つの主登記に複数の付記登記がある場合は「付記登記間の順位はその前後による」(不動産登記法・4条2項)ことになります。 |
▼この記載例では,伊達正宗・豊臣秀吉の抵当権登記の変更が付記登記でなされて
います。付記登記で記載されている登記の順位はそれぞれの主登記の順位によります。
【権利部 (乙区)】 (所有権以外の権利に関する事項) | ||||
【順位番号】 | 【登記の目的】 | 【受付年月日・受付番号】 | 【原因】 | 【権利者その他の事項】 |
1
付記1号 |
抵当権設定 | ・・ | ・・ | 抵当権者 豊臣秀吉
債権額 5,000万円 |
1番抵当権変更 | ・・ | 一部弁済 | 債権額 2,000万円 | |
2
付記1号 |
抵当権設定 | ・・ | ・・ | 抵当権者 伊達正宗
債権額 4,000万円 |
2番抵当権変更 | ・・ | 一部弁済 | 債権額 1,000万円 |
*下線のあるものは抹消事項であることを示す。