宅建業法 実戦篇
自ら売主の制限の過去問アーカイブス 昭和61年・問48 手付金等の保全措置
宅地建物取引業者が,自ら売主となるマンション分譲に当たり,建築工事の完了する前に,宅地建物取引業者でない買主に対して当該マンションを分譲 (いわゆる青田売り) した。この場合の手付金等保全措置に関する次の記述のうち,宅地建物取引業法の規定によれば,誤っているものはどれか。なお,本問題でのマンションの代金の5%は1,000万円未満であるものとする。(昭和61年・問48改) |
1.「手付金等の保全措置は,保険事業者との間において,宅地建物取引業者が保証保険契約を締結し,保険証書を買主に交付することによっても講じられる。」 |
2.「宅地建物取引業者は,代金の5%を超える手付金等を受領した場合でも,その額が供託している営業保証金の額の範囲内であれば,手付金等の保全措置を講ずる必要はない。」 |
3.「買主は,手付金等の保全措置が講じられず,所有権の移転登記がされない場合には代金の5%を超える手付金等を支払わないことができる。」 |
4.「代金の5%を超える金額の手付金等を受領する場合には,宅地建物取引業者が受領しようとする手付金等全額について手付金等の保全措置を講じる必要がある。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
1.「手付金等の保全措置は,保険事業者との間において,宅地建物取引業者が保証保険契約を締結し,保険証書を買主に交付することによっても講じられる。」 |
【正解:○】 ◆保証保険契約 未完成物件での手付金等保全措置は,銀行等との保証委託契約によるものと,保険事業者との保証保険契約によるものと2通りあります(宅建業法・41条1項)。(完成物件の保全措置では4通り。) ●銀行等(銀行その他政令で定める金融機関又は国土交通大臣が指定する者)との保証委託契約(宅建業法・41条1項1号) 銀行等との間で,宅建業者が受領した手付金等の返還債務を負うこととなった場合に,当該銀行等がその債務を連帯して保証することを委託する契約を締結し,かつ,当該保証委託契約に基づいて当該銀行等が手付金等の返還債務を連帯して保証することを約する書面を買主に交付する。 ●保険事業者との保証保険契約(宅建業法・41条1項2号) 保険事業者との間で,宅建業者が受領した手付金等の返還債務の不履行により買主に生じた損害のうち少なくとも当該返還債務の不履行に係る手付金等の額に相当する部分を当該保険事業者がうめることを約する保証保険契約を締結し,かつ,保険証券又はこれに代わるべき書面を買主に交付する。 ▼宅建業者は,書面の交付に代えて,買主の承諾を得て,電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて,書面の交付に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講じることができます(宅建業法・41条5項,41条の2・6項)。 |
●完成物件の手付金等の保全措置 |
完成物件での手付金等の保全措置は,銀行等との保証委託契約,保険事業者との保証保険契約によるもののほかに,以下のものによることもできます(宅建業法・41条の2・1項)。
●指定保管機関との手付金等寄託契約 (宅建業法・41条の2・1項・1号) 国土交通大臣が指定する者(指定保管機関)との間で,宅地建物取引業者が自己に代理して当該指定保管機関に当該手付金等を受領させることとするとともに,当該指定保管機関が,当該宅建業者が受領した手付金等の額に相当する額の金銭を保管することを約する契約を締結し,かつ,当該手付金等寄託契約を証する書面を買主に交付すること。 ⇒ 保証協会も,国土交通大臣の承認を受けて,手付金等保管事業を行うことができます(宅建業法・64条の3・2項,64条の17の2)。 ●買主との質権設定契約 (宅建業法・41条の2・1項・2号) 買主との間で,買主が宅建業者に対して有することとなる手付金等の返還を目的とする債権の担保として,手付金等寄託契約に基づく寄託金の返還を目的とする債権について質権を設定する契約を締結し,かつ,当該質権設定契約を証する書面を買主に交付し,及び当該質権設定契約による質権の設定を民法第467条の規定による確定日付のある証書をもって指定保管機関に通知すること。 |
2.「宅地建物取引業者は,代金の5%を超える手付金等を受領した場合でも,その額が供託している営業保証金の額の範囲内であれば,手付金等の保全措置を講ずる必要はない。」 |
【正解:×】 ◆営業保証金の額の範囲とは関係ない 営業保証金の額の範囲内ならば手付金等保全措置を講じなくてよいという規定はないので,本肢は誤りです。 |
3.「買主は,手付金等の保全措置が講じられず,所有権の移転登記がされない場合には代金の5%を超える手付金等を支払わないことができる。」 |
【正解:○】 ◆保全措置が講じられていないときは,買主は手付金等を支払わなくてもよい 宅建業者が宅地建物の売買で自ら売主となるものに関して,すでに所有権の移転登記がされている場合を除いて,代金の5%を超える額又は1,000万円を超える手付金等について保全措置が講じられず,所有権の移転登記がされないときには,買主は手付金等を支払わないことができます(宅建業法・41条4項)。 |
4.「代金の5%を超える金額の手付金等を受領する場合には,宅地建物取引業者が受領しようとする手付金等全額について手付金等の保全措置を講じる必要がある。」 |
【正解:○】 ◆手付金等保全措置 宅建業者は,宅地建物の売買で自ら売主となるものに関して,代金の5%超又は1,000万円超の手付金等を受領しようとするときは,買主への移転登記が行われていなければ,※受領する手付金等全額について手付金等保全措置を講じなければなりません(宅建業法・41条1項)。 ※受領する手付金等全額 手付金等を数回にわたって受領する場合に,代金の5%以下,かつ,1,000万円以下のときは保全措置を講じる必要はありませんが,受領しようとする金額とこれまでに受領してきた金額との合計が代金の5%超又は1,000万円超になるときには,受領しようとする金額とこれまでに受領していた金額との合計の全額について,保全措置を講じなければいけません。 |
●原題 |
4.「代金の5%を超える金額の手付金等を受領する場合には,宅地建物取引業者が受領した前金全額について前金保全措置を講じる必要がある。」 |
改題した点については以下の通りです。
・出題当時は前金保全措置でしたが,その後の法改正によって,手付金等保全措置になっているので改めました。 ・<受領した>という表現では,誤解を招きかねないので,<受領しようとする>に改めました。 |