税法その他 実戦篇

不動産鑑定評価基準の過去問アーカイブス 平成10年・問29 


不動産の鑑定評価に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。(平成10年・問29)

1.「取引事例比較法における取引事例としては,特殊事情のある事例でもその具体的な状況が判明しており,補正できるものであれば採用することができるが,投機的取引であると認められる事例は採用できない。」

2.「土地についての原価法の適用において,宅地造成直後と価格時点とを比較し公共施設の整備等による環境の変化が価格水準に影響を与えていると認められる場合は,熟成度として地域要因の変化の程度に応じた増加額を加算できる。」

3.「原価法では価格時点における対象不動産の再調達原価を求める必要があるため,建設資材,工法等の変遷により対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合には,鑑定評価に当たって原価法を適用することはできない。」

4.「収益還元法は,文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものについてはすべて適用すべきものであり,自用の住宅地についても賃貸を想定することにより適用できる。」

【正解】

×

1.「取引事例比較法における取引事例としては,特殊事情のある事例でもその具体的な状況が判明しており,補正できるものであれば採用することができるが,投機的取引であると認められる事例は採用できない。」

【正解:平成4年・問33・肢3,平成10年・問29・肢1

◆投機的取引はダメ

 取引事例を選択する要件の一つに「取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること」があり,投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものは選択できません。

●事例の収集について
事例の収集及び選択

(不動産鑑定評価基準・総論・第7章・第1節 価格を求める鑑定評価の手法 1 試算価格を求める場合の一般的留意事項 2事例の収集及び選択)

鑑定評価の各手法の適用に当たって必要とされる事例には、原価法の適用に当たって必要な建設事例、取引事例比較法の適用に当たって必要な取引事例及び収益還元法の適用に当たって必要な収益事例(以下「取引事例等」という。)がある。これらの取引事例等は、鑑定評価の各手法に即応し、適切にして合理的な計画に基づき、豊富に秩序正しく収集し、選択すべきであり、投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならない。

 取引事例等は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するものとする。

(1)次の不動産に係るものであること

 1. 近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域(以下「同一需給圏内の類似地域等」という。)に存する不動産

 2. 対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等における同一需給圏内に存し対象不動産と代替、競争等の関係が成立していると認められる不動産(以下「同一需給圏内の代替競争不動産」という。)。

(2)取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。

(3)時点修正をすることが可能なものであること。

(4)地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。

2.「土地についての原価法の適用において,宅地造成直後と価格時点とを比較し公共施設の整備等による環境の変化が価格水準に影響を与えていると認められる場合は,熟成度として地域要因の変化の程度に応じた増加額を加算できる。」

【正解:

◆熟成度

 土地の再調達原価は,その素材となる土地の標準的な取得原価に,当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めます。

土地についての原価法の適用において,「宅地造成直後の対象地の地域要因」と「価格時点における対象地の地域要因」とを比較して,公共施設・利便施設等の整備及び住宅等の建設等により,社会的,経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると認められる場合には,地域要因の変化の程度に応じた増加額熟成度として加算することができます。

3.「原価法では価格時点における対象不動産の再調達原価を求める必要があるため,建設資材,工法等の変遷により対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合には,鑑定評価に当たって原価法を適用することはできない。」

【正解:×

◆置換原価

 再調達原価とは,対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合に必要とされる適正な原価の総額をいいます。

建設資材・工法等の変遷により,対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合には,対象不動産と同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原価置換原価)を再調達原価とみなします。

 したがって,「建設資材,工法等の変遷により対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合には,鑑定評価に当たって原価法を適用することはできない」とする本肢は誤りです。

4.「収益還元法は,文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものについてはすべて適用すべきものであり,自用の住宅地についても賃貸を想定することにより適用できる。」

【正解:

◆収益還元法の適用対象

 収益還元法は,対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法です。(この手法による試算価格を収益価格という。)

収益還元法は,「賃貸用不動産」又は「賃貸以外の事業の用に供する不動産」の価格を求める場合に特に有効とされています。

 また,この手法は,文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものにはすべて適用すべきものであり,自用の住宅地についても賃貸を想定することにより適用されます。


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