Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法
借家権の過去問アーカイブス 昭和63年・問12
1年未満の賃貸借・期間の定めのない賃貸借での解約申入れ・
賃借人死亡時の賃貸借の承継・借家権の対抗要件
居住の用に供する建物の賃貸借に関する次の記述のうち,借地借家法の規定によれば,正しいものはどれか。ただし,本問題での賃貸借は,定期建物賃貸借,取り壊し予定の建物賃貸借,一時使用の建物賃貸借ではないものとする。(昭和63年・問12)改 |
1.「賃貸借期間が1年未満の契約は,常に無効である。」 |
2.「期間の定めのない賃貸借契約を解約する場合には,賃貸人は3月前に解約の申入れをすればよい。」 |
3.「賃借人が死亡した場合において,その相続人が存在しないときは,常に賃借人の権利義務は消滅する。」 |
4.「建物の賃貸借は,建物の引渡しを受ければ,第三者に対抗することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | ○ |
1.「賃貸借期間が1年未満の契約は,常に無効である。」 |
【正解:×】 ◆期間を1年未満とする建物の賃貸借は自動的に期間の定めのない契約になる 普通借家契約で,期間を一年未満とする建物の賃貸借は,『期間の定めのない建物の賃貸借』とみなされます。(29条) ▼定期借家契約では,日単位・週単位の期間も可能です。 ▼一時使用の建物の賃貸借は借地借家法は適用されません。〔一時使用の土地の賃貸借では一部適用を受けます。〕 |
2.「期間の定めのない賃貸借契約を解約する場合には,賃貸人は3月前に解約の申入れをすればよい。」 |
【正解:×】 ◆期間の定めのない賃貸借での解約の申入れ 期間の定めのない建物の賃貸借では,賃貸人・賃借人ともいつでも解約の申入れをすることができますが,賃貸人から解約の申入れをする場合は,正当事由を必要とし(28条),解約申入れから6月を経過することによって終了します。(27条1項) ※賃借人からの解約申入れの場合は民法617条が適用され,解約の申入れから3月が経過することによって終了します。(民法617条1項2号)
▼建物所有を目的とする借地契約(土地の賃貸借・地上権)では,期間の定めがない場合は,存続期間が30年になり,解約の申入れもできないことに注意。 ●期間の定めのない建物の賃貸借の終了原因
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3.「賃借人が死亡した場合において,その相続人が存在しないときは,常に賃借人の権利義務は消滅する。」 |
【正解:×】 ◆賃借人死亡時の居住用建物の賃貸借の承継 居住用建物の賃借人が死亡したとき,相続人がいれば賃借権を相続しますが,その相続人がいないときに, 事実上の夫婦関係や養親子にある者〔内縁の夫婦・養子縁組届出をしていない者〕 が同居している場合は,その同居者が,原則として,賃借人の権利義務を承継します。(36条1項) ただし,<相続人なしに死亡したこと>を知った後1ヵ月以内に反対の意思〔権利義務を承継しない〕を賃貸人に意思表示したときは,承継しません。(36条1項但書) 本肢では,≪その相続人が存在しないときは,常に賃借人の権利義務は消滅する≫としているので×です。 ▼この規定は任意規定なので特約で排除すること(「賃借人が相続人なくして死亡しても同居人は借家権を承継しない」と定めること)ができます。「→平成7年問13出題 ▼この規定は,居住用の建物〔店舗併用住宅も含むと考えられる〕の賃貸借にのみ適用され,非・居住用建物には適用されないことに注意。 |
4.「建物の賃貸借は,建物の引渡しを受ければ,第三者に対抗することができる。」 |
【正解:○】 ◆建物の賃借権の対抗要件−引渡しor賃借権の登記 建物の賃借権は,賃借権の登記(民法605条)または建物の引渡しがあれば,第三者〔建物の所有者から譲り受けた者〕に対抗することができます。(31条1項) |
●関連問題 |
「Aを賃貸人、Bを賃借人とするA所有の居住用建物についての賃貸借が締結された後、Aがその建物をDに売却し、登記も移転した。Bは、建物の引渡しを受けている場合、Cに借家権を対抗することができるが、建物の引渡しを受けていないときは、常にDに対抗することはできない。」(H2-13-1) |
【正解:×】
建物の引渡しを受けていなくても,賃借権の登記を得ていれば対抗できるので×。 |
●関連判例 |
賃借権の登記をする特約がないときには、賃借人は賃貸人に対して賃借権の登記を請求することはできない。(大審院・大正10.7.11) |
●建物の引渡しの意味 |
「建物の引渡し」というのはかなり広い概念です。次のようなものも「建物の引渡し」に含まれます。
・建物を使用していないが、その建物のカギを渡された。 ・カギは渡されていないが、借家人が現実に建物を使用し、賃貸人がこれを許している。 |