宅建1000本ノック
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改正法一問一答2004
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民法 抵当権− 果実・一括競売・明渡し猶予・抵当権者の同意の登記
次の記述は,○か×か。 |
1.「抵当権の被担保債権について債務不履行があったときは,抵当権の効力は,その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶが,この果実には法定果実は含まれない。」 |
2.「抵当権が設定された後に抵当権設定者によって建物が築造されたとき,抵当権者は抵当権の実行としての担保不動産競売にあたって,その建物を土地とともに競売することができるが,第三者が築造して保有している建物については一括競売は常に認められない。」 |
3.「抵当権者に対抗できない土地の賃借人であっても,競売手続の開始前から使用収益を為す者は,競売による買受人の買受の時より6箇月を経過するまでは,買受人への引渡しが猶予される。」 |
4.「抵当権設定後の賃借権についての抵当権者の同意の登記をしようとするときは,抵当権設定者の承諾を得なければならない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | × |
1.「抵当権の被担保債権について債務不履行があったときは,抵当権の効力は,その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶが,この果実には法定果実は含まれない。」 |
【正解:×】 ◆債務不履行後は果実に抵当権の効力が及ぶ
抵当権設定者は抵当権の目的物を使用・収益できるので果実を収取することができますが,債務不履行があると果実に抵当権の効力が及びます。 この場合の果実は,天然果実だけでなく,法定果実〔賃料等〕も含まれるので,本肢は誤りです。 債務不履行があった場合に,抵当権者が果実についての優先権を行使するには,次の2つの方法があり,いずれかの方法をとることができます。〔債務不履行後に,果実に対する優先権を行使するか,担保不動産競売をするかは,抵当権者の選択による。〕
(民事執行法の改正により,不動産担保権の実行は,『担保不動産競売』と『担保不動産収益執行』の2つになりました。(民事執行法180条)) ▼「抵当不動産の賃料債権に対する物上代位権の行使」と「担保不動産収益執行」が競合する場合は「担保不動産収益執行」の効力が原則として優先され,「担保不動産収益執行の開始決定」の前に物上代位による差押えをしていた債権者は「担保不動産収益執行手続」の中で担保権の順位に従って配当等を受けることになります。(民事執行法93条の4第1項,第3項) ▼従来より過去問では民事執行法に関連する出題があったにもかかわらず,余り注目されてきませんでしたが,今回の民法改正を理解するにはある程度は民事執行法を知っておいたほうが楽です。 |
1.「抵当権の効力は,原則として,抵当不動産の果実には及ばないが,抵当不動産が差し押さえられたり,第三取得者が抵当権実行の通知を受けた後は,果実にも抵当権の効力が及ぶことになる。抵当権の担保する債権について単に履行遅滞があったのみでは,果実に抵当権の効力が及ぶことはない。」 |
【正解 : ×】民法改正後は,履行遅滞〔債務不履行〕があれば,そのときから抵当権の効力が果実に及ぶので,誤り。 |
2.「抵当不動産の賃料債権に対する物上代位は,被担保債権の債務不履行がなくても行使することができる。」 |
【正解 : ×】賃料債権に対する物上代位権は,被担保債権の債務不履行があったときにはじめて,行使することができる。(債務不履行の後に生じた法定果実には抵当権の効力が及ぶので,債務不履行後の賃料債権を差し押さえた上で物上代位権を行使できる。) |
2.「抵当権が設定された後に抵当権設定者によって建物が築造されたとき,抵当権者は抵当権の実行としての担保不動産競売にあたって,その建物を土地とともに競売することができるが,第三者が築造して保有している建物については一括競売は常に認められない。」 |
【正解:×】 ◆一括競売の拡大 改正前は,抵当権設定後に第三者が築造した建物については一括競売は認められていませんでした。しかし,第三者が所有する建物が抵当地上に存在することで抵当権の実行が妨げられることが多いため,改正によってまず短期賃貸借の保護を廃止し,建物の所有者が抵当地の占有権原を抵当権者に対抗できる場合を除き,第三者の築造した抵当地上の建物を土地とともに一括競売できることにしました。(389条)
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●一括競売できない建物の代表例 → 出題が今後予想される |
(1) 建物の所有者が抵当権設定者で,抵当権設定時に既にあった建物 〔抵当権設定当時にあった建物は,誰が築造したかを問わず,一括競売はできない。〕 (2) 建物の所有者が抵当権設定者以外で一括競売できない建物 ・抵当権設定前から抵当権者に対抗できる土地の賃借権を有している賃借人が抵当権設定後に築造した建物 ・〔改正法施行後〕抵当権設定後に,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与された土地の賃借人」が築造した建物 ・抵当権設定後,改正法施行前に,短期賃貸借の要件を満たしていた土地の賃借人が築造した建物 |
3.「抵当権者に対抗できない土地の賃借人であっても,競売手続の開始前から使用収益を為す者は,競売による買受人の買受の時より6箇月を経過するまでは,買受人への引渡しが猶予される。」 |
【正解:×】 ◆明渡し猶予は建物の賃借人のみ 抵当権設定登記に後れて設定され,抵当権者の同意のない賃借権は,抵当権者〔または買受人〕に対抗できません。つまり,賃借人は,買受人からの明渡し請求に応じなければいけません。⇒ これは,土地・建物とも同じです。 しかし,競売手続の開始前から使用収益をしている建物の賃借人〔抵当権者の同意のない賃借権〕は,競売による買受から6ヵ月を経過するまでは,明渡しが猶予されます。〔6ヵ月間賃借権が存続するのではないことに注意。〕この6ヵ月の間に,代わりの住居や建物を探して出ていってもらうということです。(民法395条1項)⇒ 土地の賃借人には猶予なし,建物の賃借人には6ヵ月の猶予。猶予のあるなしが違うだけ。 競売による買受の時点で,賃借権は消滅しているので,買受前の賃借人は厳密には賃借人の地位にはなく,占有者という位置付けになります。このため,買受前の賃借人は,明け渡しまでの間,「建物の使用を為したることの対価」を支払わなければいけません。〔不当利得の返還義務〕 買受前の賃借人が,対価も支払わず,明渡しもしないという事態を防ぐため,買受人から相当の期間を定めて1ヵ月以上の使用の対価の支払いを催告されたのにもかかわらず,その期間内に支払わないときは明渡し猶予を受けられなくなります。(民法395条2項) ▼もし,この明渡し猶予制度がなければ,抵当不動産となっている建物を借りようという人はいなくなってしまい,抵当権設定者は,建物を賃貸にまわしてそのアガリ〔賃料〕から債務を返済することはできなくなってしまいます。このため,明渡し猶予制度が必要だとされました。 ▼建物所有のための土地の賃借権は,これまで執行妨害となるものが多かったため,明渡し猶予は認められていません。 |
4.「抵当権設定後の賃借権についての抵当権者の同意の登記をしようとするときは,抵当権設定者の承諾を得なければならない。」 |
【正解:×】抵当権者の同意の登記 ◆抵当権者の同意の登記に抵当権設定者の承諾は要らない
抵当権者の同意の登記は,『賃借権の先順位抵当権に優先する同意の登記』として,独立の主登記によるものとされ, 登記権利者=賃借権者,登記義務者=先順位抵当権者 とする共同申請 によるものとされています。この同意の登記に抵当権設定者は関与する権限を持たず,抵当権設定者の承諾や同意は必要ではありません。したがって本肢は×です。 ただし,この同意の登記により不利益を受ける利害関係人〔転抵当権者など〕がいる場合は,同意の登記申請時にその承諾を証する書面も添付書類として提出しなければいけません。(民法387条2項,不動産登記法35条1項4号) |
●関連問題 |
1.「抵当権設定登記に後れた土地の賃借人は,賃借権の登記をして,かつ,その賃借権についての先順位の抵当権者全員の同意があれば,抵当権者全員の同意の登記がなくても,抵当権者に対抗することができる。」▼不動産登記法,民法 |
【正解:×】抵当権者の同意だけでは対抗できない。抵当権者の同意が登記されていなければならない。 抵当権設定登記に後れた賃借人は,賃借権の登記があり,かつその賃借権についての抵当権者全員の同意があっても,抵当権者全員の同意の登記がなければ,抵当権者に対抗することはできません。 |
●原則と例外 |
抵当権設定登記後に設定された賃借権は抵当権には対抗できないので,その不動産が担保不動産競売で売却されると消滅するのが原則ですが,抵当権者の同意の登記がある場合は例外で,消滅しません。〔改正前の短期賃貸借も同じ扱いを受けていました。〕 |
抵当土地の賃借 | 抵当建物の賃借 | |
明渡し猶予 | × 適用なし | ○ 適用される |
抵当権者の同意の登記 | ○ 適用される | ○ 適用される |
●民法改正の着眼点 今回の担保物権の改正は,執行妨害などを防止して,『債権回収の円滑化』を図るというのがポイントです。 |
抵当権の年度別過去問一覧・出題項目の検索ページ 〔昭和41年以降の全問収録〕