宅建1000本ノック
  改正法一問一答2004 

不動産登記法 敷金の登記・根抵当権者の元本確定登記の単独申請 


次の記述は,○か×か。

1.「不動産の賃借権の登記事項は,借賃,存続期間,借賃の支払時期などであり,敷金を登記することはできない。」

2.「抵当権設定登記に後れ,かつ抵当権者の同意の登記がない場合の建物の賃借人は,前の建物所有者に敷金を交付して賃借権の登記で敷金の記載があれば,競売によって競落した買受人に敷金の返還を求めることができる。」

3.「根抵当権者の請求により根抵当権の担保すべき元本が確定したときは,根抵当権者は,その請求がなされたことをことを証する書面を添附して,単独でその確定の登記を申請することができる。」

【正解】

× ×

1.「不動産の賃借権の登記事項は,借賃,存続期間,借賃の支払時期などであり,敷金を登記することはできない。」▼不動産登記法

【正解:×

◆敷金が登記できるようになった

 平成15年の法律134号〔担保物権等の民法の改正〕により,不動産登記法も改正され,権利関係を明確にするために,賃借権の登記に,敷金が記載できるようになりました。(敷金の継承をめぐってトラブルが発生するのを未然に回避しようとするためです。敷金が高額であることを装い執行妨害になるものもあつたからです。)
 本肢は,改正前の記述であり,誤りの記述です。

 賃借権の設定又は賃借物の転貸の登記を申請する場合に於ては申請書に借賃を記載し若し登記原因に建物所有の目的存続期間若くは借賃の支払時期の定あるとき,賃借権の移転若くは賃借物の転貸を許したるとき若くは敷金あるとき又は借地借家法第22条〔定期借地権〕,第38条第1項〔定期建物賃貸借〕若くは第39条第1項〔取壊し予定の建物の賃貸借〕若くは高齢者の居住の安定確保に関する法律(平成13年法律第26号)第56条〔終身建物賃貸借 〕の定あるときは之を記載賃貸借を為す者が処分の能力若くは権限を有せざる者なるときは其旨を記載することを要す
(不動産登記法・第132条第1項前半)

●敷金と抵当権 ⇒ 抵当権者の同意の登記

 敷金が登記できるようになったことは,抵当権者に対抗できる賃貸借〔賃借権の登記をした上で抵当権者の同意の登記を得ているものや,抵当権設定登記の前に対抗要件を備えた賃貸借〕での敷金返還請求権を登記面で確保したものと言えます。⇒ 抵当権者の同意の登記がある賃貸借は,買受人に引き継がれ,敷金が登記されていれば,敷金の返還義務も承継される。

 ただし,抵当権者の同意の登記のある賃借権でも,敷金の増額変更は,その旨の変更登記がなされていても,利害関係人である抵当権者の承諾がない場合は,買受人などの新所有者には対抗できないと解されます。(賃借権の変更登記は,利害関係人の承諾があればもとの賃借権の登記に附記登記の方法で行う。承諾がなければ独立した主登記になり,敷金の増額変更はこのときの順位でしか効力を持たないことになる。)
〔不動産登記法・第56条第1項,民二・3817号・平成15年12月25日通達〕

2.「抵当権設定登記に後れ,かつ抵当権者の同意の登記がない場合の建物の賃借人は,前の建物所有者に敷金を交付して賃借権の登記で敷金の記載があれば,競売によって競落した買受人に敷金の返還を求めることができる。」▼不動産登記法,民法

【正解:×

◆抵当権の同意の登記がない場合,競売での買受人は敷金返還義務を負わない

 抵当権設定登記に後れ,かつ抵当権者の同意の登記がない場合の「建物の賃借人」は,仮に前の建物所有者に敷金を交付して敷金を登記してあったとしても,競売によって競落した買受人に敷金の返還を求めることはできません。なぜならば,抵当権者の同意の登記がない場合は,買受人は,原則として,前の建物所有者から賃貸人の地位を引き継ぐことはなく,賃借権は消滅しており,買受人から明渡し猶予期間〔買受のときから6ヵ月〕を与えられるだけだからです。(民法395条1項)

 この場合,買受人は敷金返還義務を負わないので,前の建物所有者に敷金の返還を求めることになります。したがって,本肢は誤りの記述です。 

(賃借権の登記)敷金の登記がある場合

 抵当権者の同意の登記がある  賃貸人の地位は買受人が引き継ぐ。
 競売の買受人は敷金返還義務を負う。
 抵当権者の同意の登記がない  賃借権は消滅し,
 賃貸人の地位を買受人は引き継がない。
 競売の買受人は敷金返還義務を負わない。

明渡し猶予制度が適用されるものとして,イメージしやすいのは,(サブリースではない)通常の貸家・賃貸アパートなどです。もともと賃貸アパートでは一つ一つの部屋を区分登記でもしていないかぎり,一室に賃借権の登記はできませんし,また通常の貸家で賃借権の登記はまずされていないというのが現状だからです。

明渡しを猶予されているといっても,買受人に建物の使用の対価を支払う義務があり,買受人から相当の期間を定めて1ヵ月以上の使用の対価の支払いを催告されたのにもかかわらず,その期間内に支払わないときは明渡し猶予を受けられなくなることに注意。この場合,買受け後は賃借権は消滅しており,買受け前の賃借人は占有者という位置付けになるからです。(民法395条2項)

●関連問題

.「抵当権設定登記に後れ,かつ抵当権者の同意の登記がない場合の建物の賃借人は,担保不動産競売での買受から6ヵ月の明渡し猶予を与えられているが,明渡しまでの対価を,競売によって競落した買受人に支払わなければならない。この場合,前の建物所有者に敷金を交付して賃借権の登記で敷金の記載があれば,買受人への対価と敷金を相殺することができる。」▼不動産登記法,民法

【正解:×

 抵当権の同意の登記のない賃借人の場合,賃借権の登記で敷金が登記してあっても,敷金は買受人には承継されません。抵当権設定後に建物賃借人となった者(抵当権者の同意の登記により対抗力を付与された者等を除く。)は,買受人に対抗できないため,買受人に敷金返還の請求をすることはできず,敷金で対価を相殺することはできません。

3.「根抵当権者の請求により根抵当権の担保すべき元本が確定したときは,根抵当権者は,その請求がなされたことを証する書面を添附して,単独でその確定の登記を申請することができる。」▼不動産登記法

【正解:

◆根抵当権の元本確定登記

 民法の改正により,根抵当権者は,元本確定期日の定めがある場合を除きいつでも元本確定請求ができるようになりました。また,根抵当権者が元本確定請求をした場合は,その請求のときに,元本が確定することとされています。(民法398条の19第2項)

 しかし,根抵当権者の請求で元本を確定させることができるようになったといっても,不動産登記法が従来のままだと,確定の登記は共同申請が原則であり,根抵当権設定者が協力しなければ,登記することができません。

 このような事情から,不動産登記法では,根抵当権者による元本確定請求の制度に実効性をもたせるため,元本確定請求がなされたことを証する書面を添付することによって,根抵当権者が単独で確定登記の申請ができることにしました。(不動産登記法119条の9)

元本確定のメリット−債権譲渡

 元本確定前は,被担保債権の範囲に属する債権が移転しても,根抵当権は移転しません。(民法398条の7第1項前半)〔⇒確定前は,根抵当権には債権との随伴性がない。〕

 根抵当権者が債権譲渡しようとするときには,担保権の裏づけのない債権を譲り受ける人は余りいないはずですから,元本が確定している必要があります。根抵当権者から確定請求するメリットはここにあるわけです。

【根抵当権の元本確定の登記の記載例】

   【乙   区】  (所有権以外の権利に関する事項)
【順位番号】 【登記の目的】 【受付年月日・
受付番号】
【原因】 【権利者
その他の事項】

 

 

付記1号

 根抵当権設定  平成15年1月15日

 第△号

平成15年1月14日

設定

債権の範囲
極度額
債務者
根抵当権者
設定者
 1番根抵当権
 の元本確定
 平成16年5月14日
 第□号
平成16年5月14日
確定
   余白

 注意

 民法や不動産登記法の改正条項は,関連する知識と一緒に理解しないと,不完全消化となり覚えられません。これはビタミンC単独で摂取しても体が吸収しないのと同じです。


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