Brush Up! 権利の変動篇
契約総合の過去問アーカイブス 同時履行の抗弁権 平成15年
同時履行の関係に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,誤っているものはどれか。 (平成15年・問9) |
1.「動産売買契約における目的物引渡債務と代金支払債務とは,同時履行の関係に立つ。」 |
2.「目的物の引渡しを要する請負契約における目的物引渡債務と報酬支払債務とは,同時履行の関係に立つ。」 |
3.「貸金債務の弁済と当該債務の担保のために経由された抵当権設定登記の抹消登記手続とは,同時履行の関係に立つ。」 |
4.「売買契約が詐欺を理由として有効に取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は,同時履行の関係に立つ。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
▼双務契約では,同時履行の抗弁権が原則。(533条) 両債務が共に弁済期にあり,相手方が債務の履行や弁済の提供をしないで,履行の請求をしてきたとき,債務の履行を拒絶でき,弁済期を過ぎても履行遅滞にはなりません。 民法では、双務契約以外でも533条の準用で同時履行の抗弁権を条文や判例で認めているものがあります。 ・契約が無効や取り消しになったときの当事者の返還義務(最高裁・昭和28.6.16) |
1.「動産売買契約における目的物引渡債務と代金支払債務とは,同時履行の関係に立つ。」(関連出題・平成11年問8肢1,平成4年・問8肢4) |
【正解:○】 ◆売買契約 →双務契約には、同時履行の抗弁権がある。 買主の代金支払債務 ⇔ 売主の引渡し債務 この二つは同時履行の関係にあるので、買主が,代金支払債務の弁済期の到来後も,その履行の提供をしない場合,売主は,売買の目的物の引渡しを拒むことができる。 ●関連判例● |
2.「目的物の引渡しを要する請負契約における目的物引渡債務と報酬支払債務とは,同時履行の関係に立つ。」(出題歴・平成6年問8肢1,関連出題・平成11年問8肢3) |
【正解:○】 ◆請負報酬支払と仕事の目的物引渡は同時履行の関係にある 請負での目的物引渡し ⇔ 請負契約に係る報酬支払い 仕事の目的物の引渡しが必要な請負契約では,目的物の引渡しと報酬の支払いを同時履行の関係にあります。(633条本文) |
●条文チェック |
633条 〔請負報酬の支払時期〕
報酬は仕事の目的物の引渡と同時にこれを与うることを要す。 |
3.「貸金債務の弁済と当該債務の担保のために経由された抵当権設定登記の抹消登記手続とは,同時履行の関係に立つ。」(平成11年問8肢4) |
【正解:×】 ◆借主の弁済と貸主の抵当権抹消 (判例) 金銭の消費貸借契約では,借主の債務の弁済と貸主の抵当権抹消は同時履行の関係には立たず,借主が借金の返済をしなければ,貸主に対して,抵当権抹消を請求することはできません。(最高裁・昭和57.1.19) ▼抵当権の附従性により,被担保債務が弁済により消滅すれば,抵当権の効力も連動して消滅します。したがって,抵当権抹消登記の請求をしなくても,弁済の時点で,抵当権も消滅しているわけです。たとえ抵当権の登記が残っていたとしても、それは実体のない登記なので、抵当権設定者は第三者に抵当権の消滅を主張できます。(→昭和52年出題。)判例では,抵当権の消滅について登記は不要としているものもあります。(大審院・大正9.1.29) ▼平成11年問8肢4の出題と全く同じなので,平成11年の過去問を見ていた人は取れたはず。 |
4.「売買契約が詐欺を理由として有効に取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は,同時履行の関係に立つ。」 (関連出題・『解除での原状回復』平成11年問8肢2,『第三者の詐欺の取消での原状回復』平成4年・問8肢4) |
【正解:○】 ◆無効と取消での返還義務は同時履行の関係にある (判例) 法律行為(契約)が取り消されるとその効力は,遡及効により,初めから生じなかったものとみなされ(121条),履行されているものがあれば返還する義務が生じます。〔履行されていなければ履行の必要がなくなるだけです。〕 判例によれば,契約が無効や取り消しになったときの当事者の返還義務は同時履行の関係にあるとされています。(最高裁・昭和28.6.16) |