Brush Up! 権利の変動篇

担保物権の過去問アーカイブス 昭和52年

不動産質・留置権・不動産先取特権・抵当権の消滅と登記


担保物権に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和52年)

1.「不動産質権者は,別段の定めがないかぎり,被担保債権の利息を請求することはできない。」

2.「留置権を行使していれば,債権の消滅時効は成立しない。」

3.「不動産先取特権と抵当権の優劣は,常に登記の前後による。」

4.「被担保債権が弁済により消滅しても,抵当権の登記を抹消しなければ,抵当権設定者は,抵当権の消滅を第三者に対抗することができない。」

【正解】

× × ×
1.「不動産質権者は,別段の定めがないかぎり,被担保債権の利息を請求することはできない。」

【正解:

◆不動産質権

 不動産質は,別段の定めがなければ,被担保債権の利息を請求することができません。(358条)

 不動産質権には使用収益権があるため(356条)その見返りとして利息を請求することはできないことになっています。

 ただし,この規定は任意規定なので当事者間の特約で利息をつけることもできますが,その旨の登記をしておかないと第三者には対抗できません。

不動産質は現在はほとんど利用されていません。不動産質によって債権者が収益をあげるには相当なテマがかかることから,抵当権や譲渡担保などで債務者に使用収益させてそこから債務の返済をしてもらったほうが楽だからです。

●不動産質のまとめ

 不動産質権では,成立要件は引渡しですが,登記が対抗要件です。また,登記だけされていても引渡しがなければ質権は成立しません。(判例)

使用収益権・・・不動産質権者は質権の目的物である不動産の用方に従いその使用及び収益を為すことができる。(356条)⇔動産質との違い

動産質では,目的物の保存に必要な使用を除き,設定者の承諾がないと使用・収益することはできない。(298条2項) ←留置権と同じ。

管理費用等の負担・・・不動産質権者は管理の費用を払いその他不動産の負担に任ぜられる。(357条)

利息・・・不動産質権者はその債権の利息を請求することができない(358条)

任意規定・・・356条358条は設定行為に別段の定めがあるとき,または担保不動産収益執行の開始があるときはこれを適用しない。(359条)法改正

存続期間・・・存続期間は10年を超えることができない。もしこれより長い期間を設定したときはその期間は10年に短縮する。(360条1項)

 → この期間が過ぎれば不動産質権者は返還しなければなりません。(判例)

更新・・・更新することはできるが,その期間は10年を超えることができない。(360条2項)

優先弁済・・・不動産質権の実行方法は抵当権の規定が準用されます。(361条)競売が開始されると登記の先後により順位にしたがって配当を受けます。ただし,不動産質権〔使用収益しない特約のあるものを除く〕が第一順位の場合は,後順位債権者〔担保権者〕の競売があっても質権は消滅せず,買受人は質権の被担保債権を負担します。(民事執行法59条4項)

消滅事由・・・存続期間の経過・第三取得者の代価弁済(361条,377条)と消滅請求(361条,378条,577条)

被担保債権と質権・・・質権者が占有・留置している限り,被担保債権とは別に質権だけが消滅時効にかかることはありませんが,留置権同様に,目的物を留置しているだけでは,被担保債権の時効はストップせず,請求などをしなければ時間の経過により,消滅時効は進行していきます。(350条,300条)→被担保債権が時効により消滅すれば,担保物権の附従性により質権も消滅することになります。         

●不動産質権の法改正
 359条の改正により,以下の三つは,別段の定め以外に「目的不動産に担保不動産収益執行が開始された」ときにも適用されなくなりました。

 ・不動産質権者は用方に従い,使用収益できる。(356条)

 ・不動産質権者は管理費用を負担する。(357条)

 ・不動産質権者は利息をとることができない。(358条)

 担保不動産収益執行では,裁判所が選任した管理人が目的不動産を管理し,収取した収益・換価代金から必要費用を支払ってから配当等を実施することになっているためです。

2.「留置権を行使していれば,債権の消滅時効は成立しない。」

【正解:×

◆留置権と被担保債権の消滅時効

 × 留置権を行使していれば,債権の消滅時効は成立しない
                ‖
 × 留置権を行使していれば,債権の消滅時効は中断する
                ↓
  留置権を行使しているだけでは,債権の消滅時効は中断しない

 民法では,『留置権を行使していても債権の消滅時効の進行を妨げることにはならない』(民法・300条)としています。少しわかりにくい表現ですが,留置しているだけでは時効は中断しないということです。→この規定は質権にも準用されています。(民法350条)

 抵当権であれば,抵当権を行使する〔担保不動産競売など〕ということは被担保債権の行使にもなりますが,留置権の行使〔留置物の占有〕は被担保債権の行使にはなりません

 したがって,留置権の行使のほかに,請求などの消滅時効中断事由となるものをしないかぎり,消滅時効は中断しません。この結果,請求などをしないで被担保債権が時効により消滅すれば,担保物権の附従性により留置権も消滅することになります。

留置権の弱点

 留置権は,留置物の占有を失うと消滅します(民法302条)留置物の所有者について破産手続開始の決定があった場合も,商事留置権は別として,留置権は消滅するものとされています。(破産法・93条2項)

 また,留置権者は留置物を善良な管理者の注意をもって保管しなければなりませんが(民法・298条1項)留置権者は,保存に必要な範囲内の使用を除き,目的物を使用収益することはできません(350条,298条2項)⇔不動産質との違い

 これは,留置権そのものが,目的物の引渡しを拒絶して弁済期にある債権の回収のため〔代金などの支払いを促すため〕のものであるからです。

留置権と競売

 留置権者は留置権に基づき競売することができます。〔形式競売。ただし,第三者の所有物では競落代金から配当を受けることはできない〕(民事執行法・195条)

 しかし,留置権者は競売を申し立てることはできても,優先弁済権はありません。ただ,留置権者が競売を申し立てない限り,他の債権者による競売によって留置権が消滅することはありません。

 なぜかというと,例えば,留置物が不動産の場合は,競落人は留置権の被担保債権を弁済しなければいけません。(民事執行法・188条)のため,留置権者は競売がされても留置権の被担保債権の弁済があるまで目的物を留置することができることになります。〔動産では弁済がなければ強制執行や競売が事実上できない。〕

 このように,留置権は,優先弁済権はなくても目的物を占有していれば,優先弁済権があるのと同じくらいの効果があります。

3.「不動産先取特権と抵当権の優劣は,常に登記の前後による。」

【正解:×

◆不動産先取特権

 不動産先取特権とは,不動産保存の先取特権(民法326条)不動産工事の先取特権(民法327条)不動産売買の先取特権(民法328条),の三つです。(民法325条)

 担保物権の順位は原則として登記の先後によります。(不動産登記法6条1項)しかし、 不動産を目的とする担保物権の順位は、すべて登記の先後によるわけではありません

 不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権はこれより先に登記されていた抵当権に対しても優先します。(民法337条-不動産保存の先取特権の登記-、338条-不動産工事の先取特権の登記-、339条-先取特権は抵当権より優先される-)

不動産売買の先取特権では、登記の先後によることに注意してください。

4.「被担保債権が弁済により消滅しても,抵当権の登記を抹消しなければ,抵当権設定者は,抵当権の消滅を第三者に対抗することができない。」

【正解:×

◆被担保債権の弁済により、抵当権は消滅する(附従性)

 担保物権とは、本来、債権を担保するための手段であり、債権という主役の従たる存在です。このため、「被担保債権が存在しなければ担保物権も存在せず、被担保物権が消滅すれば担保物権も消滅する」と考えられています。このことを担保物権の附従性といいます。

 したがって、被担保債権が弁済によって消滅すれば、抵当権も附従性によって消滅し、たとえ抵当権の登記が残っていたとしても、それは実体のない登記なので、抵当権設定者は第三者に抵当権の消滅を主張できます。→関連出題・平成11年平成15年

判例では,抵当権の消滅について登記は不要としているものもあります。(大審院・大正9.1.29)

●参考問題
 抵当権者は,抵当不動産の占有を取得し,その不動産の用方に従った使用をし,収益を得ることができる。(昭和49年)

【正解:×

 『不動産の占有を取得し,その不動産の用方に従った使用をし,収益を得ることができる』のは,不動産質権者です。

 抵当権者と不動産質権者を混同している人に出題者が用意した落とし穴。間違ってもこんな問題に引っかかってはいけません。


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