Brush Up! 権利の変動篇

不動産登記 表示に関する登記のアウトライン   改正対応

建物の登記簿:表題部の記載事項


●メッセージ
 本節の問題は,全て宅建試験の過去問です。2・3は出題当時は「ここまで出さなくても」と言われましたが,すでに6年が経過し主要な基本書では掲載しています。再び出題されれば,もはや常識と推理力で解く問題ではなくなっていることに注意してください。

 基本書に掲載している『建物の登記簿の表題部』をよくご覧になって,イメージをアタマに焼き付けましょう。こまごまとした知識よりも全体像をつかむようにしてください。

●不動産登記法上の『1個の建物』
 不動産登記法では,『一筆の土地,一個の建物について一登記記録』としています。(不動産登記法2条5号)

 この『一個の建物』という用語は,不動産登記法ではさまざまな条文で出てきます。ここでは,各条文で『一個の建物』が出てきたときに思い浮かべるべきイメージ(意味)を分類してまとめておきましょう。

 原則 一棟の建物
 例外  主たる建物と附属建物という関係にある数棟の建物全体
〔数棟の建物でありながら全体で『一個の建物』。〕

 『一個の建物』とは,『独立した生活空間の単位』,取引される単位』としての意味合いがあります。

 このことはワカッている人には大したことではありませんが,『ナルホド!!』と納得される方もいらっしゃるでしょう。

●準則78条1項 〜建物の個数の基準〜
 効用上一体として利用される状況にある数棟の建物は,所有者の意思に反しない限り,一個の建物と扱うものとする。

 → 一登記記録に『主たる建物』と『その附属建物』として記録するということを意味する。

建物の表示の登記に関する次の記述は,不動産登記法などの規定によれば,○か,×か。

1.「建物の表示に関する登記において,建物の種類は,建物の主たる用途により,居宅,店舗,事務所等に区分して定められる。」

2.「建物は,必ずしも土地に定着していることを要しないので,容易に運搬することができる切符売場・入場券売場も,建物の表題登記をすることができる。」

3.「建築工事中の建物については,切組みを済ませ,降雨をしのぐことができる程度の屋根をふいたものであれば,周壁を有しなくても,建物の表題登記をすることができる。」

4.「一棟の建物を区分した建物以外の建物の床面積は,壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積により算出される。」

5.「建物の登記記録中,表題部には建物の評価額も登記される。」

【正解】

× × × ×

1.「建物の表示に関する登記において,建物の種類は,建物の主たる用途により,居宅,店舗,事務所等に区分して定められる。」(平成5年・問16・肢2)

【正解:

◆建物の種類の記載

 建物の種類は,建物の主たる用途により,以下のものに区分し,これらの区分に該当しない場合はこれに準じて適当に定めます。(登記規則113条)

居宅・店舗・事務所・料理店

・寄宿舎・共同住宅・旅館・

・倉庫・車庫

・工場・発電所・変電所

▼ヒッカケ対策

 建物の主たる用途が2以上のときは「居宅・店舗」,「居宅・共同住宅」のように記載されます。(準則80条2項)

●不動産登記事務取扱手続準則 80条 第1項 → 覚える必要はありません
登記規則113条に規定する区分に該当しない建物の種類は,その用途により,次のように区分して定めるものとし,なお,これにより難い場合には,建物の用途により適当に定めるものとする。

校舎,講堂,研究所,病院,診療所,集会所,公会堂,停車場,劇場,映画館,遊技場,競技場,野球場,競馬場,公衆浴場,火葬場,守衛所,茶室,温室,蚕室,物置,便所,鶏舎,酪農舎,給油所

≪例≫
・民宿建物,別荘は「居宅」とする。
・画廊,自動車等の展示場は「店舗」とする。
・カラオケハウスは「遊技場」とする。

2.「建物は,必ずしも土地に定着していることを要しないので,容易に運搬することができる切符売場・入場券売場も,建物の表題登記をすることができる。」(平成11年・問12・肢3)

【正解:×

◆建物の認定−土地への継続かつ長期間の定着

 建物の定義は民法では規定されていませんが,登記実務上は「屋根及び周壁またはこれに類するものを有し,土地に定着した建造物であって,その目的とする用途に供しうる状態にあるもの」とされています。(準則111条)

●登記の対象となる建物と認定される要件 → 覚える必要はありません

 継続かつ相当の長期間土地に定着外気分断性用途性構築性取引性など

・材料を使用して人工的に建てられたもの(構築性)

・土地に定着し,容易に移動することができないもの(定着性

・屋根及び周壁等によって外気を遮断できる構造をもっているもの(外気分断性)

・使用目的にかなう設備等を備えていること(用途性)

 登記法上の建物として認定されるには いくつかの要件を同時に満たしている必要があります。その一つに「永続的に土地に定着していること」(=物理的に土地に固着していること)があります。

 このため以下のものは建物として登記できません

 ・容易に運搬できるもの・・・容易に運搬できる切符売場・浮船を利用したもの

 ・アーケード付街路(公衆用道路上に屋根覆いを施した部分)

 ・ガスタンク,石油タンク,給水タンク。

 ・機械上に建設した建造物。ただし,地上に基脚を有し,又は支柱を施したものを除く。

 したがって,本肢は×になります。

▼余談・土地の定着物

 「土地の定着物」という概念には,建物の他に多くの物を含んでいます。例えば 立木や石油タンク,ガスタンクや給水タンクも土地に定着していますが,登記法上の建物ではありません。

●建築基準法の『建築物』の定義
 建築物とは,土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの,これに附属する門若しくは塀,観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所,店舗,興業場,倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の路線敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋,プラットホームの上家,貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい,建築設備を含むものとする。(建築基準法第2条1号)

 → 似ているようでも,建築基準法の「建築物」の定義は,不動産登記の「建物」よりも広い概念であることがわかります。例えば,「屋根及び柱若しくは壁を有するものに附属する門若しくは塀」は建築基準法上では「建築物」ですが,不動産登記法上では「建物」ではありません。

 → 民法の場合は,「土地の定著物」(66),「建物」(370,635),「土地の工作物」(635,637,717)などが条文上記載されていますが,建物について具体的な定義はされていません。

3.「建築工事中の建物については,切組みを済ませ,降雨をしのぐことができる程度の屋根をふいたものであれば,周壁を有しなくても,建物の表題登記をすることができる。」(平成11年・問12・肢4)

【正解:×

◆建物の認定−外気分断性

 建物として登記するには,屋根周壁により周囲から遮断されていることが必要です。 しかし,建築途中のものでは,どの段階から建物と言えるのかは微妙です。

 判例では,屋根や周壁を有し土地に定着して一個の建造物として存在するといえる程度のものであれば,登記をすることができるとしています。(大審院・昭和10.10.1)

 本肢では,『周壁を有しなくても,建物の表示の登記をすることができる』としているので×になります。

●登記実務上建物とされているもの → 覚える必要はありません

 屋根,周壁にガラス板を用いた温床施設・屋根を有する野球場の観覧席・

 地下街に設けられた建造物・ガード下を利用して築造された建造物

〔屋根,周壁がビニールで覆われている建造物は耐久性に欠けるので外気分断性はなく,建物とは認められない。(昭和36.11.16・法務省民事局長回答・2868号)

●不動産登記事務取扱手続準則 77条 建物認定の基準
登記規則111条 建物は,屋根及び周壁又はこれに類するものを有し,土地に定着した建造物であって,その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない。

準則77条 建物の認定にあたっては,次の例示から類推し,その利用状況等を勘案して判定しなければならない。

(1) 建物として取り扱うもの

ア 停車場の乗降場及び荷物積卸場,ただし,上屋を有する部分に限る。
イ 野球場,競馬場の観覧席,ただし,屋根を有する部分に限る。
ウ ガード下を利用して築造した店舗,倉庫等の建造物
エ 地下停車場,地下駐車場及び地下街の建造物
オ 園芸,農耕用の温床施設,ただし,半永久的な建造物と認められるものに限る。

(2) 建物として取り扱わないもの

ア ガスタンク,石油タンク,給水タンク
イ 機械上に建設した建造物,ただし,地上に基脚を有し,又は支柱を施したものを除く。
ウ 浮船を利用したもの,ただし,固定しているものを除く。
エ アーケード付街路(公衆用道路上に屋根覆を施した部分)
オ 容易に運搬し得る切符売場,入場券売場等

4.「一棟の建物を区分した建物以外の建物の床面積は,壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積により算出される。」(平成3年・問16・肢2)

【正解:×

◆床面積の算出方法

<一棟の建物を区分した建物以外の建物>の床面積は,中心線で囲まれた部分で算出するので誤り。

 ―*―−―*―−―*―−―*―−

 建物の登記記録の表題部では,区分建物以外の建物の床面積は,各階ごとに(地階も含むことに注意),壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積により,平方メートルを単位として定め,1平方メートルの百分の一未満の端数は切り捨てます。〔壁芯で計算〕(登記規則・115条)

▼区分建物(専有部分)での床面積の算出方法

 一棟の建物を区分した建物(専有部分)の床面積は,壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積により算出されます(登記規則・115条)

●類題

「表題部に記載する床面積は,屋内の階段室やエレベーター室は各階の床面積に算入するが,建物に附属する屋外の階段は床面積には算入しない。」

【正解:

 建物に附属する屋外の階段,ベランダ部分や吹き抜け部分は建造物の一部ではあっても周壁がなく外気分断性がないので床面積には算入しません。

5.「建物の登記記録中,表題部には建物の評価額も登記される。」(昭和61年・問15・肢2)

【正解:×】類題・昭和57年・問15

◆建物の表題部の記載事項

 建物の登記記録の表題部には建物の評価額は記載されません(類・昭和57年)

 建物の登記記録の表題部には,以下のものが記載されています(不動産登記法・27条,44条)

不動産番号

建物の所在地番 (郡,市,区,町,村,字,地番) 原則として都道府県は不要。

家屋番号 (地番家屋番号登記所が決めます)

建物の種類 (主たる用途により区分される)

建物の構造 (構成材料・屋根の種類階数)

建物の床面積 (各階ごと。地階も記載します。)

建物の名称があるときはその名称 (家屋番号とは違い建物の所有者が利用上建物の特定のため定めたときに登記事項として申請できます。)

附属建物があるときはその符号・種類・構造・床面積

登記原因及びその日付

登記の日付

所有権の登記がない場合(所有権保存登記または所有権移転の登記がない)
 には所有者の氏名・住所 (共有のときはその持分)

 → 所有権保存登記がされると表題部所有者の登記事項は、職権で登記官によって抹消する記号が記録されます。

 → 逆にいえば、表題部に所有者が抹消されないで記載されているということは、まだ所有権保存の登記がされていないことを意味します。

不動産番号 (登記規則90条)

 登記官は,(法27条4号の)不動産を識別するために必要な事項として,一筆の土地又は一個の建物ごとに番号,記号その他の符号を記録することができる。

 ⇒ 電子申請の指定庁とは関係なく,準備の調った登記所から導入されていきます。

■表示の登記の記載例

【表題部】(主たる建物の表示)  調整 平成14年4月4日  所在図番号  余白
【不動産番号】    
【所在】 港区赤坂13丁目1番地4   余白
【家屋番号】 港区赤坂13丁目1番4   余白
【1種類】 【2構造】 【3床面積】平方メートル 【原因及び日付】 【登記の日付】
居宅 木造瓦葺
二階建
  1階     108
  2階      68
23
51
平成14年3月9日
新築
平成14年4月4日

●建物の表題部の変更登記
 以下のものに変更があったときは,表題部所有者または所有権の登記名義人1ヵ月以内に建物の表題部の変更の登記を申請しなければなりません。

 建物の所在種類・構造及び床面積,建物の名称,附属建物の種類・構造及び床面積

(法51条,44条)

表示の登記のトップに戻る

不動産登記のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動に戻る