Brush Up! 権利の変動篇
不動産登記 所有権保存登記−申請適格者と手続 改正対応
●メッセージ |
このセクションは危険ゾーンです。所有権保存登記については出題歴がありますが徐々に出題される幅が広がっています。 申請適格者・添付情報に注意してください。 |
所有権保存登記に関する次の記述は,○か,×か。 |
1.「表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人は,不動産の保存の登記を申請することができる。」 |
2.「建物を新築した場合,当該建物の所有者は,新築工事が完了したときから1ヵ月以内に,建物の所有権の保存の登記を申請しなければならない。」 |
3.「表題部所有者であっても,所有権を第三者に譲渡した後は所有権保存の登記を申請することができない。」 |
4.「土地の表題部にAが所有者として記録されている場合に,Bがその土地を買い受けたときは,Bは,売買契約書を申請情報と併せて提供すれば,直接B名義の所有権保存の登記を申請することができる。」 |
5.「土地の登記記録の表題部に被相続人が所有者として記録されている場合において,その相続人が複数あるときは,共同相続人の1人は,自己の持分についてのみ所有権保存の登記を申請することができる。」 |
6.「所有権保存登記の抹消をその所有権の登記名義人が申請する場合には,申請情報と併せて,登記識別情報を提供しなければならない。」 |
7.「借地権者がその借地上に建てた建物の保存登記は,その建物の所有者たる借地権者の単独申請によりすることができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
○ | × | × | × | × | ○ | ○ |
【関連項目】 表題部の所有者 (関連問題) 申請適格者・相続と所有権保存
●定義 (不動産登記法・2条10号〜13号) |
■表題部所有者 所有権の登記がない不動産の登記記録の表題部に、所有者として記録されている者をいう。 ■登記名義人 登記記録の権利部に、次条各号に掲げる権利について権利者として記録されている者をいう。 ■登記権利者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者をいい、間接に利益を受ける者を除く。 ■登記義務者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人をいい、間接に不利益を受ける登記名義人を除く。 |
●所有権保存の登記とは |
●表題部だけがあってまだ権利に関する登記がなされていない土地や建物について初めてなされる権利に関する登記が所有権保存の登記です。
この所有権保存の登記がなければ,所有権移転登記も抵当権の設定登記もできないので,所有権保存の登記は,権利に関する登記の前提となるものでありその出発点です。 ●しかし,この所有権保存の登記は表題登記と違って義務化されてはいないので,登記簿が表題部だけのままになっているケースがかなりあります。(表題部所有者が曽祖父の名義になっているなど。) ●所有権の登記がない建物(保存登記も移転登記もされていない建物)では,表題部所有者が記録されていますが,所有権保存登記がなされると,表題部所有者に関する登記事項を抹消する記号を記録しなければなりません。(不動産登記規則・158条) |
●所有権保存登記 |
・申請による保存登記
(74条)
(系) 表題登記のない不動産についての所有権保存登記の申請 (75条) ・登記官の職権による保存登記・・・ 表題登記や所有権の登記のない不動産について |
1.「表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人は,不動産の保存の登記を申請することができる。」 |
【正解:○】 ◆申請適格者 所有権保存の登記は,登記義務者が存在しないため,単独申請です。(権利に関する登記では,真正を担保するため共同申請が原則ですが,保存登記はその共同申請の例外です。) その代わり,所有権保存の登記の申請適格者は限定されており,申請書には,不動産登記法の第何条によって申請するのか根拠条文を記載します。つまり,それだけ申請適格については注意が払われています。(申請書で根拠条文を書くというのはほかの登記申請にはありません。) 保存登記は権利に関する登記のスタートラインなので,所有権の初めの登記に誤りがあればドミノのようにその後の登記の信憑性が崩れてしまうからです。 (そのため申請書の不動産の表示が表題部の記載と異なっていた場合は却下され,登記記録を現況に合致させるために,原則として,表題部についての変更登記や更正登記をしてから,所有権保存の登記を申請することになっています。)
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●表題登記のない不動産についての所有権保存の登記 75条 |
表題登記のない不動産について,所有権保存登記の申請をすることができる場合があります。以下のものから申請する場合です。
・所有権を有することが確定判決によって確認された者(法74条1項2号) ・収用によって所有権を取得した者(法74条1項3号) 登記官は,これらの者からの申請で所有権保存登記をするときは,その不動産についての表示のうち法務省令で定めるものを登記することになっています。 ⇒ 表示に関する登記を登記官がしてくれる。 |
●類題 |
1.「登記簿の表題部に所有者として記載されたAが死亡してBが相続した後,更にBが死亡した場合にBの相続人であるCは,C名義の所有権の保存登記を申請することができる。」(司法書士・平成7年) |
【正解:○】
本肢のように,表題部所有者が祖父で,何世代か離れている場合でも,法74条1項1号後段によって,現在の相続人C名義の所有権の保存登記を申請することができます。 また,この間のAからCまでの中間にあった相続は必ずしも単独相続でなくてもよいとされています。(登記研究407号) |
2.「所有権の保存の登記の申請は,原則として,表題部所有者又はその一般承継人によってするものとされている。」(土地家屋調査士・昭和43年) |
【正解:○】 一般承継人とは,『相続人』と法人ならば『合併によって権利義務の一切を承継する法人』(新設会社・存続会社)を意味します。このどちらも所有権の保存の登記を申請できます。 |
●登記識別情報の交付−所有権保存登記− |
申請人自らが登記名義人となる場合に,登記が完了したときに,申請者に通知される。
(当該申請人があらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をした場合その他の法務省令で定める場合は通知されない。) |
2.「建物を新築した場合,当該建物の所有者は,新築工事が完了したときから1ヵ月以内に,建物の所有権の保存の登記を申請しなければならない。」(宅建・平成9年・問14・肢1) |
【正解:×】 ◆所有権保存の登記には義務規定がない 建物の表題登記は,新築工事が完了してから1ヵ月以内に,申請しなければいけませんが(不動産登記法・47条1項),所有権保存の登記にはこのような義務規定がないので×です。 |
3.「表題部に所有者として記載された者であっても,所有権を第三者に譲渡した後は所有権保存の登記を申請することができない。」(土地家屋調査士・平成6年) |
【正解:×】 ◆譲渡した後の所有権保存の登記 所有権を第三者に譲渡した後の処理として,通常は,表題部所有者が,所有権保存の登記をして転得者に所有権移転の登記をします。 したがって,所有権を第三者に譲渡した後でも,表題部所有者は,所有権保存の登記を申請することができます。 |
4.「土地の表題部にAが所有者として記載されている場合に,Bがその土地を買い受けたときは,Bは,売買契約書を申請書に添付すれば,直接B名義の所有権保存の登記を申請することができる。」(宅建・平成6年・問16・肢2) |
【正解:×】 ◆表題部所有者から買い受けた場合 A (売主,表題部所有者)―――B (買主) このような場合は,原則として,譲渡人Aの名義で保存登記をしてその後にBへの所有権移転の登記をします。 ▼もしも,譲渡人Aが登記に協力してくれない場合は,Bは,その所有権が自己にあることを確定判決によって確認されたうえで,直接B名義の所有権保存の登記を申請することができます。(法74条1項2号) ←平成12年出題 ▼本肢は,区分建物の所有権保存と混同している受験者を落とし穴に入れることを狙った問題です。→平成12年・問14
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●類題 |
1.「表題部に所有者として記載されている者からその不動産を買い受けた者は,所有権を証する書面を添付して自己名義に所有権保存の登記を申請することができる。」(司法書士・昭和53年) |
【正解:×】 上の問題と全く同一の出題。 |
2.「表題部所有者であるAはその不動産をBに売り渡したが,その登記をしないうちに死亡した。この場合,Aの相続人CはA名義の所有権保存登記の申請をすることができる」(司法書士・昭和63年) |
【正解:○】
被相続人Aが所有権の保存登記をしないまま死亡したとき, 所有権の保存登記は,被相続人Aの名義(法42条)でも,また相続人Cの名義(法100条1項1号後段)でも,どちらででも登記申請できるとされています。(昭和39.9.18民甲232号回答) A (売主)―――B (買主) 本肢では,Aは生前Bに譲渡していたため,Cはその不動産を相続したのではなく,単にAの地位(Bへの引渡しの債務)を承継していると考えられるため,被相続人Aの名義で所有権の保存登記をすべきとされています。(通説,昭和32.10.18民甲1953号回答) Cは,まず被相続人Aの名義で所有権の保存登記をして,その後Bへの所有権移転登記をすることになります。 ▼もし相続人Cが登記に協力しない場合には,Bは,建物の所有権が自己にあることを判決(給付判決だけではなく,確認判決でもよいとされる)によって証明し,当該建物の所有権保存の登記を申請することになります。 |
●表題部に被相続人が所有者として記載されているとき |
所有権の保存登記は,被相続人Aの名義(法62条)でも,また相続人Cの名義(法74条1項1号後段)でも,どちらででも登記申請できる。(昭和39.9.18民甲232号回答) |
5.「土地の登記簿の表題部に被相続人が所有者として記載されている場合において,その相続人が複数あるときは,共同相続人の1人は,自己の持分についてのみ所有権保存の登記を申請することができる。」(宅建・平成12年・問14・肢2) |
【正解:×】 ◆共同相続人の1人からの申請 登記簿の表題部に被相続人が所有者として記載されているということは,まだ所有権保存登記がなされていないわけですが,相続人が複数あるときに,共同相続人はどのように所有権保存登記をするのでしょうか?(上の1で見たように相続人は自らの名義で所有権保存登記ができます。) 実は,これには先例があります。
▼共有者の一人から申請できる登記についてもまとめておきましょう。 |
●類題 |
1.「表題部に共有者として記載されているAは自己の持分のみの所有権保存登記を申請することができる。」(司法書士・平成11年) |
【正解:×】明治32.8.8民刑1311号民刑局長回答 |
2.「表題部に所有者として記載された者が死亡し,共同相続があった場合,各共同相続人が各別に自己の持分のみにつき保存登記を申請することはできない。」(司法書士・昭和60年) |
【正解:○】 |
●共有者の1人が登記申請できるもの |
1.「共有名義の土地の地目変更の登記は,共有者全員で申請しなければならない。」(宅建・平成8年・問15・肢2)【正解:×】 |
2.「表題部所有者の持分の更正の登記は,申請書に持分を更正すべき他の共有者の承諾書を添付して,共有者の1人から申請することができる。」【正解:○】 |
6.「所有権保存登記の抹消をその所有権の登記名義人が申請する場合には,申請情報と併せて,登記識別情報を提供しなければならない。」(宅建・平成10年・問14) |
【正解:○】 ◆所有権保存登記の抹消 登記された不動産が存在しない場合や所有権の登記名義人が実体とは異なるなどの場合は所有権保存登記の抹消を申請or嘱託することになります。 所有権の登記の抹消は,申請の場合は,所有権の登記名義人が単独でしますが,そのときには登記識別情報(登記令・8条1項5号)と印鑑証明書(細則42条)を添付します。 ▼所有権保存登記を抹消したときの登記用紙の処理 〔所有権保存の登記をした時点で表題部の所有者は朱抹されており,所有権保存の登記を抹消してしまうと所有者のいない登記簿になってしまうため。〕 しかし,相続人が所有権保存登記をしてその抹消を申請した場合などでは,表題部の所有者の記載を回復します。(昭和59.2.25民三1085号通達) |
7.「借地権者がその借地上に建てた建物の保存登記は,その建物の所有者たる借地権者の単独申請によりすることができる。」(宅建・昭和45年) |
【正解:○】 ◆借地権者の所有権保存登記 建物を新築したときには建物の所有者は,1ヵ月以内に建物の表示の登記を申請しなければならず,表題部で所有者として記載されている者は単独で所有権保存登記をすることができます。このことは借地上の建物でも変わりません。 ▼この問題は地主と絡めて考えると落とし穴に陥ります。 |