Brush Up! 権利の変動篇
時効の過去問アーカイブス 取得時効 平成16年・問5
A所有の土地の占有者がAからB,BからCと移った場合のCの取得時効に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。 (平成16年・問5) |
1.「Bが平穏・公然・善意・無過失に所有の意思をもって8年間占有し,CがBから土地の譲渡を受けて2年間占有した場合,当該土地の真の所有者はBではなかったとCが知っていたとしても,Cは10年の取得時効を主張できる。」 |
2.「Bが所有の意思をもって5年間占有し,CがBから土地の譲渡を受けて平穏・公然に5年間占有した場合,Cが占有の開始時に善意・無過失であれば,Bの占有に瑕疵があるかどうかにかかわらず,Cは10年の取得時効を主張できる。」 |
3.「Aから土地を借りていたBが死亡し,借地であることを知らない相続人Cがその土地を相続により取得したと考えて利用していたとしても,CはBの借地人の地位を相続するだけなので,土地の所有権を時効で取得することはない。」 |
4.「Cが期間を定めずBから土地を借りて利用していた場合,Cの占有が20年を超えれば,Cは20年の取得時効を主張することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
●取得時効の過去問 |
平成4年・問4 昭和62年・問8 平成10年・問2 このほかに,下記の出題があります。
・時効成立後の対抗問題 平成7年・問2・肢4,平成9年・問6・肢4,平成13年・問5・肢4 ・地上権と取得時効 昭和56年・問4・肢4,昭和59年・問3・肢1, ・地役権と取得時効 昭和61年・問11・肢3, |
1.「Bが平穏・公然・善意・無過失に所有の意思をもって8年間占有し,CがBから土地の譲渡を受けて2年間占有した場合,当該土地の真の所有者はBではなかったとCが知っていたとしても,Cは10年の取得時効を主張できる。」 |
【正解:○】初出題 ◆占有の承継,善意・無過失の存否は前主の占有開始時点で判断する Bは善意無過失で占有を開始
占有者の承継人は前主の占有も併せて主張できますが(187条1項),判例では,占有に承継があった場合,占有者の善意・無過失の存否は前主の占有開始時点で判断するとしています。(187条2項,最高裁・昭和53.3.6) したがって,前主が占有開始時点で善意・無過失ならば,承継人の善意・悪意を問わず,前主の占有開始から10年の取得時効を主張できます。 ▼187条2項では,『前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。』となっています。判例では,187条2項を,<瑕疵があったこと,瑕疵がなかったことも承継する>趣旨であると解しています。 |
2.「Bが所有の意思をもって5年間占有し,CがBから土地の譲渡を受けて平穏・公然に5年間占有した場合,Cが占有の開始時に善意・無過失であれば,Bの占有に瑕疵があるかどうかにかかわらず,Cは10年の取得時効を主張できる。」 |
【正解:×】平成10年・問2・肢1, ◆占有の承継,善意・無過失の存否は前主の占有開始時点で判断する Cは善意無過失で占有を開始したが,前主の善意・悪意が不明。
Cが占有の開始時に善意・無過失であっても,Cの前の占有者であるBの善意・悪意が不明なので,この問題文のみでは,<Cが10年の取得時効を主張できるかどうか>は判断できません。 なぜならば,Cが前主Bの占有も併せて主張する場合には,前主Bの瑕疵も承継するので,前主Bが占有開始時点で善意・無過失ならば前主Bの占有開始から10年の取得時効を主張できますが,前主Bが占有開始時点で悪意or有過失ならば前主Bの占有開始から20年を経過しないと取得時効を主張できないからです。 したがって,<Cが占有の開始時に善意・無過失であれば,Bの占有に瑕疵があるかどうかにかかわらず,Cは10年の取得時効を主張できる>とする本肢は誤りになります。 |
3.「Aから土地を借りていたBが死亡し,借地であることを知らない相続人Cがその土地を相続により取得したと考えて利用していたとしても,CはBの借地人の地位を相続するだけなので,土地の所有権を時効で取得することはない。」 |
【正解:×】初出題 ◆新権原による他主占有から自主占有への転換 賃貸借契約による占有は他主占有〔所有の意思のない占有〕なので,いくら占有を継続しても所有権を時効取得することはありません。
しかし,占有の性質が他主占有から自主占有に変更になった場合は,所有権を時効取得することがありえます。
この(2)については,判例により,相続も新権原になるとされ, 賃借人Bが死亡して,その相続人Cが占有を承継しただけでなく,相続財産として新たに事実上支配することにより占有を開始して所有の意思があると認められる場合には,占有の性質が変更されたとして,新権原による自主占有と認めうる,とされています。(最高裁・昭和46.11.30)〔この場合のCの占有に所有の意思があることの立証責任はCにあるとされる。(最高裁・平成8.11.12)〕 したがって,借地であることを知らない相続人Cがその土地を相続により取得したと考えて利用していた場合に,Cの占有が自主占有であるとしてその土地の所有権を時効により取得することがありえるので,<CはBの借地人の地位を相続するだけなので,土地の所有権を時効で取得することはない>とする本肢は誤りです。 |
4.「Cが期間を定めずBから土地を借りて利用していた場合,Cの占有が20年を超えれば,Cは20年の取得時効を主張することができる。」 |
【正解:×】昭和62年・問8・肢2,平成4年・問4・肢4, ◆賃借人は,所有権を時効取得することはない 所有権(*)の時効取得が認められるためには,所有の意思をもった占有〔自主占有〕でなければいけません。 CがBから土地を借りて利用していた場合,Cは賃貸者契約により土地の利用権を認められているに過ぎず,Cの占有は所有の意思のない占有〔他主占有〕なので,賃貸借契約による占有は所有の意思のない占有〔他主占有〕なので,自主占有に変更して〔以後その土地を自分の所有地として占有する旨をBに明示するか,新権原により所有の意思をもって占有を開始すること〕占有を継続しない限り,土地の所有権を時効取得することはありません。(162条,他主占有から自主占有への転換・185条) ▼本肢では,何の時効取得なのか明示されていませんが,肢1〜肢3が所有権の時効取得であることから,所有権の時効取得についての問題と推測されます。 |