Brush Up! 権利の変動篇
行為能力と意思能力の過去問アーカイブス 平成17年・問1
行為能力・意思能力・権利能力・成年擬制
自己所有の土地を売却するAの売買契約の相手方に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか 。(平成17年・問1) |
1.「買主Bが被保佐人であり、保佐人の同意を得ずにAとの間で売買契約を締結した場合、当該売買契約は当初から無効である。」 |
2.「買主Cが意思無能力者であった場合、Cは、Aとの間で締結した売買契約を取り消せば、当該契約を無効にできる。」 |
3.「買主である団体Dが法律の規定に基づかずに成立した権利能力を有しない任意の団体であった場合、DがAとの間で売買契約を締結しても、当該土地の所有権はDに帰属しない。」 |
4.「買主Eが婚姻している未成年者であり、当該婚姻がEの父母の一方の同意を得られないままになされたものである場合には、Eは未成年者であることを理由に当該売買契約を取り消すことができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
正答率 | 33.3% |
1.「買主Bが被保佐人であり、保佐人の同意を得ずにAとの間で売買契約を締結した場合、当該売買契約は当初から無効である。」 |
【正解:×】 被保佐人が,保佐人の同意が必要な契約なのに,保佐人の同意を得ないで契約を締結したときは,被保佐人は取り消すことができる(民法13条4項)。 当初から無効ではないので本肢は誤りである。 |
2.「買主Cが意思無能力者であった場合、Cは、Aとの間で締結した売買契約を取り消せば、当該契約を無効にできる。」 |
【正解:×】 意思能力を欠く者の意思表示は無効とされる(判例)。 意思無能力者が締結した契約は,意思無能力者側で意思無能力を立証すれば,無効を主張できる(判例)。 意思無能力者が締結した契約は,取り消して無効になるのではなく,当初から無効なのであるから,本肢は誤りである。 |
3.「買主である団体Dが法律の規定に基づかずに成立した権利能力を有しない任意の団体であった場合、DがAとの間で売買契約を締結しても、当該土地の所有権はDに帰属しない。」 |
【正解:○】 権利能力〔権利・義務の主体となる能力〕は自然人と法人がもつことができる。 自然人以外で登記名義人になることができる(土地の所有権が帰属する)のは法律の規定による法人〔公益法人・営利法人・中間法人法による法人・特別法による法人〕である(民法33条)。法律の規定に基づかずに成立した任意団体は登記名義人になることができない。 ▼この土地の所有権は任意団体を構成する全員の総有として帰属することになる。(各構成員は,持分を持たず,分割請求権も持たない。)任意団体の代表者の個人名義(代表者という肩書きはつけないで登記),または任意団体を構成する全員の共有名義で登記することになる。 【注意】権利能力のない団体(権利能力なき社団) でも,訴訟の当事者〔原告・被告〕となることはできる。 |
●権利能力・意思能力・行為能力 | ||||||
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4.「買主Eが婚姻している未成年者であり、当該婚姻がEの父母の一方の同意を得られないままになされたものである場合には、Eは未成年者であることを理由に当該売買契約を取り消すことができる。」 |
【正解:×】 婚姻している未成年者は成年と扱われるので(民法753条),婚姻している未成年者は,未成年者であることを理由に当該売買契約を取り消すことはできない。したがって,本肢は誤り。 ▼父母の一方の同意がなくても他の一方が同意すればよい(民法737条2項)。なお,父母双方の同意がなくても,婚姻の届出が受理されれば,婚姻を取り消すことはできなくなる(判例)。 〔出題歴〕未成年者の婚姻には父母の同意が必要。平成11年問1肢2 1000本ノック : 成年擬制 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/seigen-ans2.html |
●講評 |
肢1・肢2が誤りであることはすぐわかる。肢3・肢4とも初出題であり,肢4の婚姻している者の未成年者は成年とみなすことがわかれば,肢3の正解肢を選ぶことができる。 ただし,父母の一方の同意があれば他方の同意がなくてもよいというのは大半の受験者には未知の知識だったと思われるが,1000本ノックでは解説していたので,1000本ノックの解説を見ていた人はさほど迷わなかったものと思われる。 |