Brush Up! 権利の変動篇
担保物権の過去問アーカイブス 平成17年・問5 物上代位性
物上代位に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、物上代位を行う担保権者は、物上代位の対象となる目的物について、その払渡し又は引渡しの前に他の債権者よりも先に差し押さえるものとする。(平成17年・問5) |
1.「不動産の売買により生じた債権を有する者は先取特権を有し、当該不動産が賃借されている場合には、賃料に物上代位することができる。」 |
2.「抵当権者は、抵当権を設定している不動産が賃借されている場合には、賃料に物上代位することができる。」 |
3.「抵当権者は、抵当権を設定している建物が火災により焼失した場合、当該建物に火災保険が付されていれば、火災保険金に物上代位することができる。」 |
4.「不動産に留置権を有する者は、目的物が金銭債権に転じた場合には、当該金銭に物上代位することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
正答率 | 50.2% |
1.「不動産の売買により生じた債権を有する者は先取特権を有し、当該不動産が賃借されている場合には、賃料に物上代位することができる。」 |
【正解:○】 債務者の有する特定の不動産を目的物とする先取特権を不動産先取特権といい,生じる原因によって区別され,不動産の保存・不動産の工事・不動産の売買によって生ずる三つがある。(不動産賃貸の先取特権は動産上の先取特権であることに注意。)本肢での先取特権は不動産売買の先取特権のことである。 不動産の売主は不動産の代価や利息について売買の目的物である不動産の上に先取特権を有し,当該不動産が賃貸されれば賃料の請求権に物上代位することができる(民法304条)。 ▼債務者の財産全体を目的物とする先取特権を一般先取特権といい,一般先取特権では物上代位性は特に問題とはならないとされている(通説)。財産の一部をなすものが売却・賃貸・滅失・毀損によって金銭その他のものに変わっても,依然として財産全体に先取特権の効力が及ぶためである。[ただし,一般先取特権の登記がされている不動産が第三者に売却されたのちにその不動産が売却・賃貸・滅失・毀損した場合にその第三者が受け取る代償物に対する物上代位性が問題になることがある。] |
2.「抵当権者は、抵当権を設定している不動産が賃借されている場合には、賃料に物上代位することができる。」 |
【正解:○】 債務不履行後の抵当不動産の収益権については,抵当権の効力が及ぶ(民法371条)このため,賃料の支払を求める権利に対して抵当権者は物上代位できる。 物上代位の対象=賃料(民法304条,372条,最高裁・平成元.10.27 {供託した賃料の還付請求権について}) |
3.「抵当権者は、抵当権を設定している建物が火災により焼失した場合、当該建物に火災保険が付されていれば、火災保険金に物上代位することができる。」 |
【正解:○】 火災保険金は『目的物の滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭』に該当し,抵当権者は,その保険金請求権について抵当権者は物上代位できる。 物上代位の対象=火災保険金(民法304条,372条,判例) |
4.「不動産に留置権を有する者は、目的物が金銭債権に転じた場合には、当該金銭に物上代位することができる。」 |
【正解:×】 留置権には物上代位性がないので誤り。 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/rights-ryu-ans2.html ▼留置権は,債務の弁済を促すために,弁済があるまで目的物を返還しないで,債権者が留置する権利であり,留置権には優先弁済を受ける権利はない。 |
●講評 |
担保物権の物上代位性とは,目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者(または物上保証人)が受ける金銭その他のものの引渡しまたは支払を求める請求権に対して,担保権者が権利を行使できることをいう。物上代位性を備えているのは,先取特権,抵当権,質権で,留置権には物上代位性はない。留置権は目的物を留置することによって債務者の弁済を強制する権利だからである。 留置権に物上代位がないことを知っていれば,正解肢を見つけることは容易。本問題を,「物上代位できる対象は何か」を問うていると考えると正解にはたどりつけない。 近年では過去問に出題はなくても民法の基本事項を問う問題が目立つことに注意したい。 |