Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 平成17年・問6 改正施行前の短期賃貸借の経過措置
BはAに対して自己所有の甲建物に平成15年4月1日に抵当権を設定し、Aは同日付でその旨の登記をした。Aと甲建物の賃借人との関係に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定によれば、誤っているものはどれか。(平成17年・問6) |
1.「Bは、平成15年2月1日に甲建物をCに期間4年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Cは、この賃貸借をAに対抗できる。」 |
2.「Bは、平成15年12月1日に甲建物をDに期間2年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Dは、平成16年4月1日以降もこの賃貸借をAに対抗できる。」 |
3.「Bは、平成15年12月1日に甲建物をEに期間4年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Eは、平成16年4月1日以降もこの賃貸借をAに対抗できない。」 |
4.「Bは、平成16年12月1日に甲建物をFに期間2年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Fは、この賃貸借をAに対抗できる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
正答率 | 25.1% |
1.「Bは、平成15年2月1日に甲建物をCに期間4年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Cは、この賃貸借をAに対抗できる。」 |
【正解:○】 抵当権が設定される前に賃貸借の対抗要件を備えていている場合(建物の賃貸借では引渡し又は賃借権の登記),賃借人は抵当権者に対抗できるので正しい。 (抵当権者は,賃借権がついていることを承知して抵当権を設定しているので,賃借人に対抗できないとしても,不利益になるとはいえないからである。) ⇒ 改正前も,施行後も同じ。 15年2月1日 15年4月1日 16年4月1日 ――――●―――――――――――●――――――――●―――――――― 賃借権設定(引渡し) 抵当権設定 改正施行 (抵当権設定より前なので |
2.「Bは、平成15年12月1日に甲建物をDに期間2年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Dは、平成16年4月1日以降もこの賃貸借をAに対抗できる。」 |
【正解:○】 抵当権設定登記後に設定された賃貸借でも,平成16年3月31日までに対抗要件(建物の場合は引渡し又は賃借権の登記)を備えた短期賃貸借(建物では3年以内)が設定されている場合,民法改正の経過措置で,当該賃借人は抵当権者に対抗できるので正しい。 15年4月1日 15年12月1日 16年4月1日 ――――●―――――――――――●――――――――●―――――――― 抵当権設定 短期賃貸借設定 改正施行 (短期賃貸借なので, (1000本ノックでの該当箇所) http://tokagekyo.7777.net/echo_t1_coll/0509.html |
3.「Bは、平成15年12月1日に甲建物をEに期間4年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Eは、平成16年4月1日以降もこの賃貸借をAに対抗できない。」 |
【正解:○】 平成16年3月31日までに対抗要件を備えた短期賃貸借は民法改正の経過措置で保護されているが,建物の短期賃貸借は3年以内であるから,平成16年の民法改正施行前に設定された賃貸借であっても4年では短期賃貸借には該当しないため,改正前もまた改正施行後も,抵当権者に対抗できないので正しい。 15年4月1日 15年12月1日 16年4月1日 ――――●―――――――――――●―――――――――●――――――― 抵当権設定 賃借権設定 改正施行 |
4.「Bは、平成16年12月1日に甲建物をFに期間2年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Fは、この賃貸借をAに対抗できる。」 |
【正解:×】 抵当権の設定登記後に設定され,抵当権者全員の同意の登記のない賃借権は期間の長短に関係なく抵当権者に対抗できないので誤り。 (抵当権者の同意の登記の有無は問題文に書かれていないが,本問題のように書かれていない場合は同意の登記はないものとして考えるしかない。) (肢1から肢3が正しいので,同意の登記はないものと推定することはできるが,受験者の混乱を避けるためにも,できれば書いておいて欲しかったと考える。) 15年4月1日 16年4月1日 16年12月1日 ――――●―――――――――――●――――――――――●―――――― 抵当権設定 改正施行 賃借権設定 なお,抵当権者に対抗できない建物の賃借人には,競売の買受け人の買受けのときから6ヵ月の明渡し猶予があるが(民法395条),このことと混同してはいけない。 |
●講評 |
抵当権に後れる賃借権の取扱の問題。正解肢だけで考えると難問ではない。難問という印象は,短期賃貸借の経過措置を知らない受験者が多かったため。知っていれば基本問題。 抵当権の設定登記後に設定され,抵当権者全員の同意の登記のない賃借権は抵当権者に対抗できない。−知識としては,これだけわかっていれば肢4が正解肢だということはわかるが,市販の基本書では短期賃貸借の経過措置については全く言及していないものが大半なため,肢2・肢3を見て受験者は混乱し,25%という極めて低い正答率になったものと考えられる。 平成16年4月1日に改正施行された現行民法(平成17年4月1日施行分でも)では,経過措置として,「抵当権設定登記後に設定された賃貸借でも,平成16年3月31日までに対抗要件を備えた短期賃貸借は抵当権者に対抗できる」としている(担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律・附則第5条,平成15年8月1日法律第134条)。 以前,借地借家法の経過措置が出題されたことがあり,当サイトでも短期賃貸借の経過措置が出題される可能性があることを指摘していた。 |