Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 平成18年・問5
順位の譲渡・順位の放棄・抵当権の流用・法定地上権・抵当権者の同意の登記
Aは、Bから借り入れた2,400万円の担保として第一順位の抵当権が設定されている甲土地を所有している。Aは、さらにCから1,600万円の金銭を借り入れ、その借入金全額の担保として甲土地に第二順位の抵当権を設定した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。 (平成18年・問5) |
1.「抵当権の実行により甲土地が競売され3,000万円の配当がなされる場合、BがCに抵当権の順位を譲渡していたときは、Bに1,400万円、Cに1,600万円が配当され、BがCに抵当権の順位を放棄していたときは、Bに1,800万円、Cに1,200万円が配当される。」 |
2.「Aが抵当権によって担保されている2,400万円の借入金全額をBに返済しても、第一順位の抵当権を抹消する前であれば、Cの同意の有無にかかわらず、AはBから新たに2,400万円を借り入れて、第一順位の抵当権を設定することができる。」 |
3.「Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前に甲土地上に乙建物が建築され、Cが抵当権を実行した場合には、乙建物について法定地上権が成立する。」 |
4.「Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前にAとの間で期間を2年とする甲土地の賃貸借契約を締結した借主Dは、Bの同意の有無にかかわらず、2年間の範囲で、Bに対しても賃借権を対抗することができる。」 |
<コメント> |
未出題のものが肢1,2の2つあり,さらに正解肢が未出題の問題 (出題者が初出題であることを知らなかったということはありえない) であったため,正答率が低くなっています。 出題者としては消去法で解かせようとしたのだと思われますが,肢2について知っていなければならないため,肢2を知っていたかどうかで勝負が決まったと思われます。 ただ,肢1については,他の法律系の試験の受験者ではよく知られているとはいえ,一般の宅建試験の受験者にとっては"寝耳に水"であったと思われるので,初出題項目の処理の仕方 (初出題であっても得点をもぎ取る方法) を知っておく必要があるでしょう。 |
●出題論点● |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
正答率 | 24.5% |
1.「抵当権の実行により甲土地が競売され3,000万円の配当がなされる場合、BがCに抵当権の順位を譲渡していたときは、Bに1,400万円、Cに1,600万円が配当され、BがCに抵当権の順位を放棄していたときは、Bに1,800万円、Cに1,200万円が配当される。」 |
【正解:○】 甲土地 第一順位 B 被担保債権 2,400万円 第二順位 C 被担保債権 1,600万円 抵当権の順位の譲渡や順位の放棄がなければ,配当金が3,000万円なので,本来,Bは2,400万円満額の配当を受け,Cはその残りである600万円の配当を受けとることができるはずです。(B,C以外に,抵当権者はいないものとする。) これが本来の配当ですが,抵当権の被担保債権と切り離して,抵当権の処分が行われると,この原則が以下のように変わります。
|
2.「Aが抵当権によって担保されている2,400万円の借入金全額をBに返済しても、第一順位の抵当権を抹消する前であれば、Cの同意の有無にかかわらず、AはBから新たに2,400万円を借り入れて、第一順位の抵当権を設定することができる。」 |
【正解:×】 被担保債務が弁済により消滅すれば,抵当権の効力も連動して消滅します(抵当権の附従性)。したがって,Aが借入金を返済すれば,Bの抵当権は消滅します。( ⇒ ※1) このことから,弁済によって消滅したはずの抵当権の登記を新たな抵当権の登記に流用することは,原則として無効と解されています(大審院・昭和6.8.7)。(⇒ ※2) したがって,後順位のCの同意の有無にかかわらず,AはBから新たに2,400万円を借り入れて第一順位の抵当権を設定することはできません。 (※1) 判例では,抵当権の消滅について登記は不要としているものがあります(大審院・大正9.1.29)。 (※2)一番抵当権が消滅する前に二番抵当権が存在していた場合に,本問題のように旧一番抵当権が消滅したにも係らず,その登記が流用されたときは,もともとの二番抵当権が一番抵当権に順位が上がるが,流用された抵当権が二番抵当権になることもありえるとした判例があります(大審院・昭和8.11.7)。 この判例で考えても,やはり,<登記が流用された抵当権が一番抵当権になることはありません>。 しかし,この判例は宅建試験の範囲を逸脱していると考えられるため,今回は,上記の一般的な解説にしました。 |
●関連過去問 |
□抵当権の抹消登記 被担保債権が弁済により消滅しても,抵当権の登記を抹消しなければ,抵当権設定者は,抵当権の消滅を第三者に対抗することができない。 (昭和52年) 【正解】× 【正解】× 解説はこちら。 |
3.「Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前に甲土地上に乙建物が建築され、Cが抵当権を実行した場合には、乙建物について法定地上権が成立する。」 |
【正解:×】 本肢は,<一番抵当権の設定当時には建築物が建築されていなくても,二番抵当権が Bが抵当権設定 乙建物が建築 Cが抵当権を設定 競売 ――――●―――――――――●――――――――●――――――――● 1番抵当権 2番抵当権
これは,第二順位の抵当権が設定される前に建物が建築されても,同じです(民法388条,最高裁・昭和47.11.2)。 |
●関連過去問 |
□更地の上の抵当権では法定地上権は成立しない AがBのためにA所有の更地に抵当権を設定した後,Aが当該更地の上に建物を新築した。この場合,土地について競売が実施されると,建物について法定地上権が成立する。(昭和62年・問5) 【正解】× 解説はこちら。⇒ http://tokagekyo.7777.net/echo_t1_coll/6205.html |
4.「Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前にAとの間で期間を2年とする甲土地の賃貸借契約を締結した借主Dは、Bの同意の有無にかかわらず、2年間の範囲で、Bに対しても賃借権を対抗することができる。」 |
【正解:×】 抵当権の設定登記後に設定・登記され,抵当権者全員の同意の登記のない賃借権は抵当権者に対抗できません(387条1項)。 |
●関連過去問 |
□抵当権の同意の登記 BはAに対して自己所有の甲建物に平成15年4月1日に抵当権を設定し、Aは同日付でその旨の登記をした。 Bは、平成16年12月1日に甲建物をFに期間2年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Fは、この賃貸借をAに対抗できる。(平成17年・問6) 【正解】× 解説はこちら。⇒ http://tokagekyo.7777.net/echo_t1_coll/1706.html |