宅建過去問  権利の変動篇

制限行為能力者の過去問アーカイブス 平成20年・問1 


行為能力に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。(平成20年・問1)

1 成年被後見人が行った法律行為は、事理を弁識する能力がある状態で行われたものであっても、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りではない。

2 未成年者は、婚姻をしているときであっても、その法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は、取り消すことができる。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りではない。

3 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者につき、 四親等内の親族から補助開始の審判の請求があった場合、家庭裁判所はその事実が認められるときは、本人の同意がないときであっても同審判をすることができる。

4 被保佐人が、保佐人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないでした土地の売却は、被保佐人が行為能力者であることを相手方に信じさせるため詐術を用いたときであっても、取り消すことができる。

<コメント>  
 制限行為能力者の本格的な単独問題は久しぶりです。肢1,肢3は平成12年の改正施行後初めて出題されました。肢2,肢4は過去問でも出題歴があります。

 この問題は,確実に取らなければならない問題です。

●出題論点●
 (肢1) 成年被後見人の日用品の購入などの行為については取消すことができない。

 (肢2) 婚姻による成年擬制

 (肢3) 本人以外の者が補助開始の審判を請求するには本人の同意が必要。

 (肢4) 制限行為能力者が詐術を用いたときは取り消すことができない。

【正解】1

× × ×

 正答率  77.2%

1 成年被後見人が行った法律行為は、事理を弁識する能力がある状態で行われたものであっても、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りではない。

【正解:初出題
◆成年被後見人の法律行為

 「事理を弁識する能力がある状態で行われたものであっても」という部分はブラフ〔おどし〕です。正誤判定には関係ありません。

 成年被後見人の法律行為は,成年後見人の同意を受けて行ったものも〔成年後見人には取消権はあるが,同意権はない〕,取り消すことができますが,日用品の購入その他日常生活に関する行為〔食料品,衣料品,公共料金など〕については,取り消すことができません(民法9条)

成年被後見人が本心に復し意思能力が認められれば,婚姻や協議上の離婚をすることができます。成年後見人の同意は必要ではありません(民法738条,764条)。〔養子縁組(配偶者のある場合は原則として配偶者の同意を必要とする)も可能〕

 また,成年被後見人は,事理を弁識する能力を一時回復したときには,医師二人以上の立会いのもとに,遺言をすることができます(民法973条)

2 未成年者は、婚姻をしているときであっても、その法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は、取り消すことができる。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りではない。

【正解:×平成11年・問1・肢3,平成15年・問1・肢2,平成17年・問1・肢4,
◆婚姻による成年擬制

 未成年者が婚姻をしたときは,成年に達したものとみなされ,単独で法律行為をすることができ,未成年を理由として取り消すことはできなくなります。

 未成年者が婚姻したときは,これによって成年に達したものとみなす。(民法753条)

 未成年者が婚姻したときは,民法上は成年者の扱いをします。したがって,婚姻の後は法律行為をするのに親権者や未成年後見人の同意は必要ではなくなります。婚姻をしても法定代理人の同意が必要ということになると,独立した家庭を営むことはできなくなってしまいます。

このほかには,成年擬制によって以下のものが可能になります。

 例・認知されることへの承諾(民法782条),養子をとること(民法792条),遺言の証人又は立会人になること(民法974条),遺言執行者になること(民法1009条)など。

 ただし,民法以外の法律では,原則として成年擬制の効果は及ばないので,結婚していても飲酒や喫煙は禁止されており,選挙権も与えられません。

このほかの成年擬制としては,第6条の『営業が許された未成年者』がありますが,成年者として扱われるのは許された営業に関してのみです。→未成年

    民法  民法以外
 婚姻した未成年者  成年者として扱われる  原則として 

 未成年者として扱われる

 営業の許可を得た未成年者  営業の許可以外では,
 未成年者として扱われる。

通説では,婚姻を解消(夫婦の一方の死亡,離婚)した未成年者への成年擬制の効果は消滅しないとされていますが,反対説もあります。

3 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者につき、 四親等内の親族から補助開始の審判の請求があった場合、家庭裁判所はその事実が認められるときは、本人の同意がないときであっても同審判をすることができる。

【正解:×初出題
◆補助開始の審判

 本人以外の者は,本人の同意がなければ,補助開始の審判の請求をすることはできません(民法15条2項)

 したがって,家庭裁判所は,本人の同意がないときは,補助開始の審判をすることはできません。

四親等内の親族とは,高祖父母,曾祖父母,祖父母,兄弟姉妹,子,孫,ひ孫,玄孫,おじ・おば,いとこ,甥・姪などのことをいいます。⇒ 範囲

後見開始や保佐開始の審判では,本人の同意がなくても,本人以外の者〔ただし,7条,11条で定められた者〕が家庭裁判所に請求することができます

●補助開始の審判 (民法15条)
 (補助開始の審判)

第15条  精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第7条〔後見開始の審判〕又は第11条本文〔保佐開始の審判〕に規定する原因がある者については、この限りでない。

2  本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。

 補助開始の審判は、第17条第一項の審判〔補助人の同意を要する旨の審判〕又は第876条の9第1項の審判〔補助人に代理権を付与する旨の審判〕とともにしなければならない。

※被補助人が制限行為能力者であるのは,補助開始の審判とともに,補助人の同意を要する旨の審判を受けている場合です。 

●参考問題
1) 後見や保佐の場合と異なり,補助の場合には本人に相当程度の判断能力があるから,補助開始の審判をするためには,本人以外の者の請求による場合には,本人の同意が必要である。(旧司法試験・平成15年) 

2) 後見や保佐の場合と異なり,補助の場合には本人に相当程度の判断能力があり,補助人が代理権を付与されただけのときには,補助人の行為能力は制限されない(旧司法試験・平成15年) 

【正解:1),2) ともに

1) 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意が必要。

2) 民法20条1項では,「制限行為能力者とは,未成年者,成年被後見人,被保佐人及び17条1項の審判〔補助人の同意を要する旨の審判〕を受けた被補助人をいう」としている。

 したがって,被補助人が制限行為能力者であるのは補助人に同意権が付与されている場合であり,補助人に代理権のみが付与されている場合の被補助人は制限行為能力者とはいえない。

 なお,被補助人に複数の補助人を付することは可能であり,一方に特定の契約締結についての代理権,他方にそれとは別の契約締結についての同意権を付与することができる。

4 被保佐人が、保佐人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないでした土地の売却は、被保佐人が行為能力者であることを相手方に信じさせるため詐術を用いたときであっても、取り消すことができる。

【正解:×昭和60年・問9
◆制限行為能力者の詐術

 いくら制限行為能力者でも,自分が能力者だと相手方をダマした場合(詐術を用いて誤認させたとき),制限行為能力者を保護する必要はなく,取引の安全と相手方の救済のために,制限行為能力者・保護者のどちらからも取り消すことはできなくなります(民法21条)。これは,被保佐人だけでなく,未成年者,被補助人(同意権を補助人に付与された),成年被後見人にも適用されます。

 民法21条 制限行為能力者の詐術

 制限行為能力者が,(自分を)行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができない。

制限行為能力者が詐術を用いたときは,その法律行為については,保護者の取消権は消滅することに注意してください。

●参考問題
 被保佐人は,第三者が銀行から融資を受けるにあたり,自己が被保佐人であることを単に告げないでその債務を保証した。この場合,は当該保証契約を取り消すことができない。
【正解:×

単純な黙秘は,制限行為能力者の詐術にはならない

 民法21条 制限行為能力者の詐術

 制限行為能力者が,自分を能力者だと相手方に信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができない。

  制限能力者であることを黙秘していた場合は二つに分かれます。

 黙秘についての判例の見解 (最高裁・昭和44.2.13)

 1) 単に告げなかっただけのときは,詐術には当たらない。⇒取り消すことができる

 2) 黙秘が他の言動と相俟って相手方の誤信を強めたときは詐術があったといえる。

                                   ⇒取り消せない

 本肢の場合,は『単に告げないでその債務を保証した』となっているため,単純な黙秘であり詐術にはあたらないので,は当該保証契約を取り消すことができます


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