Brush Up! 権利の変動篇
危険負担の過去問アーカイブス 危険負担の全体像
Aは,Bとの間で,A所有の一戸建て住宅を代金2,000万円で売却する契約を締結し,Bは契約締結当時に代金の半額を支払った。その後,引渡しがされないうちに,この住宅は隣家の不注意により焼失した。この場合,危険負担について特約がなかったとして,次の記述のうち正しいものはどれか。(昭和56年・問10) |
1.「Aは,Bに対して残代金1,000万円の支払いを請求することができる。」 |
2.「売買契約は無効となり,AはBに1,000万円を返還する義務を負う。」 |
3.「Aは,残代金の支払請求はできなくなるが,すでに受け取った1,000万円は返還しなくてよい。」 |
4.「Aは瑕疵担保責任を負うので,Bは,Aに1,000万円の返還を請求できるほか損害賠償も請求することができる。」 |
◆特定物の引渡し債務での不能のまとめ | ||
不能の分類 | 内容 | 法的処理 |
■原始的不能 |
目的物の滅失 契約締結 ――●――――――●――――→ 契約は成立したが、 契約成立時点で給付の実現が不可能。 |
契約は無効 |
■原始的瑕疵 | 契約は成立したが、契約成立時点で、
売買の目的物に瑕疵(欠陥)がある。 |
担保責任(売主の無過失責任) |
■後発的不能 |
契約締結 目的物の滅失 ――●――――●――――→ 契約成立後に、 引渡し債務が実現できない |
債務者に、
帰責事由があるか、ないかで 法的処理は異なる |
(1) 債務者に帰責事由があるもの |
→ 債務不履行(履行不能) | |
(2) 債務者に帰責事由がないもの | → 危険負担 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
【正解:1】 ◆特定物の引渡債務 : 危険負担の『債権者主義』
隣家の不注意により
契約締結 焼失(滅失) ――●――――●――――→ 契約成立後に、引渡し債務が実現できない。
▼危険負担での『債権者』、『債務者』は、売買契約では、所有権を移転すべき債務(引渡し債務)を基準にして、「売主」を『債務者』、「買主」を『債権者』としています。
民法では、特定物の売買契約の成立後、引渡し前に、引渡し債務の債務者(売主)に責任のない事由で、売買の目的物が滅失・毀損した場合は、そのリスクは、原則として、買主つまり債権者が負担する、としています。(534条1項)
しかし、この規定は任意規定であり、実務上では、『民法534条1項の規定は適用しない』特約によって排除することが広く行われています。 問題の誘導文で、「危険負担について特約がなかったとして」とあるのは、『民法534条1項の規定を排除する特約はなかった』ことを意味し、条文どおりに問題を解いてください、と言っています。 ▼民法上の「危険負担の債権者主義」を補うものとして、以下の判例があります。
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●『危険負担の債権者主義』の根拠 民法の規定では、『物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみに因ってその効力を生じる』(176条、物権変動における意思主義)とされており、売買契約が成立すれば引渡しを受けていないにしても買主は、売買の目的物の所有者になっているため、 ・『自分の所有物となったものが不可抗力によって滅失したらそのリスクは自分で負担せよ』 ・『自分の所有物となったことにより、買主には転売をすれば利益が見込める場合もあるのだから,滅失や毀損のリスクも負担するべきだ』 これらが特定物の売買での『危険負担の債権者主義』の根拠とされています。 |
●危険負担は任意規定 |
1.「危険負担に関する民法の規定は強行規定であるから,当事者がこれと異なった特約をしても,それは無効である。」 |
【正解:×】
危険負担に関する規定は任意規定であり、当事者がこれと異なった特約をした場合はその特約に従うことになります。 |