宅建過去問 権利の変動篇 借地借家法
借家権の過去問アーカイブス 平成20年・問14 定期建物賃貸借
借地借家法第38条の定期建物賃貸借 (以下この問において 「定期建物賃貸借」 という。) に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定によれば、正しいものはどれか。 |
1 賃貸人は、建物を一定の期間自己の生活の本拠として使用することが困難であり、かつ、その期間経過後はその本拠として使用することになることが明らかな場合に限って、定期建物賃貸借契約を締結することができる。 |
2 公正証書によって定期建物賃貸借契約を締結するときは、賃貸人は、賃借人に対し、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了することについて、あらかじめ、その旨を記載した書面を交付して説明する必要はない。 |
3 期間が1年以上の定期建物賃貸借契約においては、賃貸人は、期間の満了の1年前から6か月前までの間に賃借人に対し期間満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、当該期間満了による終了を賃借人に対抗することができない。 |
4 居住の用に供する建物に係る定期建物賃貸借契約においては、転勤、療養その他のやむを得ない事情により、賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、床面積の規模にかかわりなく、賃借人は同契約の有効な解約の申入れをすることができる。 |
<コメント> |
定期建物賃貸借については前年の受験者が対策をしてなかったことにより正答率が低かったので,味をしめた出題者が再度出題したものと思われます。そこには「どうせ前年の問題をきちんと理解していないだろう」という見込みもあったと思います。簡単に出題者を喜ばせてはいけません。 |
●出題論点● |
(肢1) 定期建物賃貸借締結について,賃貸人・賃借人の事情に関する要件はない
(肢2) 契約締結前に,書面を交付して「契約の更新がない旨」を説明しなければならない (肢3) 賃貸人は,期間の満了の1年前から6か月前までの間に賃借人に対し期間満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ,当該期間満了による終了を賃借人に対抗することができない。 (肢4) 中途解約権は,床面積200平方メートル未満の居住用建物の賃借人のみ |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
正答率 | 61.6% |
1 賃貸人は、建物を一定の期間自己の生活の本拠として使用することが困難であり、かつ、その期間経過後はその本拠として使用することになることが明らかな場合に限って、定期建物賃貸借契約を締結することができる。 |
【正解:×】平成19年・問14・肢1で出題。 定期建物賃貸借を締結できる要件には,賃貸人・賃借人の事情に関するものは特に何もありません。 公正証書等によって契約をする場合に限り〔公正証書でなくてもよい。要するに口約束ではダメということ〕,契約の更新がない旨を定めること〔定期建物賃貸借の締結〕ができます(借地借家法38条1項)。 ▼本肢は,平成12年の借地借家法の改正施行前の記述の一部から作られた問題です。改正前の記述を誤りの選択肢として混入させるのは,宅建試験のよくあるお家芸の一つです。 |
●期間を一年未満とする建物の賃貸借 | ||||||
期間を一年未満とする建物の賃貸借は,以下のように,扱いが異なります。
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2 公正証書によって定期建物賃貸借契約を締結するときは、賃貸人は、賃借人に対し、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了することについて、あらかじめ、その旨を記載した書面を交付して説明する必要はない。 |
【正解:×】 定期建物賃貸借契約を締結しようとするときには,賃貸人は,契約を締結する前に,賃借人になろうとする者に対して,<契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了すること>について,その旨を記載した書面を交付して説明しておかなければなりません(借地借家法38条2項)。 この「書面を交付しての説明」をしないで定期建物賃貸借契約を締結した場合は,契約の更新がないこととする定め〔定期建物賃貸借の契約〕は無効になり,普通借家契約を締結したことになります(借地借家法38条3項)。⇒ 借家契約のすべてが無効になるのではなく,「更新の定めがない」ことのみが無効になります。 ▼この説明は,賃貸人〔またはその代理人〕がしなければなりません。したがって,定期建物賃貸借の賃貸人から媒介を依頼された宅建業者が重要事項説明の一つとして説明しても,賃貸人がこの説明義務を果たしたことにはなりません〔媒介の宅建業者の重要事項説明に代えることはできない〕。 |
3 期間が1年以上の定期建物賃貸借契約においては、賃貸人は、期間の満了の1年前から6か月前までの間に賃借人に対し期間満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、当該期間満了による終了を賃借人に対抗することができない。 |
【正解:○】 定期建物賃貸借〔期間が1年以上の場合に限る〕の賃貸人は,期間満了の1年前から6か月前までの間に,賃借人に対して,期間満了により賃貸借が終了する旨の通知〔口頭でもよい〕をしなければ,当該期間満了による終了を賃借人に対抗することはできません(借地借家法38条4項前段)。 ●整理●定期建物賃貸借の契約期間による違い
▼建条の通知期間に通知しなかった物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合は,その通知の日から6か月を経過することにより,定期建物賃貸借契約は終了します(借地借家法38条4項後段)。 |
●整理● | ||||||||
必ず書面にしなければならないのか,口頭でもよいのか,整理しておきましょう。
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4 居住の用に供する建物に係る定期建物賃貸借契約においては、転勤、療養その他のやむを得ない事情により、賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、床面積の規模にかかわりなく、賃借人は同契約の有効な解約の申入れをすることができる。 |
【正解:×】平成19年・問14・肢3で出題。 定期建物賃貸借の解約を申し入れることができるのは,<居住用建物のうち,床面積200平方メートル未満のもの>の賃借人に限られるので,本肢は誤りです。 転勤,療養,親族の介護その他のやむを得ない事情により,賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは,建物の賃借人は,建物の賃貸借の解約の申入れをすることができます。この場合,建物の賃貸借は,解約の申入れの日から1か月を経過することによって終了します(借地借家法38条5項)。 ●定期建物賃貸借での賃借人の中途解約権
▼解約の申入れ〔書面でなくても,口頭でもよい〕は形成権の行使なので,解約の申入れについて賃貸人の承諾を得る必要はありません。 |
●定期建物賃貸借 - そのほか,今後,出題が予想される論点 |
1) 定期建物賃貸借で特約ができるもの
・借賃増減請求権 (32条) を排除する旨の特約 ⇒ この特約をしていなければ,定期建物賃貸借であっても借賃増減請求権を排除できない。 ・「賃料を増額しない旨の特約」以外の賃料改定特約 2) 「定期建物賃貸借」と「取り壊し予定の建物の賃貸借」 との比較・相違点 ⇒ 一時使用目的の建物の賃貸借 (40条) との比較が,平成19年・問14で出題されている。 |