Brush Up! 権利の変動篇Notes

制限行為能力者のイントロダクション−問題を解く視点とKEY


 制限行為能力者の問題を解くポイントを整理してみましょう。

成年後見制度とは何か−ノーマライゼーションと自己決定

                 ┌成年後見人
          ┌法定後見保佐人
成年後見制度┤       └補助人
          └任意後見

 ※制限行為能力者は,法定後見の対象の一部と未成年を合わせたものです。

法定代理人

 法律の規定による代理人。→『代理』などの,ほかのセクションでの広義の意味。
 成年後見人や代理権を与えられた保佐人・補助人も含まれます。

未成年者の法定代理人=親権者・未成年後見人

●未成年者の法定代理人
 親権者  親がいるときは、親権者。(子が養子のときは養親が親権者)(818条)
 未成年後見人   親権者がいないとき,または,親権者が管理権を持たないとき,
 未成年後見人が選任される。(838条1号)

親権者であっても,制限行為能力者(未婚の未成年者,成年被後見人,被保佐人,
被補助人)であるときは親権を行使できない。この場合は,未成年後見人が選任される。

未成年者であっても,婚姻をしたときは成年に達したものとみなし(婚姻による成年擬制)
婚姻の解消(一方の死亡・離婚)によっても成年擬制の効力は失われない。(通説)

制限行為能力者とは,どのような人々か?−四つの類型(20条1項による)

 単独で法律行為をすることに何らかの制限がある。

 未成年者 (婚姻による成年擬制を除く)

 成年被後見人

 被保佐人

 被補助人のうち,補助人の同意を要する旨の審判を受けている者
            〔被補助人の全てではないことに要注意〕              

未成年者を除き,ほかの三つは家庭裁判所で後見開始,保佐開始,補助開始の審判を
受けた者
であることも重要です。なお,補助開始の審判は,本人以外の者からの請求
によるときは,本人の同意が必要です
。(15条2項)

 成年被後見人  精神上の障害により,事理を弁識する能力を欠く常況にある者

 (判断力を常に欠く状態にある)

 被保佐人   精神上の障害により,事理を弁識する能力が著しく不十分である者

 (判断力が著しく不十分な状態にある)※軽度の知的障害や認知症

 被補助人   精神上の障害により,事理を弁識する能力が不十分である者

 (判断力が不十分な状態にある)※軽度の知的障害や認知症

保護者の権限の違い

 制限行為能力者  保護者 同意権 取消権 代理権  制限行為能力者が
 単独でできる行為
 未成年者

 (婚姻による
 成年擬制を除く)

 法定代理人       ・単に権利を得,義務を
 免れる行為
・処分を許された財産
・営業の許可を得たもの
 成年被後見人  成年後見人  ×     ・日常生活に関する行為
 被保佐人  保佐人       ・13条の行為以外の全て
 被補助人

 補助人に同意権
 が付与の場合

 補助人       ・審判で定められた13条
 の行為の一部を除く全て

家庭裁判所は,一定の者からの請求によって,特定の法律行為について保佐人・補助人
に,代理権を付与する旨の審判
をすることができる。ただし,本人以外の者の請求によって
代理権付与の審判をするには本人の同意を必要
とする。(876条の4,876条の9)

意思無能力者と成年被後見人の違い

●意思無能力者と成年被後見人のちがい
 意思無能力者  「精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況」にあっても,
 後見開始の審判を受けていない者がこれにあたる。
 成年被後見人   「精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況」にあり,
 後見開始の審判を受けている者。

意思無能力者とは,後見開始の審判をまだ受けていない人のほかには,泥酔者・幼児
など。一般に,7歳程度の知的判断能力があれば,意思能力があるとされる。

●意思無能力者と成年被後見人の無効の主張・取消のできる期間のちがい
 意思無能力者  意思無能力に基づく無効の主張には期間の制限がなく,
 原則として,いつまでも無効だと主張できる
 成年被後見人   追認できるときから5年,または契約時から20年経過すると
 取り消すことができなくなる。

意思無能力者〔意思能力を欠く者〕がした法律行為は無効

(意思無能力による契約無効)

意思能力・・・自己の行為の結果を認識し判断できるだけの精神的な能力。

 民法の条文としては,意思能力について明文の規定はないが,意思能力を前提にしないと契約などの法律行為は成り立たない。

 判例でも,『意思を基礎に行為は成り立つのであるから,意思無能力者の行為は無効である』,としている。〔大審院・明治38.5.11〕

 → 最近の多数説では,『意思無能力を理由とする無効は,表意者からのみ主張し得る性質をもつ無効である』〔誰からも無効の主張ができるとすると,意思無能力者の不利益になる場合でも無効が意思無能力者以外からも主張できることになる。〕としているが,この無効の法的性質については議論がある。

 → 意思無能力による無効の主張をするときには,意思無能力であったことを立証しなければならないがその立証は困難であるとされ,このことが制限行為能力者制度が必要とされる理由になっている。

民法で単に「能力」と言う場合は,権利能力意思能力を指すのではなく,行為能力を意味することが多いとされている。

制限行為能力者の被補助人とは,補助人に同意権を付与する審判を受けた場合

補助人の同意を必要とする行為は、法律の規定で定まっているのではなく、補助人に同意権を付与する審判(補助開始の審判とは別に行います)で特定された行為に限定されます。(17条1項)

 この特定の法律行為は、被保佐人が保佐人の同意を必要とすると定められたもの(13条1項の中の一部に限られます。この同意権の対象となる法律行為は、被補助人の事情の変化に応じて範囲を拡張したり、縮小したりすることができます。

 → 補助開始の審判だけでは,つまり,同意権付与の審判を受けていない場合は被補助人の行為能力は制限されないこと(=特定の法律行為に補助人の同意を必要としない)に注意してください。

 被補助人 

 補助開始の審判

 同意権付与の審判  制限行為能力者

 補助開始の審判

 同意権付与の審判

 代理権付与の審判

 制限行為能力者

 補助開始の審判

 代理権付与の審判  制限行為能力者ではない

補助人に同意権が付与されている場合は、追認権・取消権も与えられます。(20条1項・120条・122条)

 補助人の同意を要する法律行為について、被補助人が、補助人の同意を得ずにした場合は、補助人は当該法律行為を取消、または追認することができます。

補助人に代理権が付与されている場合

 家庭裁判所の審判で、補助人に特定の法律行為について『代理権』が与えられる場合があります。(876条の9第1項、同第2項、876条の4第2項)

各審判の関係

 補助開始の審判(15条),同意権付与の審判(17条),代理権付与の審判(876条の9)はそれぞれ別個で独立した審判ですが,補助開始の審判は他の審判のどちらかと共にすることを要します(15条3項)

 → 『補助開始の審判+代理権付与の審判』では,つまり,同意権付与の審判を受けていない場合は被補助人の行為能力は制限されないことに注意してください。

取消の対象の違いに注意

 保護者の同意を得ないでした場合に
 取り消すことができる
 未成年者 (婚姻による成年擬制を除く)

 被保佐人

 被補助人(+同意権付与の審判)

 日常に関するものを除き,
 取り消すことができる
 成年被後見人

取消し得る行為の範囲 (成年被後見人を除いて同意がないとき)

 未成年者

 (婚姻による
 成年擬制を除く)

 右記の行為を除く全ての法律行為  ・単なる権利取得

 ・単なる義務免除

 ・処分を許された
  財産の処分行為

 ・許可された営業
  に関する行為

 成年被後見人  右記の行為を除く全ての法律行為

 (成年後見人の同意の有無に関係なく
  取り消すことができる。)

 ・日用品購入その他
  日常生活に関する
  行為
 被保佐人  重要な財産行為(13条1項)

 家庭裁判所の裁判で保佐人の同意を要するとされた特定の行為
 13条2項 (日用品購入その他日常生活に関する行為を除く)

 被補助人

 補助人に同意権
 が付与の場合

 家庭裁判所の裁判で補助人の同意を要するとされた特定の行為
 (申立当事者が13条1項から一部を選択)

制限行為能力者の詐術による取消権の喪失 (21条と判例による)

●判例・制限行為能力者の詐術によって取り消すことができなくなる場合
・制限行為能力者が相手方を騙して,自分が制限行為能力者ではないと相手方を誤信させた場合

・保護者の同意が必要なときに保護者の同意があったかのように見せかけて相手方を誤信させた場合

・制限行為能力者であることを黙っていたとしても,ほかの言動とあいまって相手方を誤信させた場合は詐術にあたるので注意。

●注意点
単に黙っていただけでは詐術にはあたらない

詐術にあたる行為が行われてもそれによって相手方が誤信しなかったならば,相手方を保護する必要はない。

取り消しは,誰ができるか

取消は,保護者・制限行為能力者のどちらからもできる。

取消すことができる者 ≒ 追認できる者

 制限能力者  取消の対象  取消権者  追認権者
 未成年者

 (婚姻による
 成年擬制を除く)

 法定代理人の同意を

 得ずに法律行為

 法定代理人

 未成年者本人

 成人後の本人

 法定代理人

 成人後の本人

 被保佐人  保佐人の同意を

 得ずに法律行為

 保佐人

 被保佐人本人

 行為能力者と
 なった後の本人

 保佐人

 被保佐人本人

 行為能力者と
 なった後の本人

 被補助人

(+同意権付与
の審判)

 補助人の同意を

 得ずに法律行為

 補助人

 被補助人本人

 行為能力者と
 なった後の本人

 補助人

 被補助人本人

 行為能力者と
 なった後の本人

 成年被後見人  日常生活に関するもの

 以外の法律行為の全て

 成年後見人

 成年被後見人本人

 行為能力者と
 なった後の本人

 成年後見人

 行為能力者と
 なった後の本人

行為能力回復後の本人…成年被後見人は,行為能力の回復後,
                  取り消すことができる行為で
                  あったことを知った後でなければ,追認できない

              成年被後見人以外は,行為能力回復後(or成人後)ならば,
              取り消すことができる行為であったことを知らなくても法定追認
              したとみなされる場合がある。

未成年者の追認条文には明記されていないが,通説では,法定代理人の同意が
             あれば,追認できる
と考えられている。

被保佐人・ 被補助人(+同意権付与の審判)保佐人・補助人の同意があれば,
                                追認できる。

成年被後見人成年後見人の同意があっても成年被後見人は追認できない。

身分行為について

遺言…遺言は,全ての制限行為能力者(未成年は15才以上)ですることができる。
    保護者の同意を要しない。→ 未成年者(961条),成年被後見人(966条,973条)

    → 未成年者被保佐人成年被後見人

婚姻…未成年者(男18才以上,女16才以上)は,父母の同意を必要とする。(731条,737条)
    成年被後見人は,婚姻について成年後見人の同意を要しない。(738条)

    父母の同意・・・父母の一方が同意しないときは,他の一方の同意だけで足りる。

養子縁組…未成年者は,民法の規定により養子をとることはできない。(792条)
       成年被後見人は,養子をとるのに成年後見人の同意を要しない。  

       未成年後見人・ 成年後見人が被後見人(未成年者・成年被後見人)を
       養子にするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。(794条)


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